感性を育む親子のものづくり

感性を育む親子のものづくり

竹井 史

現代社会学部 現代こども学科 教授

#1 こどもにとって遊びはなぜ大切?【竹井 史】

こどもの遊びにはさまざまな種類があります。その中から工作やお絵描きによる遊びに注目。竹井先生の手にかかれば、折り紙をちょっと折るだけで、子どもが喜ぶおもちゃのできあがり! 工作をとおした遊びと成長の関係について教えていただきました。

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Transcript

川添 今回は現代社会学部 現代こども学科教授で美術教育学がご専門の竹井史先生に、「感性を育む親子のものづくり」をテーマにお話を伺います。全4回にわたって、ここ京都にあります同社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生、よろしくお願いいたします。

竹井 こんにちは。よろしくお願いいたします。

川添 先生は美術教育学をご専門ということなんですけれども、もう少し具体的にどのような研究をされているのかを簡単にお聞かせいただけたらと思うんですが。

竹井 今、中心的に取り組んでるのが二つありまして、一つは子どもたちが造形遊び、ものづくりの遊びですね、それが存分にできて、触覚を鍛えることのできる粘土質の土の開発、それを「スーパークレイ」っていうんですけどね、それを開発していること。それと日常の身近な材料、例えば紙コップとかストローとか、いろがみ(色紙)ですよね、そんなものを使って “アッと驚く手作りおもちゃ”を開発してる、そんな感じです。

川添 そうなんですね。土の開発とおもちゃの開発。しかも“おもちゃ”というのは、本当に身近なところですぐにできるものということですね。

竹井 そうですね。後でちょっと見ていただこうかなと思うんですけど、いろがみを例えば4分の1ぐらい、コピー用紙の16分の1で、どんなおもちゃができるか、そんなのにもチャレンジして、結構ご機嫌なおもちゃをね、作ったりとか。

川添 ご機嫌なおもちゃ(笑)。美術教育学って聞くとすごく堅苦しいイメージがあったんですけれども、とっても楽しそうでワクワクする感じがしますよね。

竹井 ちょっと具体的な中身のお話をしますとね。

川添 ぜひお願いします。

竹井 まず土の開発なんですけどね。その土は、どんな土かというと、水を入れるとニュルニュルになってですね、これ、裸足で歩くとこのニュルニュルの土が指の間からムニュムニュっと出てきて、もう極めて気持ちいいですね。

川添 気持ちがいい!(驚き)

竹井 はい、そこで足踏みすると、本当にもう体の中の邪悪なものが粘土に吸い取られるような感じですね。もう、ずっと1日遊んでいたくなるような、そんな土です。(土に含まれている)水の量が減ってくると逆にですね、粘り、粘性っていうんですけれど、それが出てきたり、可塑性っていう、形ができる性質を帯びてくるんです。そして形のある、いろんなものが作れるということなんです。今日、(ラジオを)お聴きの皆さんには見えないんですけど、土を持ってきたんです。

川添 ありがとうございます。

竹井 これが水をたくさん入れた、ニュルニュルの感じのやつですね。

川添 ちょっとグレーっぽくて、本当にニュルッとした、トロトロッていう感じですね。

竹井 この土がたくさんある中で裸足で立ってもらうと、川添さん「もう仕事なんかやりたくない」って(2人笑)

川添 極楽の境地に行って言ってしまう感じですね。

竹井 この土のもう1個いいところは何かというと、乾燥すると、焼き物の粘土だったらカチカチになってしまって、もう子どもの手に負えなくなってしまうんですね。ただこれのいいところは、(もう1つのバケツからグレーのかたまりを取り出しながら)これは乾燥したスーパークレイなんですけど、これを子どもの手でもパキッと折れるんですね。

川添 あ、本当だ。

竹井 そして水を入れるとまたすぐに、さっきの至福のひと時が現れるっていう、そんな感じの土なんです。それを私は、先ほど言いましたけれど「スーパークレイ」と名前をつけて、喜んでいるんです(笑)。それが1つめ。

それで、身近な材料での工作ということなんですけれども。これは先ほど言いましたように、いろんな身近な材料を使った、おもちゃ作りをやってるんです。これもちょっと(材料を)持ってきたんですけれども、例えば紙コップがここにありますね。紙コップに小さな穴を2つ開けるんですけど、その後にクルクルクルッと(小さな穴の)真ん中あたりに、鉛筆を使うと一番いいんですが、穴を開けます(編集注:小さな穴を鉛筆で広げるイメージ)。その穴を開けた後に、ハサミでそれぞれの穴(から外側)に十字にチョンチョンと切れ目入れていくんですね。

(ハサミの)音が聞こえますかね。チョンチョンッとね。あとでハサミの使い方についてもお話できればと思うんですけども(※)、こんなふうになっていって。※ハサミの使い方はエピソード2で紹介

川添 あ、ちょっと目みたいな。

竹井 そうですね。それ(=十字に切ってできた折り代)を内側に入れます。こっち側も内側に入れます。さぁ、この穴はどんな穴になるでしょう。どう思いますか?

川添 紙コップの中に、何かを入れて……。

竹井 お、なかなか鋭いですね。ここで命を宿すんですけれど、ここに顔をちょこちょこちょこ、ちょこちょこっと書くんですね。今日は川添さんと初めての仕事ということで、ちょっと正装してですね、ここに蝶ネクタイをザザザザッと……。

川添 今、先生はマジックペンで白い紙コップに何やら……。

竹井 顔と蝶ネクタイを描きました。で、遊び方はというと、、内側から手をVサインしながら、(コップの下から)この二つの穴に入れて、これで「こんにちは、こんにちは!」。

川添 (コップの人形に向かって)こんにちは。はじめまして。

竹井 コップちゃん人形ですね、これは。

左から吹き風車、コップちゃん人形、ヘコヘコ君、コピー用紙作る回るおもちゃ(コップちゃん人形以外は後述)

竹井 例えばこんなふうなことをやるんです。4歳ぐらいのお子さんでしたら、これをやりながら、(紙コップの)周りにいろんな模様を描いてね、ハートの模様を描いたり、お星さまの模様を描いて30分、40分とやってます。

川添 そうなんですね。

竹井 教員研修でもやるんですけど、中学校の先生が喜んで(この工作を)やってます(笑)。これは紙コップのおもちゃで、ちょっと音のあるものもやった方がいいかな。

いろがみをですね、4つに(十字に)切るんです。4つに切って、その1枚を葉っぱの形に切るんですね。それを、端っこちょっと置いといて、細いストローでクルクルッと巻くんですね(編集注:葉っぱ形のいろがみの幅が狭い方からストローで巻き、筒状にする)。これでさあどんな音が出るかな。やってみますね。これをスーッと(ストローから)抜きます。

川添 巻いた葉っぱの形をした折り紙を、ストローからスーッと抜いたところですね。

竹井 はい、抜きます。抜くとこのストローとほぼ同じ直径の紙の筒ができるんですね。これだけだと全然音が鳴らないので、リードを作りたいと思います。親指と人差し指で、ちょっと先っぽを押す(=つぶす)んです。そのリードを舐めないように、口の中に入れて吹いてみたいと思うんですね。

プゥプゥ~♪(いろがみで作った笛の音色)

川添 一瞬で楽器に変身しました。

竹井 こんな音の鳴るおもちゃが出来上がったりします。そして縦に今度はいろがみを切ると、どんなものができるかというとですね。4分の1(幅の)縦のいろがみを半分に折ります(編集注:4分の1幅の縦長のいろがみを、長さが半分になるよう折る)広げます。そして内側に(両端を真ん中の線まで)半分折って、また(両端の正方形部分を外側に)半分折って、また外側に広げます。ちょっとわかりづらいかなぁ。横から見ると、おうちのような形になります。これを紙の上に置いてもらって、てっぺんよりも一つ手前(=中心線のすぐ下)のところを、ストローを持ちながら吹いていきます。

川添 フフフ(笑)、すごい奇妙な動き。

竹井 これは「ヘコヘコ君」といって、僕が大好きな紙のおもちゃなんです。

川添 ヘコヘコ動いていましたね。

竹井 はい、そうですね。これは吹く人の命の息吹をもらいながら、命を宿す生き物ということになっています。

川添 ちゃんとこのお顔も、マジックで描かれています。

竹井 それ以外にはですね、いろがみの(十字に切った)4分の1を使って、折り方をこんなふうにしていくと「吹き風車」というおもちゃも出来上がります(風車が回る音)。
これ、クルクル回るおもちゃなんですけれど、ちょっとこれ、(ラジオでは)わかりづらいですよね。

川添 クルクルと回っていました。

竹井 この中で一番ミニマムな材料、それは何かといいますとA4の紙がありますよね。これを16分の1に切った紙がこういう1枚の紙なんですね。さあ川添さん、この1枚の紙を使って、どんなおもちゃ作りますかね。

川添 えぇぇぇ…(思案)。折るか、ちぎるか。動くおもちゃは、私にとってはすごく難しいんですけれど、(16分の1にしたA4コピー用紙なら)折って、折ったところから折り目の部分を少し切り取って、開いたときにハートの形ができたりとか。

竹井 いいですね、おしゃれな感じですね。

川添 はい。そういうのだったらできるかな。

竹井 素敵ですね。私は(16分の1に)折って切ったあのコピー用紙でですね、葉っぱみたいなおもちゃを考えました。これは落ちてクルクル回るおもちゃで、放します。クルクルクル~。

川添 すごい、こんなふうに落ちていくんだ。

竹井 クルクル回っていくおもちゃでね、これはぜひ皆さんに本当に見てもらいたいと思うんですけれども。これは子どもたちがやり始めたら、半日ぐらいこれ一つで遊んでいたりするようなおもちゃなんですね。

川添 この動き方だったり色合いだったり、音もそうですけれど、見聞きするもの全部が興味を引かれる感じがします。

竹井 結局、紙の特性を理解しながら、それを最大限に活かすためにはどうしていったらいいのかということです。例えば皆さん、紙飛行機を作ったことがあるんじゃないかなと思うんですけども。学校の中で、あるいは幼児教育の中で飛ばして。だいたいピョッと飛ばしたときに5mぐらい飛んだら、なんとなく「飛んだ、飛んだ~(拍手)」って、そんなことになるわけじゃないですか。でも私から言わせると、それは飛んでいるんじゃなくて、落ちてるんだと。

川添 5mでも(2人笑)

竹井 紙飛行機が本当に飛ぶっていうのは、ギネスの記録でいうと大体70m近く飛ぶんですね。5歳の子どもが(大会の幼児部門で) 日本記録を持ってるんですけれど、約20m。

川添 へぇ、20mも飛ぶんですか!?

竹井 20mというとそのクラスの端から端までが10数mですよね。それよりもはるかに飛ぶんです。だから本当に、折り方とか飛ばし方を調整しながらやると、紙も命を宿してくれて、子どもたちがアッと思うようなおもちゃに大変身するっていう、そんなことになるんじゃないかなと思うんですね。ですからそこまで、ぜひそういう素材と付き合ってもらえたらな、きっかけ作りになったらいいなと思うのが私の研究の一つですね。

川添 よく理解できました、ありがとうございます。すごく堅苦しいイメージがあった美術教育学という研究分野なんですけれども、実際には子どもに寄り添ったというか、子ども目線で楽しめるもの全てが、教育研究対象みたいな感じなのかなというふうに今感じています。

これらが実際子どもの成長に、どんな影響があるのかなというところを、今回の最後にお伺いをしたいなと思います。

竹井 そうですよね、そこを言わないとだめですよね。楽しいだけで(終わってしまいますね)。実はこれは、子どもたちが広い意味で表現活動する中で、そのプロセスで子どもたちの感性が育まれていくっていう、そういうことだと思うんです。

子どもの成長は1本の木。例えばちょっと頭の中で、イメージしていただけませんか。感性はその木の成長にとって、自分に必要な養分とか水分とか光とか、それを選択して、取り込む働きをしているんですね。

それが感性の働きなんですね。養分も、たくさんありすぎても木はダメになっていくじゃないですか。だからその木が必要な分だけの養分、それを取り入れていくのが感性への役割。そうすると木は過不足なく養分とか光、水をもらって育っていきますよね。その中で枝も幹も太っていって、そして木の実もできてくる。それが実は知性ということになるんですね。

だからそういう意味では、子どもたちが遊ぶことを通して“感性を豊かにする”ということはどういうことなのかというと、最終的にこれは子どもたちが本当に賢くなる、知性が育っていくための前提になる条件だというね。そんなふうなことが言えるんじゃないかと、思うんですね。

川添 ありがとうございます。感性が豊かになって、それが子どもたちの知性、発育の前提条件になるっていうことですね。

竹井 そうですね。だからどちらか、ということじゃなくてね。例えば幼児教育で感性が大事だといっても、それは知性を育てなくていいということじゃなくて、感性を育てることが本当の知性を育てるための大事な前提条件だった。

逆に小中学校で知的な勉強ばっかりして、皆さん方も大学受験とかするじゃないですか、あるいは高校受験とか。何でもかんでも覚えるけれども、覚えたらその半年ほどですぐ忘れていた経験はないですか。

川添 そうですね、その場限りっていうふうになっちゃいますね。

竹井 それは実は感性を背景にしない表面的な知的教育で、“剥離する学力”というふうに言われたりするんです。そういう中で小中学校にあっても、子どもたちの興味関心を持つ感性、その大事さっていうのは、知性が育っていくための前提になる条件。知性・感性っていうのは、車の両輪みたいな形でですね、両方とも大事にしていって子どもの成長が保証されていくということになると思うんですね。

川添 なるほど、よくわかりました。ありがとうございます。次回以降、感性を豊かにするということの中でも、例えば工作だったりとか、絵だったりとかで、少しずつポイントを絞りながらまたお話を伺っていきますので、また次回以降もぜひ楽しみにさせてもらいたいと思います。本日はありがとうございました。

竹井 ありがとうございました。

川添 本日は子どもにとって遊びはなぜ大切かをテーマに竹井史先生にお伺いいたしました。次回は「工作を親子で楽しむことで育まれること」についてお話を伺っていきたいと思います。次回もよろしくお願いいたします。