#1 調理を科学するとはどういうこと?【村上 恵】
料理のレシピには、「調理のコツ」がたびたび登場します。ではなぜ、そのコツによって料理はおいしくなるのでしょう。調理のコツの根拠を科学的な視点から探る村上先生に、研究のことや調理における効果的な事例をお聞きしました。
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川添 今回は生活科学部食物栄養科学科教授で調理科学がご専門の村上恵先生に、「おいしいも、時短も叶える調理科学」をテーマにお話を伺います。全4回にわたって、ここ京都にあります、同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生、よろしくお願いいたします。
村上 よろしくお願いします。
川添 先生は「調理科学」がご専門ということで、本日から4回にわたってお話をお伺いしていくんですけれども、私たちにとっては調理科学という言葉は、聞き慣れないなと思っていまして。
村上 そうですね。
川添 まずは調理科学の研究内容について先生からご紹介をいただきたいと思うんですけれども、よろしいでしょうか?
村上 わかりました。調理科学というと、「この授業は料理の作り方を教えてもらえる授業」と考えている学生さんが多いんですけれど、そういうことではないんです。今まで料理のコツということがずっと言われてきたと思うんですけれども、そういうところに必ず科学的な根拠があるということが最近わかってきたので、そういう科学的なところを学んでいくのが調理科学となります。
私は学生さんに、いつも「お鍋の中で化学変化が起こってる」と言うんですけれども、何かを煮るときも焼くときも、例えばサツマイモだと、焼き芋にするとすごく甘くなっておいしくなりますよね。そういうところには必ず科学的な根拠があって、サツマイモの中でいろんな変化が起こっているので、そういう変化がどういうものなのかというのを教えているという感じでしょうか。
川添 魔法ではないということですよね。
村上 そうですね。偶然ではなくて。
川添 ということは、例えばですけど、おばあちゃんの知恵袋的なことで伝承されているような、お料理のコツだったりとか、それがおいしくなるコツだったりとか、そういうものを科学的に解明していくというのが調理科学という言い方ということなんですね。
村上 はい、そうですね。
川添 ありがとうございます。今回から4回にわたって調理科学という視点でお料理のことをいろいろ伺っていくことになるんですけれども、私はリスナー代表として、いち生活者という立場で、料理とどのように毎日向き合っているかというところをお話しておこうかなと思います。
村上 はい。
川添 お料理は得手、不得手で言うと、嫌いではないけれども……どちらかというと苦手かな、というような。嫌いじゃないんだけどセンスがないなって、いつも思いながら(笑)お料理をしています。せざるを得ないというか。朝昼晩、昼は仕事があるので作りませんが、子どももいるし、主人もいるしという家庭生活をする中で、やっぱり避けて通れない。
村上 毎日ですものね。
川添 そうですね。そこをセンスはないんだけれど、やりこなさないといけないので、それにどう向き合っていくかというのは、常々ちょっと悩んでいるところです。
特に仕事をして、家に帰るともう夜ですよね。疲れていて時間もあまりない中で、でもおいしいものを食べたいし、あと栄養面がやっぱり気になります。子どもも幼児ですし、家族もちょっと栄養面を気にしないといけないような健康状態だったりすると、あんまり時間をかけられない、簡単にしたいんだけれど、栄養はきちんと取れるようにしないといけないところが、一番の悩みどころです。なので、どう向き合っていったらいいのかというのは、今回から先生にお話をお伺いするので何かヒントをいただきたいなと思っているところです。
村上 そうですね。皆さん多分同じ悩みだと思うんです。私は料理を嫌いになってほしくないので、あんまり肩肘張ってやらなくてもいいと思っているんです。特に仕事もしていて、夜も遅くなって、それで完璧なお料理を作るというのは難しいと思うんです。だから栄養を取るにしても、1日で取れなくてもいい。1週間とか、そういうスパンで考えてもらって作ったらいいのかなと思っていますし、栄養も計算をするわけではないと思うので、私はいつも「上から見て、色を見てください」ということを言うんです。
日本料理で「五味、五色、五法」という、五つの味と五つの色と五つの調理法というのがあります。その中の「色」、それは赤とか黄色とか白、黒、あと緑ですね。それが揃っていれば、ほとんど栄養的にはバランスが取れているんですけれど、そういうことが難しいですよね。だから「今日は茶色ばっかりだったな」と思ったら、次のときに緑を取ろうみたいなことでも、私はいいなと思っています。簡単に栄養のバランスを見ようと思ったら、とりあえず色が1週間でバランスを取れているということをやってもらったらいいかなというのが、いつも皆さんに申し上げてることなんです。
川添 なるほど。色を見るだけだとハードルはかなり低いですし、どんな食材にどれだけの栄養素があってとか、そんなことも一切考えなくてもいいというのは、すごく気が安らぐというか、今聞いただけでも本当に思います。五法とさっき出てきましたけれど、五法というと…。
村上 生もあるんですよ。
川添 あ、生もそうなんですか。
村上 生、あと焼く、蒸す、揚げる。
川添 煮るとかも。
村上 煮るもありますね。
川添 ということは、そういった調理法によっても、その食材の栄養素がどう生かされるとかも違うんですよね。
村上 そうですね。
川添 例えば、というところで。
村上 沖縄料理が私は個人的に好きで、ゴーヤーの研究とか沖縄野菜の研究をしていたことがあります。ゴーヤーチャンプルーというお料理がありますよね。チャンプルーというのは炒める調理なんですけれども、ゴーヤーにはビタミンCがすごく多くて、それを炒めると減らないということがわかっています。そうすると、調理法と食材を生かすことがすごくマッチした料理だと思います。炒めるという調理法はゴーヤーに限らず、水溶性のビタミンを保持するということがわかっています。
川添 そうなんですね。
村上 炒める調理と水溶性成分というのは、(ビタミンが)残るという意味では、いいかなと思っています。
川添 そうですか。今、ゴーヤーのお話が出てきましたけど、他のお野菜とか、芋類とかもそうですか。
村上 そうですね。さっきもちょっと言いましたけれども、サツマイモもビタミンCがすごく豊富で、ジャガイモももちろんそうですが、こういうものもビタミンCは実は保持されると言われています。これはデンプンがたくさん入っているので、そのデンプンがビタミンCを守ってくれるといわれています。でも調べていくとジャガイモよりもサツマイモの方がより(ビタミンCを)守っていて。
川添 そうなんですか。
村上 それを調べていくと、サツマイモのほうが、糖が多い。(サツマイモのほうが)甘いですよね。甘いので、その甘みの成分が(ビタミンCを)守っているんじゃないかと今、言われています。
川添 そうですか。そういうお話も、科学的に解明されていっているということですか。
村上 そうですね。
川添 例えばですけど、加熱の時間とか、そういうことも細かく見ていくようなことなんですか。
村上 はい。ただ調理なので、やはりおいしく食べられる時間で見るということにはなります。
川添 なるほど。
村上 実験のときはもちろん経時的にどうなるかというのは見るんですが、通常、なぜこうなるのかというときは、日常の食べる条件で(実験を)やるというのが多いです。まずは食べる条件で見ていくということになります。
川添 そうなんですね。炒めるお料理が私自身、一番することが多いなと思いながらお聞きしていて、ということは、比較的、栄養素もきっちり残った状態で食べられているのかな、と思ったんですけれど。
村上 はい、油で炒めますよね。
川添 そうですね。
村上 その油に溶ける成分は、油と一緒に摂取ができるので大丈夫です。
川添 ああ、そうなんですか。
村上 赤色色素、カロテノイドといわれている赤色色素は油に溶けるので。油で炒めて食べるほうが、吸収がいいといわれています。野菜炒めは、ニンジンとか野菜をいろいろ入れて食べてもらうと、もうそれだけで十分。
川添 そうなんですね。だから、そこに食材をできる限りたくさん入れるとまた良いってことですよね。
村上 はい、そうです。おみそ汁とかに全部入れちゃうというのもあります。
川添 そうすると品目というか、お料理の品数を増やさなくても。
村上 そうです。それが一番だと思います。本当に働いてる方は遅くなって大変なので。
川添 そうか、そういう工夫をしていけば、ほんのちょっと視点を変えたらいいというのは、今すごく感じたところですね。わかりました。調理科学はこういうふうに研究を進めていくことなんだな、というのが何となくイメージが湧いてきたので、次回以降、あと3回お話をお伺いしていくんですけれども、今出た加熱ということだったり、逆に食材を冷やして保存するとか、そういうことも日常的にはよくあるのかなと思いますし、そのあたりも含めてお話をどんどんお聞きしていきたいなと思っております。第1回、初回はこのあたりにさせていただきまして、また次回以降よろしくお願いいたします。ありがとうございました。
村上 ありがとうございました。