私たちの生活と多文化共生

私たちの生活と多文化共生

﨑 ミチ・アン

表象文化学部 英語英文学科 准教授

#3 多様な文化を持つ人との地域づくりの進め方【﨑 ミチ・アン】

日本で暮らす外国人の数が増えている今、“ご近所さん”として日常的にコミュニケーションをとっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。その際、地域づくりで気に掛けたいことなど、カナダ出身の﨑先生にエピソードを交えてお聞きしました。

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川添 前回に引き続き、表象文化学部英語英文学科准教授で社会言語学がご専門の﨑 ミチ・アン先生に、「私たちの多文化共生」をテーマにお話を伺います。本日もここ京都にあります、同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生、よろしくお願いいたします。

 よろしくお願いします。

川添 多文化共生をテーマにした回も、今回で3回目になりました。今回は地域での活動の中での多文化共生を考えるということで、日常生活そのものが地域活動といえるとも思うんですけれども、そんなシーンを取り上げて考えていきたいと思います。

私自身また自分のことを思い返してみると、日常生活の中で、例えば外国ルーツの方がここにいらっしゃるとか、隣近所の方がそういうご家族だというシーンは、今、実はないかなと。

数年前は、自治会活動の役が回ってきてたりもしていたので、そのタイミングで、自分が住んでいる地域にどういう方々がお住まいかというようなことも、よくよく理解できた機会になりました。その中でも、そんなに(外国ルーツをもつご家族のことは)話題に上がらなかったこともありましたし…なかなか身近なところでは、そういうことを考えるきっかけが、正直まだないように、今のところは感じています。先生がお住まいのところでは、いかがですか。

 私が住んでる地域では、外国ルーツを持つ家族、文化背景がある家族は少なくはないんですけれども、見えにくいですよね。私は町内会に入っていて、いろいろ参加させていただいているんですけれども、外国人市民と接する機会が少ないと町内会の皆さん言っているんです。けれども、実際はいろんな家族がいらっしゃって、接する機会が多いんですね。ただ、どういうイベントをやっているのか、どういうことをやっているのか、あまり知られていないんです。

それは、国際交流の機会とかイベントをやっているという広告とかがあまり回っていないんです。それが一つ。あとは当事者として私が感じることは、外国ルーツを持つ家族は、なかなか自分が住んでいる地域がやっている行事に参加しにくい。まず誰が町内会に入っているかということです。町内会は日本人市民でも入りたくないとか、ちょっと面倒くさいとかがあるんですよね。マンションがいろいろ建って、マンションに住むと、なかなか町内会に入れないところもあるんですけれど、それが変わってきている。なんですけど、入れない家族が多くて、どういうふうに地域と地域の皆さんに接すればいいのかが難しいですよね。

川添 そうですね。イベントなんかは本当にいい機会かなとは思うんだけれども、そこに足を運ぶということをちょっと躊躇してしまったりとか…。

 あぁ、そうですね。

川添 そうなっちゃうと、もったいないなと思います。それは例えば、イベントをやる側のほうが積極的な声がけだったりとか、参加しやすさだったりとかというのを結構意識しないといけない部分でもあったりするのか、イベントのコンテンツというか、考え方も含めてですけれど、そういった工夫もやはり必要なのかなと思っています。

 そうですね。

川添 先生ももう、日本に30年ぐらいお住まいということですけれど、最初日本に来られたときは単身で、そこからご家族を持たれてといった感じで、今は住んでいらっしゃるんですか。

 そうですね。結婚して子どもが生まれて、そのときから町内会に入って。その前はマンションで、町内会とかそういったものには入れなかったんです。家を引っ越して町内会に入ったんです。隣の方から入ってみない?と気楽な感じで誘われたんですけれど、町内会って何?って。それを説明してもらって。なんで私が町内会に入りたかったかというと、子どものため。

川添 なるほど。

 あとは友達になりたかったし、私は町内会活動をやりたかったので入ったんですけれども、でも隣の方が声をかけてくれなかったら、もしかしたら入れなかったかもしれない。

川添 そうですよね。

 どういうふうに入ったらいいのか、どういう役をしたらいいのかがわからないので、それがわからないと、なかなか入れないんですよ。ただ私の町内は結構積極的だったので。あとは人が少なかったので、町内会も入りたい人は入れるっていうことで、入ったんです。そこから隣の人も町内会もしていて、仲良くなっていろんなことをやらせてもらいました。

川添 それってお声がけをしてくださったというのが、すごく大きなきっかけですね。

 その方は英語がわかるわけではなくて、外国に長い間住んだことでもなくて、ただ高校生のときにフランスに1年間行っていて、フランス語を話せるわけではないんだけれども、ちょっと外国に対して興味があって、うちが引っ越ししてたときに家族みんなであいさつに一軒ずつ行って、それがきっかけで声をかけてくれたんです。

川添 そうなんですね。ひょっとしたらですけれど、(外国ルーツの方が)身近にいらっしゃるんだけれど、声をかけるのはちょっとあんまりだし、声かけるのは嫌だしと思う方も、きっといるんじゃないかと。

 いると思いますよ。町内会の集まりがあって、一応聞いてみたんです。「もしお隣さんが声をかけてくれなかったら、誰か私に声をかけたんですか」「いや、もしかしたらかけなかったかも」って。それはなんでって聞いたら、外国から来ているから、外国人だからあまり関わりたくない、英語がわからない、どういう人かわからないから、ちょっと遠慮する。

川添 結構、はっきりおっしゃいますね(笑い)。

 はい、言ってましたね(笑い)。飲み会があったときにみんながぶっちゃけで言ってたので。それはすごいありがたいことで、なんで遠慮しているのか、友達なりたくないではなくて、関わりたくないというか、日本語で声をかけても、わかってくれないからそれが恥ずかしいとか。あとは外国について、日本に住んでいる外国人についてあまりわからない恐怖、恐怖というかちょっとわからないので遠慮するという人が多いんじゃないのかなと思うんです。すごいもったいないんですけどね。

川添 そうですよね。でも先生、今、飲み会の席でそこまでフランクにお話しできるぐらいまで、人間関係をちゃんと築けてきたというのが、最初にお声がけしてくれた方のアクションがあってこそですし、同じ町内の方々にとっても、考え方だったり、いろいろな新鮮なことがあったんじゃないか、気持ちが変わったりとか、そういうきっかけにもなったんじゃないかなと思います。

 そうですね。

川添 先生ご自身もそうやってお声がけしてもらって、身近な地域の方々と仲良くなれて、よかったなと思えることは、たくさんありますか。

 地域が強くなりましたね。みんなが隣に誰が住んでいるのか知っていて、もし万が一、何かあった場合、地震とか何かあった場合は助け合うことができるのがすごくいいことです。あとはいろいろな行事の後に打ち上げをするんです。打ち上げをするとビールとか飲むんですよね。飲むとみんなが本音を言うんです(笑い)。なかなか本音を聞けないので。外国ルーツを持つ家族が少ないってみんなは思っているかもしれないんですけれど、本当は多い。実は多くて、うちの地域でも外国ルーツの方が多くて、どういう言い方がいいかわかんないですけれどカミングアウトをして、初めて飲み会のときに「実は私はこういった国で生まれて、50年、60年もずっと京都に住んでいて、実はこうで…」って。みんながびっくりして、それは知らなかったって。「﨑さんが外国人だから、私の気持ちがわかってくれるから今言ったの」っていう年配の方が、何人がいました。それがわかって、外国ルーツの方が多いから何かしましょうって。いろいろな言語で会話教室をやりましょうとか、あとは地蔵盆のときに何かイベントをやらないといけないんですけれど、いろいろな言語の読み聞かせとか、いろいろやりましたね。

川添 すごい、いいサイクルが出来上がっているという感じですね。今お聞きしているエピソードって、全部先生の当事者としての日本での暮らしというところで伺っていますけれど、先生は多文化共生を研究されている中で、地域づくりや地域活動というところにもフォーカスされることもあるかと思うんです。研究者としてのお立場で、地域づくりを考えたときに、これからどういう課題解決をしていかないといけないとか、思っておられる部分はありますか。

 地域づくりに関しては、日本人の市民も外国人市民もいろいろなノウハウと、いろいろな能力があるのに、コミュニケーションができないというか、接し方がわからないことが壁で、なかなか活動ができないんすよね。町内会についても「やりたくない」とか、PTAも少なくなって「もうやめよう」とかあるんですけれど、その町内会のやり方も変えないといけないと思います。お互いを知り合う、接することを増やせないというだけではなくて、もしかしたら、誰かが担い手として、そういう役割を作っていかないと。どう接したらいいのか、どういうコミュニケーションとればいいのか。すぐにコミュニケーションをとれるわけではなく結構時間がかかるので、今、京都市では多文化共生マネージャーの育成を考えているんです。他の地域では実施してうまくやっています。

川添 マネージャーということは、そういういろんなルーツを持つ、バックグラウンドを持つ方々をつないでいくような取り組みだったりとか、会話をするきっかけ、コミュニケーション取るきっかけだったりとかを生み出していく。

 はい、担い手として。

川添 そうなんですね。国としても災害とかいろいろなことが起こっていく中で、地域を強くしないといけない、自治活動を強くしないといけないみたいなことも提唱されたりもするので、そういった文脈からも地域づくりというのはすごく大事かと思いますし、そこにさらに、いろいろなバックグラウンドを持つ方が共生していくことを解決するために、そういった取り組みも進んでいることを聞けるとちょっと安心できるというか、そんな感じを今感想として持つことができました。前回のお話では教育シーン、子育てシーンで、子育てをするという共通項があったから、割とつながりも持ちやすいとは思うんです。

 そうですね。

川添 けれど地域はそうではなくて、世代も年齢もバラバラ、家族構成ももちろんバラバラ、お子さまがいる、いないということももちろんありますし、みんなバラバラの人たちが集うコミュニティづくりって本当に大変だと…。

 多文化共生マネージャーというのは、外国人市民じゃないとダメとか、何年か外国に住んで日本に帰ってきて外国語が流暢にしゃべれる方でなくても、日本で生まれて日本で育った日本人でもその担い手である多文化マネージャーはできます。あとは、どういうふうにそれを育てていったらいいのか。すぐに解決はできないけれど、これから考えないといけないのではないかと思います。

川添 ありがとうございます。新しいそういった取り組みも進んでいるというお話を初めてお伺いできて良かったです。ありがとうございました。次回が最終回になるんですけれども、次回はより広く多文化共生を考えるということで、先生がお生まれのカナダの国のことも少しお伺いをしながら、今後の先生の研究活動のことなどもう少し深くお話をお伺いしていきたいと思っております。引き続きよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

 ありがとうございました。