私たちの生活と多文化共生

私たちの生活と多文化共生

﨑 ミチ・アン

表象文化学部 英語英文学科 准教授

#1 改めて考える、多文化共生ってなんでしょう?【﨑 ミチ・アン】

日本における在留外国人数は、2023年末で約342万人と過去最高を更新したのだそう。ここでキーワードになるのが「多文化共生」。カナダの大学で日本語を学んだ後、日本の大学院に進学し、今も日本で暮らす﨑先生に、多文化共生について教えていただきました。

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Transcript

川添 今回は、表象文化学部英語英文学科准教授で社会言語学がご専門の﨑 ミチ・アン先生に、「私たちの多文化共生」をテーマにお話を伺います。全4回にわたって、ここ京都にあります、同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生、よろしくお願いいたします。

 はい、よろしくお願いします。

川添 今回から新しいテーマで﨑先生をお迎えいたしました。ちょっと緊張されていると、先ほどからお話しされているんですけれど。

 はい、緊張しています(笑)。

川添 リラックスしていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。先生は社会言語学がご専門と先ほどご紹介させていただいたんですけれども、社会言語学や異文化コミュニケーション、多文化共生社会学をキーワードに今研究をされているということですが、これらは私たちにはなかなか聞き慣れないものなので、どんなテーマで研究を進められているかということを、まずはご紹介をいただきたいと思うんですが。

 わかりました。社会言語学という学問なんですけれども、簡単に言えば言語と社会ですね。社会で言語がどういうふうに使われているのか、社会でどうなっているのかという専門なんですけれども、今研究をしているのは、多文化共生社会についてです。日本における多文化共生社会なんですけれども、特に外国にルーツを持つ子ども、外国が背景にある方の家族についての研究です。

川添 ありがとうございます。今先生がおっしゃったように、日本の国内で私たちが生活している中でも、外国にルーツを持つ方をお見かけすることも、接することももちろん多くなってきたのかなという感じはあります。そのあたりまず今回は初回ということで、多文化共生って何かなというところから、お話をお伺いしていきたいと思います。本当に耳にする機会が多いんですけれども、どういう意味なんでしょうか。この多文化共生という言葉について、いかがですか。

 多文化共生って、よく耳に入ると思うんですけど、例えばテレビとかで「多文化共生」「多文化共生社会」という言葉が使われて、流行というかよく聞かれるんですけれども、「多文化」の漢字を見ると、いろいろな文化、たくさんの文化で、「共生」は共存するという意味です。日本に来ている外国人が増えて、観光客と違って日本に来て日本で働く、日本に住む外国の方なんですけれども、それは外国人市民として日本にいらっしゃるわけです。日本で生まれ育った市民が、外国人市民とどう関わったらいいのか、どういうふうに一緒に暮らすのかというテーマで多文化共生という概念があって、いろんな課題があるんです。

川添 ありがとうございます。私自身は日本人で、日本で生まれて日本で育って日本で今暮らして、外国で暮らしたことがないので、日本にいる立場からすると、そういった外国にルーツを持つ方を受け入れる側という立場です。先生がご研究されているのは受け入れる立場である日本の私たちが、外国にルーツを持つ方とどういうふうに一緒に社会活動をしていくかということと、逆に外国にルーツを持つ方がどういった課題を持たれていて、その方々が日本で快適に暮らしていくにはどうしたらいいかという、両方の面から研究をされているという解釈でいいのでしょうか。

 そうですね。まずは何で多文化共生が今話題になっているのかについては、日本では外国人が増えてきている、移民されている外国人が多いのですが、元々日本では外国人が他の国よりも少ないです。他の国ですと、すごく移民を受け入れて増えています。例えばカナダでしたら、カナダ人と外国人という意識があまりなくて、カナダに来た外国人と一緒に住むという感覚はなくて、移民した外国人でもみんながカナダ市民、カナダ人という感じです。でも日本では外国人が来ても観光客と間違えて「市民」という意識はなく、外国人と接する機会もどちらかというと少ない。外国人市民が増えているということで、どういうふうに外国人市民を受け入れたらいいのか、どういうふうに共存すればいいのか、それにはいろいろな課題、いろいろな問題があって、どう解決できたらいいのか、そういう研究を今しています。

川添 先生ご自身もご出身はカナダでいらっしゃいますね。

 はい、そうです。

川添 カナダから日本に来られて、かなり長くお住まいでいらっしゃるんですか。

 そうですね、日本に来て今年で28年になるんですけれど。

川添 本当に長い。

 半分の人生が日本なんです。

川添 カナダから日本に最初に来られて、暮らし始めてという時期だとか、そこから日本での暮らしの中で先生ご自身が当事者として、「こんなことがあったな」とか「困ったな」とか、そういうご経験をたくさんされてきたということも、根底にはあるんですか。

 日本語はある程度できたとはいえ、まだわからないことや、初めて来たときには、やはり言葉の壁、文化の壁もあって。日本に初めて来たときに、カナダと同じく日本でも多文化共生ではないかという考え方だったので、日本に来たときにすごいびっくりして、受け入れたというか、受け入れた方もいらっしゃったんですけれども、そうでもないときもあって、ちょっとカルチャーショックというのもありましたね。

川添 その頃と比べて、今の日本の社会の中で先生が見られて、変わってきたなとか、感じられることってありますか。

 そうですね、20年、もうすぐ30年になるんですけれども、変わっているところもありますね。グッと変わっているのではなくて、これからちょっと日本もがんばらないと、他の国についていけないと思いますし、だいぶ遅れていると研究者としても、当事者としても私は思っています。

川添 具体的にお聞きできますか、どんなところが変わってきたなということと、あとどんな課題がまだまだあるなというところなんですが。次のエピソードにもつながってくるので、あまり詳しくというところは、ちょっと控えておきたいですが。

 日本の場所によって違うと思うんですけれども、関西では外国の方が30年前より増えていて、外国人と接する機会がすごく多くなってきました。例えば30年前の小学生って、外国人と会ったことがない、話したことがない状況だったんですけれども、文部科学省の国際事業として英語指導助手とか、例えば小学校、中学校に外国人の先生が来て配属されて、そういうことが増えていって、学校では外国人の先生が増えてきているので、子どもが外国人と接することが増えています。なので外国人を見てもそんなにびっくりしないで、普通に接することができたことが一つです。まだ変わっていないのは、外国人と接する機会があるにはあると思うんですけどあまりしゃべることができなくて、まだ接する機会は少ないと思いますね。

川添 たしかに観光の方って、我々は京都の大学なので京都だとすごくたくさんお見受けしますし、私の住んでる地元でもそうなんですが、観光の方はたくさんお見受けするんですけれど、そういう方と接することもない、もう一歩踏み込んで日本で暮らしている方と接する機会というのは私自身、正直まだ機会は多くないのかなというふうにも感じています。

そうするといざ、外国ルーツの方と接するときに、「私、ちゃんとお話しできるかな」とか、ちょっと身構えちゃうというのが本音のところなんです。そういうハードルみたいなものをとっぱらっていく意識を持てないと、共生社会というところの解決にはなかなかつながっていかないのかなって。その意識をどうやったら変えていけるのかなというのが、今私の中でもよくわかっていないところです。今日のお話ではこのあたりにしておいて、また次、2回目以降のお話のところで、もう少し具体的な日常生活のシチュエーションを取り上げていきながら詳しくお話をお聞きしていきたいと思います。また引き続きよろしくお願いいたします。

 はい、よろしくお願いいたします。

川添 ありがとうございます。

 ありがとうございます。