誰もが使いやすい、ユニバーサルデザインの理念にもとづくものづくり

誰もが使いやすい、ユニバーサルデザインの理念にもとづくものづくり

土井 幸輝

生活科学部 人間生活学科 教授

#4 多様性が「当たり前」の社会に【土井 幸輝】

これまで、さまざまな製品・サービスの開発や改良を通じて、ユニバーサルデザインについて理解を深めてきました。ではこれからめざすべき社会は、どのような姿でしょうか。そのヒントはスマートフォンの機能からも学ぶことができると土井先生。詳しく話を伺いました。

/ 13分57秒

今すぐ聴く

各ポッドキャストで聴く

Transcript

川添 前回に引き続き、「誰もが使いやすい、ユニバーサルデザインのものづくり」をテーマにお話をお伺いするのは、生活科学部人間生活学科教授で、人間工学、福祉工学がご専門の土井幸輝先生です。本日もここ、京都にあります同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生、よろしくお願いいたします。

土井 よろしくお願いします。

川添 これまでの3回で、ユニバーサルデザイン、バリアフリーについて先生の研究事例を通して理解を深めることができました。

土井 はい。

川添 多くの企業がいろいろな人、多様な人々の生活に寄り添った製品だったり、サービスの開発を行われているということなど、初めて知った部分も多かったです。

土井 はい、ありがとうございます。2回3回と、私の研究事例に基づいてお話をしてきましたが、ユニバーサルデザインの視点でさまざまな機能を備えている、われわれに最も身近な機器がスマートフォンであるということになるかと思います。

川添 スマホですね。どういった点がユニバーサルデザインなのでしょうか?

土井 スマートフォンの場合には、ユニバーサルデザインにも類する考え方の一つとしてアクセシビリティ(※)というふうに言えるかと思います。このスマートフォンのアクセシビリティ機能には、皆さんもご存知かもしれませんが、文字の拡大機能、スクリーン上の情報を読み上げる音声読み上げ機能、これはボイスオーバー(VoiceOver)という言い方をされることもありますね。音の情報をテキスト化する音声認識機能と、多数あります。

※近づく、アクセスするを意味する「Access」と、能力、できることを意味する「Ability」による言葉で、製品やサービスの利用しやすさという意味

川添 はい。

土井 見やすく読みやすいということで、ユニバーサルデザインフォントが採用されている機種もあります。スマートフォンのアプリの中には、カメラをかざすとAIが対象物を認識して説明してくれる、視覚障がい者にも有用なアプリや、音声認識、合成音声、そうした機能を使って視覚障がい者の会話の声を文字にすることで聴覚障がい者が会話の内容を理解できるようにしたり、聴覚障がい者の伝えたいメッセージをテキスト化して、テキストを音声読み上げすることで、視覚障がい者が聴覚障がい者のメッセージを理解できるようにしたりするということができます。

これにより、視覚、聴覚障がい者間のコミュニケーションの支援が実現する、こうしたアプリも普及しております。

川添 そうなんですね。私もスマホの音声入力の機能は、テキスト化するものを使ったりとか、そういえばしてるな、と。知らない間にスマホのアクセシビリティ機能とかアプリを利用していたことを、今思いました。

土井 はい。

川添 LINEでしたか、カメラを介した文字認識というのもありましたよね。

土井 そうですね。リスナーの方もご存知でしょうか。このLINEにもカメラを介して文字認識をするということで、そうしたものも私も日々利用することがあります。

川添 はい。

土井 文字認識については、プリントの文字を認識できない視覚障がい者のために開発された光学的文字認識機能というようなことで、歴史的には、視覚障がい者のための支援技術としてのほうが長いんですが、われわれが利用しているLINEにも、この文字認識機能が搭載されているということになります。

川添 そうですね。

土井 われわれの生活に欠かすことのできないこのスマートフォン、またそれらにインストールするアプリですが、現在では多様な人々が利用することを想定して設計というのが進化しております。スマートフォン一つあれば、アクセシビリティ機能や便利なアプリをインストールして利用することで、さまざまな情報を入手できたり、あるいは発信することができるようになっていますよね。

川添 そうですね。スマホを見て、「こんなふうに大きく見えるようになりましたよ」みたいな、何て言うんでしょう、機能がでしゃばった感じというのは、全く印象がないんですけれども。

土井 はい。

川添 もし、仮にですけれど、そういう印象を受ける製品、「こんなことができるようになりました」というのが堂々と書かれていたりとか、表現されているような製品がもしあったとすると、これって利用される方にとっては、何かちょっと特別視されてるというか、そんなふうに思ってしまう方もいらっしゃるんじゃないのかなと、今チラッと思ったんですけれども。

土井 はい、川添さんの視点、私もとっても大事だと思います。ユニバーサルデザインもバリアフリーも大切な理念ですが、こうした理念は多くの皆さんに知ってもらった上で、ユニバーサルデザイン、バリアフリーの理念に基づく製品であることが、世の中で前面に出てこないくらい浸透した社会になって欲しいと思います。

川添 はい。私も、もうぜひそうした社会になって欲しいなと感じます。社会はめまぐるしく日々変化、進化してるんですけれども。人によって、その世代だったりとかもするかもしれませんが、人によってはその新しい動きに追いつけない、乗り切れていない、いわゆる固定観念みたいなところに阻まれているという方もいらっしゃったりするのかなと、少し思ったりもします。

土井 そうですね。広いこの世界には多様な人々が生活をしているということですが、コロナ禍を経て、再び国内外の人々の往来が見られるようになってきました。これからもグローバルな視点を大切にして、多様な人々が行き来したり、生活したりしながら、誰もが住みやすい社会になっていくということが大切だと思います。

われわれは、いろいろな人々に支えられて日々の生活が成り立っていますよね。インクルーシブで多様な人々が共生できる社会へと、われわれは社会を発展させていく必要があります。

川添 そうですね。そのために、私たちはどんなことができるのでしょう?

土井 現代の子どもたちはインクルーシブ教育システムの中で、多様な子どもたちが、クラスに在籍する学校で、一人ひとりができる限り尊重された中で学んでいます。自然と多様性についても学ぶことができる環境です。さまざまな配慮を必要としている人々との交流も盛んに行われております。われわれ大人も現代の子どもたちと同様に、学ぶ機会を意図的に設けていくということは大切ではないでしょうか。

川添 なるほど。もしお子さんがいたりする、身近にいる方だと、その輪の中に積極的に参加していくみたいなこともいいのかなと、今想像したりもしました。その他に学んでいける機会だったり場所だったり、そういったものはあったりするんですか。

土井 そうですね、川添さんがおっしゃるように、私の家族でいえば、子どもが車いすバスケを見てきたとかそうした話を聞いたり、パラリンピアンと直接身近で交流したとか、そういう話を子どもを介して聞くことがありました。保護者も一緒に学校のそうしたイベントというか、学ぶ機会に参加するということも大切かなと思います。

また、映画やドラマの鑑賞からでも、多様な人々の生活や考え方を学ぶことができると考えます。そして、多様な人々のことを理解するためには当事者の方との交流、イベントですね、そうしたものに積極的に参加していくということが大切です。

川添 そうですね。

土井 そこで私がおすすめする体験型エンターテインメントの一つが「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」という暗闇での体験を通して、人と人との関わりや、対話の大切さ、人の五感の豊かさを感じるソーシャルエンターテインメントです。

川添 はい。

土井 完全に光を閉ざした純度100%の暗闇の中で、普段から目を使わない視覚障がい者が特別なトレーニングを積み重ね、アテンドとして、参加者であるわれわれを、漆黒の暗闇の中を案内する体験型イベントです。こうしたイベントに参加することでも、われわれは多くのことに気づき、学ぶことができると思います。

川添 そうなんですね。「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」ですね。すごく興味深いので、私も近場で参加できないか、ちょっと調べてみたいなと思います。

土井 はい、ぜひリスナーの皆さんにもおすすめします。大事なことを楽しみながら学んでいただけるソーシャルエンターテインメントの一つです。スモールステップで良いと私は思いますので、そうした機会を設けてみては良いのではないかなと思います。まずは当該領域のことを皆さんに関心を持っていただく機会として、この『ひとつぶラジオ』がそれを担ってくれれば、この上ない喜びです。

川添 はい、ありがとうございます。私自身もこの4回を通して先生からお話を聞いて、初めて知ったことが本当にたくさんありましたし、身近な中で実はもうたくさん、自分自身が関わっていることも多かったんだなということに改めて気付かされました。

楽しみながら、と先生はおっしゃいましたけれども、楽しむもそうですし興味を持たないといけないということが、やはり一つ目のハードルなのかなとも思うので、本当にこの4回にわたってお届けした番組を聴いていただいた皆さんには、「こういうものあるよ」と広めていただくのも、もちろんお願いしたいところでありながら、聴いていただいた皆さん自身が、それによって少しでもいろいろなところに目を向けていただけるようなきっかけになったら、すごくうれしいなと感じました。

土井 はい。

川添 どうもありがとうございました。

土井 ありがとうございました。

川添 これまで4回にわたって、「誰もが使いやすい、ユニバーサルデザインのものづくり」をテーマにして土井先生にお話をお伺いしてきました。先生、これまでどうもありがとうございました。

土井 ありがとうございました。