#2 子育てシーンで多文化共生を考える【﨑 ミチ・アン】
地域や学校で、外国にルーツを持つお子さんや保護者に会うことがあるかもしれません。日本で子どもを育てるとき、どのような悩みや問題を抱いているのでしょうか。研究から見えてきたこと、私たちにできることを伺いました。
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川添 前回に引き続き、表象文化学部英語英文学科准教授で社会言語学がご専門の﨑 ミチ・アン先生に、「私たちの多文化共生」をテーマにお話を伺います。本日もここ京都にあります、同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生、よろしくお願いいたします。
﨑 よろしくお願いします。
川添 前回に引き続き多文化共生をテーマにお話を伺っていくんですけれども、2回目の今回は少し日常生活の具体的なシーンに落とし込んで考えていきたいと思っています。今回は子育てシーンということで取り上げてみたいと思います。私自身も以前からこの番組でお話ししている中で「絶賛子育て中ですよ」という話はいつもしているんですけれども、そんな中で子どもの身の回りだったりとか、親としての立場で身の回りで起こり得ることだったり、想定される中で、多文化共生というのはどういうことなのかというあたりで、お話をお聞きしていきたいなと思っています。
私自身は1回目でも話したと思うんですけれど、身の回りで外国にルーツを持つ方と接しているという感覚が正直あまりなくて。子どもの保育園でもそうですし、自分自身がそういった方との交流をしたりとか、関わるという機会が少ないんですよね。先生ご自身の身の回りではいかがですか。
﨑 そうですね。私の子ども今15歳なんですけれど、保育園に入ったときにママ友ができて、私の知っている範囲では私以外は外国人のママさんがいらっしゃらなくて。もしかしていらっしゃったかもしれないんですけれど、外見ではそれはわからなくて。私は顔を見ると外国人とわかるので、日本語はちょっとできますし、積極的にちょっと強引な性格もあるので、友達ができたりしているんですけれども。外国にルーツを持つ子ども、家族は少ないと他のママさんには言われるんですけれども、いらっしゃると思います。
川添 そうですよね。お話をしながらそういえばって、今ふと思い出したんですけれど、子どもが0歳児で育休中に、地域の子育てサロンとかに行くと、いらっしゃいました。おそらく外国ルーツの方だろうなというお母さんと0歳児の赤ちゃん親子の方いらっしゃって、顔を合わせるとその場で子どもを介してお話をしたことがあったなって、今ふと思い出しました。すごく楽しかった思い出があります。そういった方々が日本国内にいらっしゃると思うんですけれど、日本で暮らして生活をし、子育てをということ考えたときに、皆さんどんな課題を持たれているんでしょうか?
﨑 やっぱり子どもがまだ小さい頃は、いろんな悩みがありますよね。日本人のママさんもいろいろな悩み、心配もあるんですけれども、外国が背景にある家族、お母さん、お父さんは、それ以上の悩みがあると思うんです。例えば言語の壁とか、日本の生活とか、日本の文化とか常識とか、慣れていないままで日本での子育てをどうすればいいのか、いろんな悩みがたくさんあると思うんですよね。
川添 そういった悩みを持ったときに、その方々ってどういうふうに解決していく術があるのか方法があるのか、そのあたりについて日本はどういう国なんだろうというのが、今すごく興味が湧いてきてるところなんですけれど。
﨑 私の研究と、あとは当事者として今までの経験、他のママさんと話すときに、まずは誰に相談したらいいのかが一番悩みで、例えば区役所とか市役所とか保健所とか、行けばいいんですけれども、やっぱり言葉の壁もありますし、あとは文化の壁もあります。区役所など支援できるところに行っても本当に話ができるかどうか不安もすごく多いと思うんです、私もそうだったんですけれども。私の悩みをわかってくれるのかなとか、普通の日本人の家族と悩みが違うから、どういうふうに受け入れられるかという心配もありますし、本当にわかってくれるかという心配もあるので。そして、心配があってもあまり迷惑をかけたくないから、その悩みと心配を溜めてストレスになってしまって、家にこもったりするケースも多いですね。
川添 やっぱりそうなんですね。市役所とかいろんな場所に行けば、もしかしたらわかるかもしれないけれど、その足を運ぶっていうアクションがやっぱり必要ですよね。
﨑 そうですね、勇気を出さないと、本当に勇気を持っていかないとなかなか難しいですね。私もそうですし、私の研究でお母さん、お父さんへの聞き取り調査をすると、一番ハードルはそれですよね。
川添 そうなんですね。今の私自身の環境で言うと、子どもを保育園に預けているからその場で接する保育園の先生だったり、今後小学校に行くことになったら小学校の先生だったり、そこで知り合うママ友だったりとか、そういう身近に自然に接する方々ときっちりお話しできる関係性が築けていれば、何か少しでも解決できることなのかなと思うんですけれど、そのあたりはいかがですか。
﨑 保育園もそうですし、小学校もなんですけれどPTAとかママ友グループもあって、そこに外国ルーツの家族が来て、どういうふうに外国人のお母さん、お父さんに声をかけたらいいのか、まずその第一歩ですね。でもなかなか言語の壁があるというか、英語がわからない、中国語がわからない、韓国語がわからない、インドネシア語がわからないから、それなら(話しかけるのを)ちょっとやめておこうとか、あまり関わりたくないっていう父母さんが多いと思うんですよね。一方、外国人のお母さん、お父さんも話しかけたいんだけれどもでも、日本語はそんなに上手ではないし、私が言ってることはわかるのかな、迷惑をかけたくないからそれも控えて、友達もなかなかできないんです。だから両サイドで遠慮して、間違いを恐れてなかなかコミュニケーションができない。それが10年、20年前も今も同じ課題になってると思うんですよね。
保育園、小学校の先生にも、前にちょっと研修をしてたんですけれど、一番の悩みがコミュニケーション。言語のコミュニケーションもそうなんですけれど、あとはどういうふうに接すればいいのか、それが一番課題になってるんですよね、先生たちは。お母さん、お父さんに伝えたいんだけれども、どういうふうにすればいいのか。プリントとかいろいろ出しているんだけれど、返してくれないとか、それはなぜなのか、日本語がわからないのか、やりたくないのかという誤解が発生したり。
川添 なるほど。言葉のこともそうだけれど、言葉がわかって少し会話はできたとしても、そのプリントなり提出物なりというのが、何でこれが必要なのかとかそこまでご理解いただくことが、やっぱり難しいということがあるんですね。
﨑 そうですね。
川添 出さないといけない側も、なんでこれを出さないといけないのかというのが、簡単に聞けたらいいんだけれど、それもしにくいと。
﨑 しにくいですね。例えばお母さんが外国人で、あんまり漢字とかがわからなくっても、旦那さんが日本人だったら相談はできると思うんですけれど、そうではない場合(保護者が二人共外国人の場合)は誰と相談したらいいのか。先生は忙しくて私のために時間をかけて説明する時間がないみたいで、プリントを提出しないといけないのに、よくわからなくてそれをもう諦めて出せないときもあります。あとは保育園のときに手帳がありますよね。
川添 連絡帳ですね。
﨑 いっぱい書かないといけないじゃないですか。私もそうですけれど、日本人だったらそんなに時間がかからないんですけれども、私の場合は2倍、3倍の時間がかかって、漢字はどうだ、何を伝えたいのかを英語から日本語に考えて、すごい時間がかかりましたね。それを出さないといけないとわかっていてそうだったんですけれど。日本語がある程度できたので(提出も)できたんですけれど、漢字があんまりわからない、書けない保護者さんはすごく大変だと思います。
川添 そうですね。そういったときにそれぞれ個々に合わせて、例えば書くのはだめだけれどお話は比較的しやすいから、連絡帳でやり取りするのは難しいけれど、登園したときに先生と必ずお話をするっていうことで連絡事項をちゃんと伝える手段を持ったりとか。何か他の方法だったらできるかもしれないとか、そういうことを一緒に考えていけるといいのかなとも思うんですけれど。今は親の立場での困りごとみたいなことを聞きましたけれど、子どもの立場での、外国ルーツの方々の困り事というのは、どんなことがあるんですか。
﨑 子どもたちはね、いろんなストレスがあると思うんです。自分で決めて日本に来たわけではなくて、お母さん、お父さんが決めて日本に来たことですので、そういうレッスンも全然してないところで小学校も保育園も入れられて、全然言葉、文化も違うのはすごくストレスになってると思います。子どもはすぐ友達ができる、言語はできるんですけれども、でも本当に子どもたちも大変だと思います。
川添 スキルの面では、言葉だったり、読み書きということだったり、文化になじんでいくという面では大人よりもっと柔軟性があって、なじみやすいかもしれないですけれど、確かに今先生がおっしゃったみたいに、自分の意思で来たわけではないのにっていうところは大人と全然ベースが違うので、そういうことってありそうだなってすごく感じました。そういった子どもたちに対してはどんな支援が必要だったり、どういうことができたりするか、先生で考えられることはありますか?
﨑 今あるところでは母語支援という支援制度があります。大体ボランティア制度になってるんですけれども、何か困ることがあったら、その子どもの母語と日本語がわかる母語支援という方に依頼して、大体、教育委員会でやっているんですけれども、例えば授業がわからなかったらその母語支援の方が教室に来て、先生は何を言ってるのか、黒板には何が書いてあるのか、ホワイトボードには何を書いてるのかを子どもに説明して担い手としてやっているのが一つ。それは小学校なんですけれども。
川添 へぇ~、そうなんですか。それは授業に一緒に入ってもらうという感じなんですか。
﨑 はい。
川添 それは知らなかったです。
﨑 あるんですけれども限りがあって、何時間しかできなくて、毎日ではなくて。支援はあるんだけれども、まだまだ少ない。それが一つですね。
川添 なるほど。そういったプロの方の手を借りるっていうこともそうですし、あとは小学校だったら同じクラスに仲間たちというのも、もちろんたくさんいたりするので、そういった友達、友人関係の中で、いろいろな良い関係が構築できていけるといいのかなと思いますね。
﨑 あとは小学校によって手厚くやっているところもあります。例えば外国ルーツを持つ子どもたちが割と多い小学校では、学校でもその支援があって母語支援の方、それも子どもの母語をわかっている先生も雇っています。いろんな支援を学校内でやっているんですけれども、校長先生が外国ルーツ子どものための支援に興味があって、教育委員会と連携していろいろなことをやっている小学校もあれば、そうでもない小学校もあるんですね。
川添 なるほど。では学校によってそのあたりは、結構差があったりするんですね。
﨑 はい、すごくあります。
川添 なるほど、ありがとうございます。親の立場、それから子どもの立場から、いろんな困りごと、課題感だったりとかそれに対するいろんな支援、どんな取り組みがあるかっていうことも、いろいろ事例も含めて伺ってきました。何となく外国ルーツの方に対してすごく意識しないといけないというより、その人個人に対して興味をちゃんと持つというか、それは日本人同士でももちろん同じだと思いますし、そこは国籍とか何とか関係なく、お互いに興味を持ち合って、コミュニケーションをどれだけ取っていけるかっていうことで、ずいぶんと解決できることがあったりするのか、その辺の意識の持ち方は、私たちが変わっていかないといけないところなのかなと、すごく感じたところになります。ありがとうございます。
今回は子育てシーンということでお話を伺ったんですけれども、また次回のお話では教育支援だけではなく、我々が日常的に住んでいる地域活動というか、自治会だったりお付き合いだったりとかもありますけれど、暮らしの中での困り事にどんなことがあるのか、そういうシーンをちょっと具体的に見ていきながらお話を伺っていきたいと思います。先生、今回はありがとうございました。
﨑 ありがとうございました。