#3 水から? 沸騰してから? 加熱のヒミツに迫る【村上 恵】
加熱調理には、ゆでる、煮る、焼く、揚げる、蒸すと、さまざまな調理方法があります。そんな加熱と食材の特性を知れば、効率的においしく料理を仕上げることができるはず。加熱の特性とともに、料理に欠かせない調味料の扱い方もお聞きしました。
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川添 前回に引き続き、生活科学部食物栄養科学科教授で、調理科学がご専門の村上恵先生に、「おいしいも、時短も叶える調理科学」をテーマにお話を伺います。本日もここ、京都にあります、同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生、よろしくお願いいたします。
村上 よろしくお願いします。
川添 3回目のエピソードになりました。前回は食材の冷凍についていろいろ教えていただいたんですけれども、今回はその真逆といいますか、熱するということですね。加熱調理についていろいろとお聞きしたいと思っております。(収録をしている7月の)今はすごく暑いので、加熱料理をするのもハードルが高いですよね。
村上 この間、炒め物を多くされるということでしたね。
川添 子どもがたくさん食べられる、食べやすい食事となると、やっぱり焼くという調理が一番で、特にお野菜なんかはクタクタに煮たりするよりも、お肉や麺類と一緒に焼いてしまわないと、なかなか食べないところがあって、必然的に炒める料理が多くなっちゃいますね。
村上 煮物とかはあんまり食べないですか。
川添 煮物もします。お魚料理が結構好きで、これは子どももよく食べるんです。煮魚は煮汁を作ってお魚入れたら、もうほぼ完成するので自分もラクできることもあり、煮魚は結構すると思います。
村上 煮魚はどうやって作られますか。煮汁を作って、その後、お魚はどのタイミングで入れるかとかはありますか。
川添 私は煮汁を作って、先に沸騰というかひと煮立ちさせてからお魚を入れることがほとんどです。
村上 そうですよね、それが正しいです。
川添 良かった!
村上 沸騰させて入れてもらうと表面が固まります。先に表面を固めてあげてからちょっと弱火にして煮ると、お魚の成分が出にくくなるので、そのほうがいいと言われているんです。
川添 そうなんですね。
村上 あとショウガも…あ、子どもさんがいらっしゃったら、ちょっと辛いから入れないかもしれませんね。
川添 でも最近、徐々にですけれども、入れるようにはしています。たくさんは入れないですけれども、少し加えたりはするようになってきました。
村上 お魚ってちょっと臭いがあるので、ショウガはその臭いを消すのに使ったりもするんですけれど、沸騰してから入れてもらうほうがいいと思います。最初から入れないで作ってみてください。
川添 煮汁は熱してからお魚を入れるのが正解と先生はおっしゃいましたけれど、冷たいまま(調理を)スタートするということも、チラッと聞いたことがあるなと思っていて。
村上 よくありますね。そういうことも言われていたりするんですけれど、さっきも言いましたが、お魚って臭いがあるので冷たいところから入れてしまうと、その臭いが全部煮汁に移ってしまったりします。できれば加熱したところで入れていただくのがいいかなと思います。料理人の方とかは、冷たいところから入れていらっしゃることもよくあるんですけれども、その場合、最初に湯引きというのをされています。沸騰したお湯にちょっと通して表面のぬめりを取ってから、煮汁が冷たいところから始めるということをされている方もいらっしゃいます。その場合は(湯引きで)臭みが取れているので、冷たいところからでも大丈夫なんです。けれども、普通はなかなかそこまで手間をかけないので、そのまま入れる場合は、沸騰したところに入れてもらうほうがいいと思います。
川添 そうなんですね。ショウガは煮汁を温めてから入れたほうがいいというお話もありましたけれど…。
村上 ショウガはプロテアーゼといって、タンパク質を分解する酵素が入っているので最初から入れてしまうとそれが作用してしまう可能性があります。なのでちょっと沸騰してから入れるほうが、臭みを取るにはいいかなと。
川添 そうなんですね、ありがとうございます。今、煮魚のお話をしているところで、フト思ったことを言いますと、調味料をたくさん使いますよね。調味料はあまり保存に意識がいっていないというか、大きな瓶で買ったらそのままシンクの下に瓶ごと放置していたりとか、片や冷蔵庫に入っているものがあったりとかいろいろです、私の家の調味料は。どのように保存するのが正解なんですか。
村上 それは悩むところだと思うんです。私もそういうことを聞かれた機会があって、いろいろ調べてみたんです。調べたところによると、しょうゆは関西の場合は薄口しょうゆが多いですし、全国的には多分、濃い口が多いと思うんですけれども、おしょうゆというのも醸造しているといいますか、発酵している調味料なので、ずっと置いておくと、どんどん色が濃くなってくるということが起こるんですね。
なので普通でしたら、今言われたようにシンク下に置いていただくというのはありだと思うんですけれど、今はあまりにも暑くて、暑いと反応が進むので、冷蔵庫に入れたほうがいいですよというお話をしています。特に二重パックになっているような、「長期保存ができます」という容器がありますよね。あれは二重になっていて、おしょうゆが出ていくと、中の袋が縮まって酸素に触れないようになっているから酸化しないっていうことで、常温で保存できますとなっています。ただ暑いと気温で反応が進んでしまいますし、今の住宅ってすごく気密性が高く温度も上がりやすいので、野菜室とかでいいと思うので、冷蔵庫に入れていただいたらいいかなと思います。
川添 おしょうゆとかみりんとか。
村上 みりんもですね。みりんも色はつきますよ。透明なんですけれど、気がついたら茶色になっているっていうことが。
川添 はい。ちょっと身に覚えがあります。
村上 それも野菜室とかに入れておいていただくと、ずっと透明のままなのでいいと思います。たまに冷えすぎると、糖が固まっちゃうことがあるんですけれど、加熱すると溶けます。問題はないので、冷蔵庫に入れてもらうほうがいいかなと思います。ただお塩とかお砂糖というのは入れないほうがいいです。吸湿して固まってしまうので。
川添 そうか、冷蔵庫の中の湿気で。
村上 はい、湿気でそうなってしまうので、常温で保存していただくほうがいいと思います。
川添 なるほど、1回、外に出ているものを確認してみないといけないですね。ありがとうございます。調味料のことは普段あんまり気にしないので、お伺いしてよかったです。
村上 あと、みりんはアルコールが多いので、きちっとふたをしてもらって、じゃないとアルコールが飛んでしまうので。そういうこともちょっと注意していただいたらいいかなと思います。
川添 ありがとうございます。煮物の話をしてきましたけれど、ほかに加熱料理というと、初回のときに炒め物をたくさんするという話もしましたし、ほかに焼くがあったり、あと蒸すということだと、お野菜なんかは蒸し料理だと栄養価もきちんと残っていいよというようなことを聞いたりもしていまして。
そこで一つ疑問というか、これも時短というところでいくと、電子レンジで加熱をする、蒸すにしても密封容器に入れてレンジ蒸しみたいなものがありますけれど、電子レンジを使った加熱、蒸すということと、火を使うというのは、何か違いがあったりするんですか。
村上 多分、火で蒸すほうが早いとは思うんです。水蒸気を外から出して、その熱で蒸すので。電子レンジの場合は、その食材そのものの水分を使っていくので、そうするとどうしてもちょっと時間が長くかかると思うんです。ただ手軽さという点からいうと、蒸し鍋を出してとか、蒸し鍋がなかったとしてもお水を張ってお皿を置いてその上に食材を乗せるという操作をするか、電子レンジで蒸せるものがありますよね。そういうものを使うと、もっと簡単にできるし、蒸している間に他のことができるということを思うと、スタイルに合わせてやっていただいたら、そんなに変わるということはないと思います。電子レンジでやったからダメとか、火でやったからいいとかということは、あまりないと思います。
川添 そこは科学的に栄養価の残り方が全然違うとかそういう話ではなくて。
村上 はい、ないですね。
川添 スタイルによって使い分けるというような感覚でいたらいいという感じなんですね。あと、私の加熱での悩みで今思い出したのは、お肉の焼きすぎ問題というか(笑)。鶏肉とか中までしっかり火を通そうと思って焦がしちゃったり、もう水分が全部飛んじゃってパサパサのお肉になっちゃったりとかします。栄養面でもそうですけれど、おいしさというのをきっちり残せるお肉の加熱の仕方というのは、すごく聞いてみたいと今思い出したところです。
村上 それは多分、皆さんおっしゃるところだと思うんです。鶏肉は特に分厚いものは火が通りにくいので、焦げ目だけをつけるときだけ強火にしてもらって、表面を焼き固めておいたら、肉汁が出にくくなります。その後は弱火でふたをして、じっくり焼いてもらう。あとは竹串を刺して透明な液が出てくるようにしていただくか。もし切ったときにアッと思ったら、もう電子レンジですよね。電子レンジで加熱いただくということになるかとは思います。
あとは、保温するとかもありかもしれないですね。そのまま焼いて置いておく。余熱で火が入っていくということもありますので弱火でやっていただいて、その後すぐに上げずにしばらく置いておく。
川添 もう自然に任せるという感じですね。
村上 そうですね、保温調理じゃないですけれど、そういうものも利用していただくとか。そうすると火は気にしなくてもいいので。すみません、ちゃんとした回答ができていないかもしれない。
川添 私も調理の悩みみたいなお話をしてしまっています。ありがとうございます。でも多分皆さん本当に日々の料理の中で、得意な方でもきっと何かお悩み事ってあるんじゃないかなと思ったりするので、そんなお話も聞けてよかったなと思います。
初回からお聞きしていて、科学的な根拠というのがやはりあるんだなというところはすごく感じていて、そういう知識をほんの少しだけでも私たちが知っておくだけで、よりおいしさだったり、栄養がある食事に近づくことができてしまうのは、今、お話を聞きながら実感しているところです。
村上 時々、「私って天才かもしれない」っていうくらい、うまく料理ができるときがあると思うんです。その理由がわかっていると、それを再現できるからいいよねという話を、学生さんによくするんです。
川添 たまたまではないと。
村上 そうです、そうです(笑)。
川添 手間暇をかけることが美徳みたいなイメージが料理に対してあったりしますけれども、そうではなくて理論的なことを知識として知っておくだけで賢くお料理と向き合っていけるのかなと思いました。すごく初回から勇気づけられています。
村上 ありがとうございます。
川添 ありがとうございます。次回は最終回になるんですけれども、先生が研究を進められている食、調理科学という専門の分野について、今、注力して取り組まれていることだったり、研究されている内容のことを、いろいろ伺いたいと思っております。最後までぜひお付き合い、よろしくお願いいたします。
村上 よろしくお願いします。
川添 本日はありがとうございました。
村上 ありがとうございました。