#4 より広く、多文化共生を考えるために【﨑 ミチ・アン】
日本での「多文化共生」と同じような概念は、他の国にもあるのでしょうか。﨑先生の出身地であるカナダの事情をお聞きするとともに、これから私たちがどのように多文化共生と向き合えばよいか、そのヒントを伺いました。
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川添 前回に引き続き、表象文化学部英語英文学科准教授で社会言語学がご専門の﨑 ミチ・アン先生に、「私たちの多文化共生」をテーマにお話を伺います。本日もここ京都にあります、同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生、よろしくお願いいたします。
﨑 よろしくお願いします。
川添 いよいよ最終回になりました。多文化共生をテーマにいろいろなシーンでのお話をお伺いしてきました。最終回の今回は、先生ご自身のバックグラウンドであるカナダのことも少し伺いながら、お話を進めていきたいなと思っています。そうは言っても先生も日本に30年ぐらいお住まいということで、もう日本の方が長いんですか。
﨑 長いですね。
川添 そうなんですね。カナダに帰られたりということは。
﨑 毎年帰っていて、どういう状況なのかも見ているんですけれども。
川添 そうなんですね。多文化共生という言葉を、今回テーマとして取り上げているんですが、これは日本特有の言葉なのか、それともカナダや諸外国でもそういう言葉を使うということ、考え方というのでしょうか、それはあるんですか?
﨑 50年ほど前から多文化共生、多文化主義ということを、英語で「multiculturalism」という言葉が新しく入ってきたんですけれど…もうちょっと前ですね。カナダというのは移民の国ですので、みんながいろいろなところから、違う文化、違う言語とかが多いので、それが普通になっているんです。外国人市民とは言わないですね。外国人市民ではない、多文化共生社会はない、もうそれが当たり前ということで使っていない、使わないですね。
川添 日本とはもう全く環境が違うということですね。
﨑 (日本では)移民は元々少ないというか、他の国に比べて少なくて、今どんどん増えてきてるので、多文化共生ということがテーマになって、その言葉が今、耳に入っていると思うんですけれども。カナダでは使っていないですね。
川添 (多文化共生という)言葉は使ってないし、それが当たり前の土壌だということではあるんですけれど、そんな環境のカナダという国の中でも、いろいろな困りごとだったり、課題というのは、移民問題とまでは言わないかもしれませんが、少し感じられる部分もあるものなんですか。
﨑 そうですね、もちろん移民問題という課題もありますし、差別もありますし、そういう偏見とか、いろいろあるんですけれども、カナダは移民の国ですのでいろいろな対策や取り組みをやってます。
川添 何かご存知のことはありますか。どんなことされてるとか。
﨑 移民者がカナダに行くと、いろいろなことをやっています。例えば外国からカナダに来ました。それでカナダの生活を続けて慣れるために、いろいろな事業をやってます。英語の支援だけではなくて、カナダでの生活とか、そういう研修とかをいろいろ全部無料でやっています。
川添 そうなんですね、私が例えばこれからカナダに住むようになったときに、私、英語はほとんどしゃべれないんですけれど、多少勉強していったとしても、やはり言葉の壁だったり、文化のことだったり、慣れないことが多すぎて困り事も多いかもしれません。けれどそういうときに頼れる場所、環境というのは、向こうで整えられていることもあるという。
﨑 新しく移民者としてカナダに来て、自分から一生懸命(生活に必要な情報を)探さないといけない、ということではなくて、向こうから話しかけてくれるんです。「初めてのカナダですね。こういうサービスがありますよ、無料ですよ」っていう、ウェルカムなものがあるので、そんなに一生懸命探さなくても声をかけてくれると思います。
川添 すごく安心感を持って、進んでいけそうな感じがします。
﨑 そうですね。何で積極的かというのは、カナダは国が広いんですけれども、人が少ない、割と。
川添 なるほど。
﨑 今は医療の仕事でも、(移民者がつける)仕事が多いです。仕事が多いんだけれども、人が少ない。移民者が来ないとカナダは国としてやっていけない。なので、それでいろいろな職業が多くあります。
川添 逆にカナダでちゃんと暮らしてもらい、仕事をしてもらえる方を望んでおられますよね。そういう感じなんですね。ありがとうございます。
先生は社会言語学がご専門ということなんですけれども、言語学ということで言葉を扱っておられる、研究対象とされてるということなので、いわゆる英米語だったりとか、今は日本で日本語だったり言葉によっていろいろな特徴もあったりするのかなとも思うんです。そういった言葉を扱って研究されている中で、多文化ということが意識される、言葉による違いみたいなことって、何かあったりするものなんですか?
﨑 いろいろな英語があるんですけれど、例えばカナダに移民者が来て、英語を勉強しても、やはり発音とかアクセントが違うんですよね。だからカナダでは、英語は一つのカナダ人英語ではなくて、いろいろな英語の種類があるんです。それが社会言語を専門としている私としては、すばらしいこと。うちの学生にもいつも言っているんですけれど、カナダの英語、アメリカの英語、イギリスの英語だけに集中するのではなくて、いろいろな英語を勉強して、いろいろな英語を経験して、聞いて、それを理解できると、もっといろいろな人とコミュニケーションができる。カナダでは、カナダ英語をめざしているわけではなくて、例えば日本人英語、中国人英語とかいろいろあるので、それが恥ずかしいことではなくてすばらしいことで、いろいろな方の英語がわかると自分のためになる。
川添 イメージ的には日本でも住んでる地域によって方言があるのと同じように、カナダで英語と一言で言っても、いろいろな国からの移民の方が使っている英語という言語によって、表現の仕方だったりイントネーションも含めて、多種多様な英語があるという、そういう理解でいいんですか。
﨑 はい。
川添 はぁ~。それは移民の国だからこそ、そういった言葉にも表れているというような、そういうことなんですね。だから、学生たちが学ぶときも、いろいろな(国で話されている)英語を理解できると、それだけ世界も広がるというか、理解が深まるということですね。
﨑 うちの学生にも言っているんですけれど、これからは卒業してから、例えば英語に関わる仕事があったら何を覚えて、何を確保したらいいのか。普通の英語の文法とか、発音とか、英語能力の一つが、いろいろな英語のコミュニケーション、いろいろな人のアクセントとかをわかることが本当に大事ということで、授業でリスニングの放送の聞き取りの練習をしています。ただ、選んでいる教材はアメリカ英語とかイギリス英語ではなくて、シンガポールの英語とかマレーシアの英語、インドネシアの英語とか、インドの英語とか、そういう聞き取りの練習をして、それがわかるように。卒業して、本当に英語と関わる仕事があったら、イギリスの英語とアメリカの英語をしゃべっている人ばかりではないので、いろいろ慣れないと。
川添 どちらかというと、アメリカ英語、イギリス英語以外のほうが断然多いですよね。そういうところに学びを深めていくというのがあるんですね。あまりそういう意識はなかったです、ありがとうございます。今、カナダのことは言葉のことも含めてお話を伺ってきまして、このエピソードとしては終盤に向かっていくところではあるのですが、また少し日本に話を戻して、これからの多文化共生社会というお話をしていきたいと思います。
教育支援、子育て支援だったり、地域活動での支援だったりという、比較的、具体的なところでお話を考えていきましたけれど、今後、私たちは多文化共生社会にしていくために、私たち自身がどんな視点を持っていくことが大切になっていくのか、そのあたり先生の考えをお聞きできたらと思います。
﨑 これから日本人がどういうふうに多文化共生を意識して、自分から何をすればいいのかというのはそんなに難しいことではなくて、まず、間違いを恐れないこと。間違えを恐れないで、まず声をかけてみることですね。
川添 先生のお隣さんが声をかけてくださったみたいに。
﨑 そうですね、それが一つ、第一歩で。恐れないで、間違えてもいいから。「いや自分はちょっと能力がないから、ちょっと控えめに、遠慮する」ではなくて、やってみるということが大事。声をかけてみる。多くの日本人市民に、いろいろ聞き取り調査をさせてもらったんですけれど、もう一つの悩みが、英語がわからないということ。コミュニケーションを取るのに英語は関係なくて、どちらかというと外国人市民は英語より日本語のほうが上手なケースが多いので、日本語でもいいから、ゆっくりと声をかけてみることが大事ですね。
川添 なるほど。恥ずかしがらずに、勇気を出してというのが、私たちの姿勢としては必要だというのはよくわかります。確かに日本で一緒に暮らしていくわけだから、必ずしも英語じゃないといけないわけではないし、どちらかというと、例えば簡単な、ひらがなばかりの日本語だったり、子どもに初めて言葉を教えていくような簡単な会話だったり、そういうことを一緒にしていくことで、外国ルーツの方も(日本語の)スキルを上げられるチャンスになるのかなと思うんです。
もしかして逆のこともしかりで、ひらがなの日本語、子どもたちに教えるような簡単な日本語でも難しい場合は、英語だったらこう言うということを、日本人のほうがそこで初めて聞くことによって、そちら側のスキルのようなものも身につけていける。そうやって相乗効果でお互いに成長していけるというか。
﨑 win-winですよね。
川添 そういう関係性が築けていけると、すごく素敵だなって思いますし、そうやっていると、何となく自然に飲み会ができるまでに安定するような、密な関係性を築けていけて、いわゆる壁みたいなことをなくしていける。それが気づいたらそうなっていたというような、自然にコミュニティが築けていける、共生社会になっていけることが期待できたらいいなと、お話をお聞きしていてすごく感じました。ありがとうございます。今、私自身の身の回りでは、環境にはあまりないと思ってはいましたけれど。
﨑 今思いついたんですけれど、質問があります。最近のコンビニの店員さんは、日本人ですか。
川添 そう言われると、自宅の一番近いコンビニの店員さんって、違う方が多いですね。
﨑 最近、外国人と思われる店員さんが増えていますよね。増えていませんか?
川添 そうですね、増えていますね。接してますね、実は。
﨑 店員さんとはそんなに会話とかしないんですけれど、でもちょっと違うんですよね。ちょっと違うというか、日本語でしゃべっているんですけれども(交流があるわけではない)、でもそれも小さな多文化共生ではないかと思うんです。日本語はそんなに流暢ではないんだけれども仕事をしている。それも身近な多文化共生だと思うんですけれども、店員さんもどういう背景で、どういうバックグラウンドがあって、何のためにそういう仕事してるかわからない、(研究者としては)聞きたくなるんですけれど(笑)。
でも家の近くのコンビニに行ったら、突然、外国人と思われる店員さんがいて、何回も行っているのでちょっと顔見知りになって、ちょっと話かけたらすごいフレンドリーで。普通の日本人の店員さんは、アイコンタクトをしても、話しかけたりはしないんですけれど、その店員さんを見ると、他のお客さんと話をするんですよね。日本人と話していて、2人ともニコニコして話しているんですよ。それはすごいなと思って。普通の日本人の店員さんだったら、それはしないと思うんです。日本のサービス業ではいろいろな話をするのではなくて、物を買って、お金を渡してそれで終わりですけれども、その場面を見たときに、これは多文化共生ねってちょっと思いました。
川添 そうですね。日本人でサービスする側とされる側みたいな、そういう堅苦しい関係性ではなくて、何かそういう一面を見られるとすごく素敵だなと思います。私自身も先生から言われて、そういえばそうだなって。日常的にありますね、そういう場面。それぐらい、今はもう日本の中で当たり前の風景になりつつあるんだということにも、今気付かされました。そんな中で、私たちがそういった方々と暮らしていくということにおいて、特別なことは一切ないということにも最後は気付かされた、そんな回になりました。ここまで多文化共生という言葉のこともあまりよくわからなかったんですけれど、具体的なシーンのお話が本当にたくさんできたので、具体的にイメージを持つことができました。4回にわたって先生ありがとうございました。
﨑 ありがとうございました。