正しい英語ってどんな英語? 「通じる英語」を始めよう

正しい英語ってどんな英語? 「通じる英語」を始めよう

佐伯 林規江

学芸学部 国際教養学科 教授

#1 多様化する英語事情を知って苦手意識を軽減【佐伯 林規江】

世界の共通言語として使われることが多い英語。最近は実用レベルでノンネイティブの英語ユーザーが増え、発音や文法を重視していた従来の「正しい英語」の概念が変わりつつあります。「World Englishes」の視点から、最新の英語事情をお聞きしました。

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Transcript

川添 今回は、学芸学部国際教養学科教授で、英語教育学がご専門の佐伯林規江先生に、「正しい英語ってどんな英語? 『通じる英語』を始めよう」をテーマにお話を伺います。全4回にわたって、ここ京都にあります、同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生、よろしくお願いいたします。

佐伯 よろしくお願いします。

川添 今回から4回にわたって先生にお話をお伺いしていくんですが、先生のご紹介、英語教育学ということで、こちらのご専門領域のお話を少しご紹介いただいてもよろしいでしょうか。

佐伯 はい。私の専門は英語教育全般なんですけれども、特に今興味を持って研究しているのが、英語教育を受ける側の学習者の性格ですとか、特にシャイネスとか自信とか自己効力感とかそういうものと、英語のパフォーマンス(の関係)です。特に人前で話すときの英語の習熟度、そういうものとの関わりを数値を使って、音響音声学っていうんですけれども、音の波形だとか心拍数とか(データをもとに)、どんなふうに訓練すればシャイネスが低くなって、(つまり)シャイな性格が抑えられて、上手にパフォーマンスできるようになるかとか、そういうところを調べたりしています。

川添 ありがとうございます。まさに今回からお話をお聞きしていきたい、私たちが「通じる英語」を始めていくためのいろいろなお話を聞いていけるんじゃないかなと思って、すごく楽しみにしております。ありがとうございます。

佐伯 よろしくお願いします。

川添 お願いいたします。今回が第1回ということなんですけれども、まずは通じる英語を始めていくために、今の英語事情っていうんでしょうか、そういったものからお話を伺っていきたいなと思うんですけれども。最近、コロナの状況も落ち着いてきて、結構、街なかでも外国人の方を見かけるようになってきたので、私自身はどこかで声をかけられるんじゃないかと思って、ドキドキしながら道を歩いているような状況になります。

佐伯 そうですよね。京都駅でももう、観光客の方とかであふれていますよね。

川添 そうですよね。本当に私はすごく英語が苦手なんです(笑)。なのでいつ声をかけられるかと思って、本当にドキドキしてるんですけれど…。

佐伯 まずは英語に対しての考え方、つまりマインドセット(=思考様式)をちょっと変えるほうがいいかなと思いますね。

川添 どういうふうに変えていったらいいのでしょう。

佐伯 まず川添さんに聞きますけれど、世界の人口って去年の11月ぐらい、2022年の11月ぐらいの国連の報告によると、80億を超えるっていう報告があったんですね。その中で、どれくらいの人が英語を話すと思いますか。

川添 うーん…英語を話す人…。10億、とか? ぐらい?

佐伯 いい感じですね、もう少し多いです、15億とか16億とか、それぐらいって言われているんですね。その中で、英語のネイティブスピーカー、英語圏の人ってどれぐらいいると思いますか。

川添 ほとんどがネイティブの方じゃないかなと思うんですけど。

佐伯 って思いますよね。実はね、英語のネイティブスピーカーと呼ばれる人たちは、その中で多く見積もっても4億ぐらいなんです。

川添 え、それぐらいなんですね。

佐伯 それぐらいなんです。その大半3億ぐらいがアメリカに住んでいるんですけれども、あとの1億ぐらいはイギリスだとかカナダだとか、オセアニアのオーストラリア、ニュージーランドとかそういうところが占めているんです。たかが4億人ぐらいの、たかがって言っても多いですけども、4億人ぐらいの人たちがネイティブスピーカーと言われて、でも、世界の中で見るとネイティブスピーカーじゃなくても英語を何とか実用レベルで使おうとしたり、私たちみたいに学校で英語を長い時間学んで使えるようになろうって思ってる人たちが、大半を占めているってことなんですね。単純に計算しても5人か6人に一人の割合で、世界には英語をわかっていたら何とかコミュニケーションを取れそうだなって人がいるっていうことなんですよね。

川添 そうなんですね。

佐伯 そうなんです。なので、そのノンネイティブの人たちと私たちは同じですから、その人たち同士で英語を使ってコミュニケーションを取る機会のほうがずっと多いって思うと、別に私たちはネイティブのようにならなくてもいいですし、英語に対する学びの姿勢っていうのは、少し気持ちが柔らかくなるんじゃないかなって思うんですけれど、どうですか。

川添 そうですね。本当に先入観で(英語は)“英語ネイティブの人と話すもの”っていうのが植え付けられていたので、日本人と同じ、英語を後から身につけている人とお話しする機会のほうが多いというのは今、本当に目からウロコでした。

佐伯 まさにそうですよね。ビジネスの分野でもそうですし、アジア人同士が英語で何かを作り上げるとか、交渉するとか、そういうことのほうが多分多いと思うんですよね。でも特に私たちの世代って、英語のモデルとなる人たちがネイティブスピーカーで、その人たちのCDだったり、DVDだったりカセットテープだったり、そういうもので勉強してきた世代でもあるので、モデルとする英語と私たちが目標とする英語っていうのが混同されているようなところがあります。モデルはネイティブスピーカーでもいいけれども、私たちの目標はあくまでも通じる英語、コミュニケーションができる英語っていうふうに、ちょっと分けて考えるといいかなと思います。

川添 なるほど。

佐伯 英語と日本語は発音もたくさん違うところがあるので、そういうところが気になり出すと、ちょっと躊躇してしまったり、それから苦手意識を持ってしまったり、学校ではしっかりと細かいところまで文法というのを学んで、テストを繰り返して、頭に入ってるかなっていうような、そういう経験をしながら学んできたので、どうしても“正しいか間違ってるか”っていうところで英語を考えがちなんですよね。でも(英語を学ぶうえで)何が正しいかって考えると、今の時代は通じること。

正しく自分たちの思いが伝えられるっていうところが、正しさの基準であって、ネイティブのようにできるかどうかっていうのは、全くもう今は関係ないと思えばいいかなと思います。

川添 そうですか。ちょっとハードルが下がったような感じがしますね。どうしても自分が英語を発するときに、通じるっていうことよりも、きれいに話すことだったり、文法をきっちり正しいもので文章を組み立てて話さないといけないとか、そういうことにばっかり頭がいきがちなので、そのあたりの考え方を根本的に変えないといけないんだなっていうふうに、今すごく感じましたね。

佐伯 はい、その通りです。今は世界も本当にグローバル化、「一つになろうっていう動き」が進んでいますし、世界の人々、(つまり)いろんな言語を話す人たちが協力し合って、例えばSDGsだとかそういうものを達成して、取り組んでいこうという動きになってますよね。それに必要なのは共通語なんですよ。その共通語の筆頭として、一つ目の共通語として使われるのが英語であることは今のところ間違いなくって。なので、その英語っていうのは英語圏以外の人たちが多少発音だったり、文法とかにブレがあっても、そういうところは気にしなくて良くって、互いの意思疎通ができたらそれを使いながら、英語を有効な道具として、私たちで何かを達成していこうっていう動きなんですよね。

キーワードは”World Englishes”。これは今始まった言葉ではなく以前からある言葉なんですけれども、この多様な時代に英語も多様化を認めていこうっていうような動きの中で、ポイントはイングリッシュが複数になってるところなんですよね。どの英語も方言の一つ、変種の一つ。フレンチが話すフレンチイングリッシュだったり、チャイニーズイングリッシュだったり、ジャパニーズイングリッシュだったり。そういうふうな考え方で、英語を話す私たち日本人の英語も、方言の一つっていうふうに捉えていこう、なので堂々と話せばいいっていう動きが出てきています。

それが(反映されているのは)日本の検定教科書ですよね。公立の中学校で使ってる教科書にもそういう意思が表れていますし、日本人ならば日本人の文化を英語で伝えるために、英語に合わせるんじゃなくて、例えば日本人の名前っていうのはラストネーム、名字が先に来ますよね。名字が先に来る形のまんま英語で、「My name is SAEKI Namie.」というような形で自己紹介をするテキストも検定教科書でありますし、アジア人の留学生と日本人が英語でコミュニケーションとるようなシーンがたくさん出てくるし、アジア人だけじゃなくても、英語圏じゃない人が登場人物になっているケースっていうのがとても多いんですよね。ALT(Assistant Language Teacher)という英語の補助の先生たちも、今はもう英語圏だけではなくて、英語がうまく使いこなせる、英語が公用語の国の人たちも、たくさん英語の指導助手として日本に来てくださってます。そういう意味で英語自身もとっても多様化している時代なんですね。なので、もう私たちの日本人英語も多様の中の一つと考えて、全然悪くない。そういうふうに捉えてもらえればいいかなと思います。

川添 そうなんですね。よくよく考えると日本人が話す日本語だっていろんな方言があって、それこそ聞き慣れない言葉が出てきたりとか、そういうことがあったりするので、当たり前のことですね。

佐伯 そうです。

川添 よくわかりました、ありがとうございます。かなりハードルが下がってきたような気がするので、次回以降、英語への触れ方ですとか、またお話を聞かせていただきたいと思っております。本日はありがとうございます。

佐伯 ありがとうございました。