#1 法律とは何かと聞かれたら【谷 直之】
私たちが生きる社会には、さまざまな法律が関係しています。ではいったい、法律とはなんでしょう。そして、日常にどのように寄り添っているのでしょうか。刑法、刑事訴訟法を専門とする谷先生に、法律の基礎を教えていただきました。
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川添 今回は現代社会学部社会システム学科教授で、刑法刑事訴訟法がご専門の谷直之先生に、「大人になった今、知っておきたい生活と法」をテーマにお話を伺います。全4回にわたって、ここ京都にあります同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生、よろしくお願いいたします。
谷 よろしくお願いします。
川添 今回から4回にわたって法律のことをお伺いしていくことになります。谷先生とは広報部のお仕事はご一緒させていただいているんですけれども、ご専門の法律のことや研究内容のことをお話しするのは初めてなので非常に楽しみですし、ちょっと緊張もしてます。よろしくお願いいたします。早速ですが、初回は法律の中で先生がご専門にされている刑法や刑事訴訟法が一体どういうものか、ということからお伺いをしていけたらと思っています。まずは刑法、刑事訴訟法についてご紹介をいただいてもよろしいでしょうか。
谷 はい。刑法というのは犯罪と刑罰について定めた法で、何を犯罪として、それをどれぐらいの刑罰で処罰するのか、どこまで処罰できるのか、もし限界があるなら必要であれば新しく立法を、というのが刑法という世界です。刑事訴訟法は犯罪の捜査から犯罪があればどういうふうな手続きでそれを裁判で認定して、有罪となったら刑罰を科すという、そういった手続きについて定めたのものです。さらにその周辺で刑事政策学というんですけれども、犯罪の傾向を分析して、どのようにしたら犯罪を減らすことができるんだろうかという学問、そのあたりを専門にやっています。
川添 ありがとうございます。実は刑事訴訟法というのは、あまり私自身は聞き慣れなくて、どういったものなのかと思っていたのですが、手続きのことなんですね。
谷 そうですね。犯罪の捜査、逮捕という言葉は誰もが聞いたことがあるかと思うんですけれども、そこから一歩進んで、実際に逮捕されたらどうなるか。逮捕だと3日間、家に帰れなくなるんですけれど、その3日間、どこに泊まって、どんな生活をしてというのは、あんまり皆さんご存知ないかもしれません。それでも逮捕という言葉は、ほぼ100%皆さんはご存知かなと思います。そういう分野ですね。あとは刑事裁判、裁判員裁判もスタートして、刑事ドラマとか法廷ドラマなどで「異議あり」というシーンなどもご覧なったことあるかと思いますが、そういったシーンは知ってるけれど、実際どんなふうに裁判が進むのかというのは、あんまり興味を持たれない。
大体、凶悪な犯罪などでも、逮捕されたというニュースを聞くと安心して、その後はたまに裁判のニュースが出てくるかなというくらいで、終わるのかもしれませんね。
川添 そうですね。ドラマとかで見ていると、勾留期間があってとか起訴されるまでにいろいろ取り調べがあって、起訴されるのか不起訴になるのかとか、そういうのは何となく、流れだけは見聞きはするな……というような。ドラマの世界でのイメージですけれど。そういったところもやはり法律で定められているものなんですね。
谷 そうですね。
川添 ありがとうございます。ちなみに先生、法律、法学の中で、刑法や刑事訴訟法を研究対象にされようと思ったきっかけというか、どういうところに興味を持たれたんですか。
谷 私は法学部にいた頃から、憲法とかそのあたりが好きだったんです。正義とは何かとか、正しいとか間違っているとは何かとか、そのあたりに興味があったのかなと思います。
川添 そうか、憲法から入りますね。六法というと憲法から始まって……。
谷 そうですね。六法って6つの法って書くんですけれども、実際は「多くの法」という意味の言葉なんです。主要なものとしては6つ、憲法、民法、刑法、商法、刑事訴訟法と民事訴訟法、この6つの法を指すことが多いですけれども、『六法全書』とかを見たら、本当にもう100も200も、細かい、名前も知らないような法律がたくさん載ってます。
川添 そうなんですね。私たちの日常生活の中で法律がどういうところで関わってるのかというのを、今回お話をお伺いするにあたって、少し私も思いを巡らせてみました。私は大学に雇われている立場なので、労働者としての権利ということで労働基準法だったりとか。そういう仕事で関係する部署にいたこともあったので、少し勉強したことがあったということを思ったり。あと、民法はよく聞くな、と思っていました。リスナー目線で考えると法律ってすごく敷居が高いというイメージがあって、なのでそこを噛み砕いていくのがこの第1回のエピソードになっていくかと思っています。法律って何なのかというところを、先生とお話ししていけたらと思っております。
谷 そうですね。私も「法律を教えています」って言うと、かなり引かれますね、皆さんから。
川添 そうなんですか(笑)。
谷 法律って難解で、縁遠いものというイメージがやっぱりあるんだろうと思います。法律家に対する悪口は昔からいっぱいあって、「良き法律家は悪しき隣人」って言われるんですけれども、優秀な法律家は理屈っぽくて隣には住んでほしくないというような、このような法律家の悪口は数限りなくある中で、我々は法律を学んでいるんです。先ほどおっしゃられたような民事法。物を買ったり、電車に乗ったりという日常生活も、法に基づいて行われています。そのあたりは、知らなくても大丈夫だけれども、割と身近なルールが存在してる。労働者として働くというときもやはり同じで、労働法って分野でルールがあったりしてるんですね。
私の研究している刑事法は犯罪なので、「私は今から犯罪するぞ」というリスナーの方も、おそらくいらっしゃらないかと思いますし、被害者になるって覚悟されている方もあまりいらっしゃらないので、そういう意味で言うと、ちょっと縁遠いかなと思います。
川添 そうなんですね。私のイメージだと、法律ってルール的なものという、漠然としたイメージがあります。それは日本国憲法だったら、日本で生きる、暮らす中での各自が守るべきこと、守られていることかもしれないですけど、そういうものを定めているもの、ルールとか、各自の行動規範みたいなことなのかな、とか。
谷 そうですね。法は社会規範の一つと言われるんですけれども、私たちの社会にはルールが必要で、ルールがないと「人は人に対して狼である」という形で、お互いに傷つけ合ってしまいます。さまざまなルールがあって、朝、知っている人に会ったら「おはよう」って言うこともルールですし、宗教などもルール。学校には学校のルールが、家には家のルールがというように、いろいろな形でルールが存在してるんですけれども、その中で社会、国会がつくるのが法律、絶対守らなくてはいけないルールが法律。そういう意味で言うと誰もが守らなきゃいけないので、誰もが理解できる当たり前のことを書いています。特に刑事法なんていうのは、当たり前の中の、当たり前のことを書いているルールではあるんですけれども、難しいというイメージが先に立ってしまうんでしょうかね。
川添 そうですね。自分たち一人ひとりの行動規範だったり、ルールと思う一方で、法律に守ってもらうとか、守られているとか、そういう言い回しを耳にすることもあるとも感じていて、そのあたりは捉え方としていかがですか。
谷 朝の連続テレビ小説『虎に翼』でも、最初のほうで「法とは何か」という議論がなされていて、「法は武器だ」という人もいれば、「法は防具だ。自分たちを守ってる防具だ」という人もいて、いろいろな法の見方が提示されていておもしろいな、と思って見ていました。「法に守られている」というのは、あまり意識はないかもしれませんけれども、犯罪として実際に窃盗した人は処罰される、実際に盗んだ人だけではなく、「泥棒をしたら捕まるよ、処罰されるよ」ということで私たちの生活は、守られていると考えられています。そういう意味で言うと、法は私たちを守るものでもあり、一方で武器にもなります。民事法などでお互いに権利を主張し合ってっていうあたりは、ちょっと武器というイメージも出てくるかもしれませんね。
川添 私も朝ドラ『虎に翼』で出てきた、この議論みたいなところはすごく印象に残ってるところです。この法律というのは、一度つくったら、そのままずっと永続的にではなくて、時代とともに変わってくるものとも思うんですけれど。改正という言い方をしていいんですか。
谷 そうですね、はい。
川添 どういうときに法改正がされるとか、これまでの歴史的なところ、社会情勢などを見ながら、どのように法律が変わってきたのか、簡単にお聞きできるようなことがあったら教えていただいてもいいですか。
谷 法というのは縁遠い意識があるかもしれません。最近、若い人たちの間で歌謡曲、昭和歌謡曲がすごい人気らしくて、昭和レトロって言われて、昭和世代の人間としてはショックなんですけれども(笑)。「歌は世につれ、世は歌につれ」という名司会の文句があって、世の中に応じて歌謡曲は変わる、歌謡曲によってその時代が切り取られ、意識されるみたいな言葉になるんですけれど、私は「法は世につれ、世は法につれ」という言葉も妥当すると考えてるんです。
その時代によって法というのは、いろんな特色を持ったりして、法としてその時代のことがよくわかったりするのかな、と思ってます。本学の看護学科などで、医療に関する法の歴史を教えていますけれども、明治とか大正期になってくると、感染症の患者さんを強制的に隔離して、強制的に入院させるようになり、強権的なものが非常に強くなってきます。それは日本が全体主義化していく中で、特に軍隊などで感染症が蔓延すると困るからというところで、犯罪者ではないけれども感染症にかかった人は隔離して、強制的に治療するみたいな。そういうふうに時代に合わせて法というのはつくられて、変わっていくものでもあります。逆に法が時代をつくっていく、リードするというなところもあります。男女雇用機会均等法などは、男女平等と日本国憲法でも言ってはいるんですけれども、40年、50年経っても男性優位の社会が変わらないという中で、雇用機会均等法ができて、それが強制的なものとして力を持ち始めて、社会の意識もだいぶ変わるようになってきた。そういう力を持っているもので、身近なもので社会と切り離せないものなのかなとは、思ってはいるんですけれどもね。
川添 なるほど。世の中が変わって、トレンドという言葉の使い方は少し違うのかもしれないですけれど、世の中のトレンドに合わせて法律が変わっていく、また逆も然りで法律が先にしっかりできた上で、我々の意識も変えていく、世の中も変えていこうという流れがある。
谷 そうですね、政策をリードして人々の気持ちや、認識を変える力も持ってるかなと思います。
川添 なるほど、よくわかりました。今日は法律に関する導入編のお話ということで、一旦ここまでにさせていただきまして、次回から少し個別具体例なども見ていきながら、お話を引き続きお伺いしていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
谷 お願いします。
川添 本日はありがとうございました。
谷 ありがとうございました。