誰もが使いやすい、ユニバーサルデザインの理念にもとづくものづくり

誰もが使いやすい、ユニバーサルデザインの理念にもとづくものづくり

土井 幸輝

生活科学部 人間生活学科 教授

#3 特別なニーズを踏まえたものづくり【土井 幸輝】

白杖をはじめとする福祉用具は、特別なニーズを有する人にとって欠かせないツールです。そしてこれらの福祉用具も、新技術や新素材によって、より快適な使い心地に改良されているといいます。今回は白杖の改良を例に、福祉用具について教えていただきました。

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川添 前回に引き続き、「誰もが使いやすい、ユニバーサルデザインのものづくり」をテーマにお話をお伺いするのは、生活科学部人間生活学科教授で、人間工学、福祉工学がご専門の土井幸輝先生です。本日もここ、京都にあります同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生、よろしくお願いいたします。

土井 よろしくお願いします。

川添 今回、3回目となりました。前回は先生が実用化に携わられたユニバーサルデザインの研究成果の事例ということで、ボディソープ用の触覚識別マークについて紹介をしていただきました。

土井 はい。

川添 今回は、先生が携わられた福祉用具の改良のお話について詳しくお聞かせいただきたいと思っております。

土井 はい。

川添 福祉用具といいましたら、特定の利用者にとって有用な製品ということかと思うんですけれども、先生はどんな製品の改良に携わられたんでしょうか?

土井 はい、ありがとうございます。私は視覚障がい者の方々が利用されている白い杖に携わりました。これは、白杖(=はくじょう)といいます。川添さんも見たことがありますよね。

川添 あります。街中で利用されてる方をお見かけします。あとはテレビとか、そういったところでも使われているところは見たことがあるので、存在自体は知っています。

土井 そうですよね。リスナーの皆さんも、白杖の存在をご存知の方は多いのではないかと、私も思います。その白杖には三つの機能があると言われています。

一つ目は歩行面、路面の情報収集です。杖をつくことで、どんな路面なのかということを触覚を介して、あるいは音を介して知ることができます。

二つ目は障害物からの防御です。杖をつくことで段差があるのか、あるいは、ぶつかったらいけないようなポールがあるのか等、そうしたことも知ることができます。

三つ目は、周囲に存在を知らせるということなんです。シンボルとしての杖。「私は視覚障がい者としてこの杖を利用しております」ということがわかる、ということになります。

また、この白杖には二つのタイプがあります。一つ目は、折り畳めない直杖です。まっすぐの棒です。まっすぐの棒から成る杖、折り畳めない直杖は、耐久性、路面等の情報の伝達性と、白杖に求められる条件をほぼ満たしていて、最も適しているといわれますが、折り畳むことができません。その点が不便であると、利用者の方々からは言われることがあります。

二つ目は折り畳み式の白杖です。4段式、5段式が主です。折り畳めて、携帯性に優れています。しかし、先ほどの直杖と違って折り畳みの構造になりますから、繋ぎ目の部分で耐久性とか、そこがガタガタしてしまうと、路面の情報の伝達性という点で、課題があるということも指摘されております。

川添 なるほど。白杖にはその三つの機能があるというのも初めて知りましたし、あと直杖と、それから折り畳み式のものがあるということは、これは特に初めて知りました。ところで、その白杖については、どこか改良しないといけない点があったということなんですよね。

土井 はい、そうなんです。視覚障がい者の多くは、先ほどの二つのタイプのうち、折り畳み式の白杖を利用しているケースが多いんです。しかし、この折り畳み式の白杖は構造上、折り畳み構造のない直杖に対して繋ぎ目の耐久性が低くなることが問題視されることがありました。

川添 はい。

土井 直杖よりも折れやすいということです。軽量性と耐久性を兼ね備えた高機能繊維の一つである炭素繊維といわれる繊維から成る白杖が、数多く製品化されています。しかし、いったんその杖が折れてしまうと、利用者、ユーザーが破断面に触れた際に、この炭素繊維から成るトゲが利用者の指に刺さってしまうということが問題視されました。そのため、この炭素繊維製の折り畳み式の白杖の耐久性の向上ということが、利用者の方から私たちに要望として寄せられました。

川添 なるほど。耐久性、いわゆる頑丈じゃないと困りますよね。

土井 そうなんですよ。

川添 折れてしまったら、そういう機能を果たせなくなるということになる。

土井 はい。いったん折れてしまうと、一歩前に杖なしで進むにしても路面の情報がわかりませんし、障害物からも防御することもできません。そうしたことから耐久性ということをしっかりと考慮するということは大事ですし、先ほどトゲの問題も指摘しましたが、このトゲというのは、利用者の手元が見えにくい、あるいは見えない状態で触れることになりますから、そうした安全面に対する配慮も必要になるわけです。

そこで、私たちは、この耐久性という点で優れているといわれるアラミド繊維を、炭素繊維に替えて利用することにしました。これも高機能繊維として有名なんです、この分野では。この高機能繊維の一つであるアラミド繊維から成る強化プラスチックを用いて白杖を作ることで、耐久性を向上させるということに成功しました。

このアラミド繊維から成る白杖をわれわれは試作をして、そして人間工学実験によって、その使用感を評価しながら設計を進めていきました。具体的に実験では、白杖を使用している際の上腕の筋(=きん)の活動をモニターすることによる使用感の評価を行いました。アラミド繊維を使って、耐久性を向上させた白杖を企業と協力をして製品化に努めてきました。現在では多くの方々に利用してもらうことができるようになりました。

川添 はい。

土井 なお、本学周辺でも、われわれが開発したアラミド繊維製の白杖を使用している利用者を見かけることもあるんです。

川添 そうなんですね。そうやって多くの方が利用されているということは、先生もうれしいですよね。

土井 そうですね。うれしい気持ちもありますが、利用者の方々に少しでも製品の選択肢を増やしたいと考えています。現在では有名なスポーツメーカーも、われわれとは異なる新たな白杖の商品化に取り組んでいます。これから利用者の方々が、少しでも多くの製品の中から、利用者一人ひとりに合った製品を選択できるようになったらいいなと、私は考えています。

川添 そうですね。「これ一つしかない」「これしか選べない」ということではなくて、やはりいくつかあって、よりその中で自分に合うものを選べるという、それが各自が心地よく暮らしていくために本当に必要なことなんじゃないかなと感じました。

土井 そうですね。私も川添さんがおっしゃる通りだと思います。福祉用具は、これを使えば良いというようなことではなくて、福祉用具だからこそ、選択肢がある中で利用者が選んで使うことができるようにしていきたいと私も考えています。

これからの社会は少子高齢社会です。多くの企業も、ユニバーサルデザイン、バリアフリー等の理念に基づいて、多様な人々の利便性を考慮した製品設計に取り組んでいます。そうした取り組みに注力している企業を利用者として応援していきたいですよね。

川添 そうですね。私も同感ですし、前回お話の最後にあったように、声を消費者側から伝えていくこともやっぱり大事なんだということを、改めて感じました。

土井 はい。

川添 ありがとうございます。今回まで3回、お話をお聞きして具体的な製品ですとか、開発を通してユニバーサルデザインとかバリアフリーについて詳しく知って考えることができました。次は最終回になりますが、最終回は「多様性が当たり前の社会に」というテーマで先生のお話を引き続きお伺いできたらと思っておりますので、またどうぞよろしくお願いいたします。

土井 はい、よろしくお願いします。

川添 本日はありがとうございました。

土井 ありがとうございました。