誰もが使いやすい、ユニバーサルデザインの理念にもとづくものづくり

誰もが使いやすい、ユニバーサルデザインの理念にもとづくものづくり

土井 幸輝

生活科学部 人間生活学科 教授

#2 ユニバーサルデザインがうまれるところ【土井 幸輝】

人間工学、福祉工学が専門の土井先生は、ユニバーサルデザインを取り入れた製品の開発にも携わっています。「誰にとっても使いやすい」を実現するために、どのような視点を取り入れて開発は行われるのでしょうか。実際の開発エピソードを交えて、お聞きしました。

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川添 前回に引き続き、「誰もが使いやすい、ユニバーサルデザインのものづくり」をテーマにお話をお伺いするのは、生活科学部人間生活学科教授で、人間工学、福祉工学がご専門の土井幸輝先生です。本日もここ、京都にあります同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生、よろしくお願いいたします。

土井 よろしくお願いします。

川添 前回は初回ということで、先生が研究対象にされているユニバーサルデザイン、バリアフリーについて理解を深めるということを目的にして、身近な事例を交えて解説をしていただきました。

土井 はい。

川添 今回は、これらがどのように開発されているのかについて、教えていただきたいと思っております。先生はご専門の人間工学の知識を駆使して、お一人で開発をされているのでしょうか?

土井 一人だけで開発ということとなりますと、なかなか難しいというふうに言えます。

川添 はい。

土井 このユニバーサルデザインの関連の製品開発についても、多くのさまざまな製品の開発と同じように一人の開発では行き届かない部分も出てくると思っています。特に多様な人たちにとって有用な製品の開発を推し進めていくために、この分野は利用者と連携して開発を進めていくことが大事になっています。

川添 はい。

土井 製品開発では、お仕着せの製品設計は多くの利用者の人たちにとって有用なものとして普及していきません。事例をもとに開発現場のお話をしていきたいと思います。

川添 はい、よろしくお願いいたします。

土井 第1回の放送で、シャンプーの容器の側面と天面ポンプの上に付けられた刻み状の突起を、ユニバーサルデザインの一例として紹介いたしましたよね。

川添 はい。

土井 これにより、容器側面や天面ポンプに突起が付けられていないコンディショナーの容器と(突起が付いたシャンプーを)、触っただけで区別することができるので、視覚に障がいのある利用者だけではなく、髪の毛を洗っている間の目を閉じたままでも使い勝手が良いことから、晴眼者、目の見える方々にも有用なデザインとして、各種製品にこうした刻みの突起が触覚マークとして採用されています。

川添さん、ビジネスホテルを利用されることはあると思います。ホテルのバスルームで、シャンプーやコンディショナー、そしてボディソープの容器が並べられていることがあると思いますが、ボディソープだと思って押したらコンディショナーだったとか、あるいはその逆だったとか、誤ってポンプを押してしまったことなどありませんか?

川添 そうですね。あったと思いますし、私自身も視力が低いので、裸眼でよく見えてないというか。なので、どれを使ったらいいかわからない、選ぶのにすごく時間がかかる、そういうことはしょっちゅうありますね。

土井 そうですよね。私も実はコンタクトレンズとか眼鏡を利用していますから、同じようなことだと思います。私以外にもたくさんの方々が同じような経験をされているのではないでしょうか?

川添 きっといらっしゃると思います。

土井 リスナーの皆さんの中にもいらっしゃるのではないかなと、私は思っています。

川添 はい。

土井 (容器の側面や天面ポンプに突起が付けられる前に)そのような問題がたくさんの方々から指摘されるようになって、ある時、私の研究協力者を通して、視覚障がい者団体からの声として、「何も付いていないボディソープの容器の側面と天面ポンプ上に、新たな触覚識別マークを考えて欲しい」という要望がわれわれに寄せられたわけです。

川添 はい。

土井 その要望を踏まえて、視覚障がい者支援に携わる有識者の方、視覚障がい当事者の皆さんと私たちが連携協力をして、そして民間企業の協力も得ながら、新たなボディソープ用の触覚識別マークの開発に着手したということなんです。

その開発をするのに、「触ってわかるようなサンプルを作らなくてはいけない」となるわけですが、それをどうやって作るかというときに、たまたま私たちの研究室で民間企業と協力して、CADを使って任意の形の触覚識別用マークを作ることができる印刷装置を開発していました。当事者の方たちに、「こんなマークがいい」「あんなマークがいい」というのを複数挙げてもらって、その装置を使ってそれらを一つずつ試作して、容器に試作したマークを付けて視覚障がい者の方々にモニター評価をお願いしました。そういう実験を重ねて、ボディソープ用の触覚識別マークを一つに確定することができたということなんです。

川添 なるほど。

土井 確定したところで、研究は終わるわけですが、これを広く皆さんにお届けするということでは企業の協力が必要です。ただ一企業の取り組みですと、その製品一つだけにしか付きません。そこで日本化粧品工業会をはじめとする産業の各団体と連携をして、実際にはこの容器の側面と、天面ポンプ上に1本の凸状の線、容器の側面に線がついています。

川添 ええ。

土井 また、これらの触覚識別マークを包装容器に業界標準として付けてもらうためには、JIS規格といわれる包装容器に関するJIS規格、JIS0021という、包装容器の障がい者、高齢者の配慮設計というようなJIS規格がありまして、JIS規格にこのボディソープ用の触覚識別マークを盛り込んでもらうことで、たくさんの企業がこのマークを付けた容器のボディソープを皆さんに利用してもらえるように、ドラッグストアやスーパーマーケットの店頭で購入できるように現在はなっているということなんですね。

川添 そうだったんですね。この開発は最終的に採用されるまでの間で、どういった点で苦労されたんですか。

土井 そうですね、要望の声が寄せられてから試作品の作製、実験、データ分析に、およそ割ける時間は1ヶ月程度だったんです。

川添 ええー。1ヶ月ですか。

土井 そうなんです。大変タイトなスケジュールが求められたんです。

川添 普通だと、どれくらいの期間が必要なんでしょうか?

土井 そうですね、最低でも半年、1年くらいは欲しいところですね。そのときは、標準規格であるJISに新たなボディソープ用の触覚識別マークを盛り込むための期限が迫っていたタイミングで、1ヶ月くらいで試作品の作製、実験、データ分析を完了させなければならなかったということなんです。

しかし、私がメーカーと協力して独自に開発していた印刷装置が研究室にあったことで、試作品の作製時間が短縮できたんです。そうしたことから実験やデータ分析に短時間でも、少しでも時間を割くことができたということが大きかったと思います。

川添 そうだったんですね。そのように苦労されて実現したボディソープの触覚識別マーク、この実用化の秘話というのでしょうか、お話を先生から直接聞くことができて、びっくりしました。本当にたくさんの方が関わっておられてるということ、そういった短期間で実用化まで進められたというところも、すごく驚きました。また改めて、私も自宅にある手元にあるものを確認してみたいなというふうに思うので、リスナーの皆さんにもぜひ見ていただけたらいいなと思っております。

土井 ぜひぜひリスナーの皆さんにも、ご自宅、あるいはドラッグストア、スーパーマーケット等で、お時間があればぜひ、ご確認いただければ幸いです。

川添 はい。

土井 この事例からも、利用者の意見が製品設計に反映されるということを、皆さんにも少しご理解いただけたかなと思います。多くの民間企業では製品の改善点を改良し、より利便性の高い製品にしていきたいと考えています。また、企業は、利用者の目線で、自社の製品のどこが良い点なのかを知りたいと思っています。そのため利用者である私たちが、ユニバーサルデザインの視点を基盤として、民間企業に対して改善の要望や製品の良いところをしっかりと伝えていくということが、多様な人々が使いやすい製品の普及に繋がっていくと考えています。

川添 なるほど。あまりそういった観点で考えたことはなかったです。使い勝手の良い点、悪い点を声にあげていくということは、すごく大事なことなんですね。

土井 そうですね。

川添 わかりました。最近だと結構SNSで、口コミみたいなのことをちょっとつぶやいてみたりとか、そういった方も多くいらっしゃるんじゃないかなと思うんですけれど、そういったものでもいいんですか。

土井 そうですね。実は研究者もエンジニアもデザイナーもSNSをかなりチェックしています。川添さんがおっしゃるようにSNSで、一定のマナーをしっかりと守った上で適切に情報を、皆さんの意見も添えてコメントをするというのも大切なことの一つです。

川添 ありがとうございます。ちょっと可能な範囲でというところで、皆さん意識できたらいいのかなと感じました。どうもありがとうございます。

土井 はい。

川添 先生はこの他にも、バリアフリーの考え方に基づいた福祉用具の改良にも携わってこられていますので、次回のエピソードでは、先生が携わられた福祉用具の改良のお話について詳しくお聞かせいただきたいなと思っております。また引き続きよろしくお願いいたします。

土井 よろしくお願いします。

川添 ありがとうございました。

土井 ありがとうございました。