#2 ビタミンDで認知度の低下をキャッチ【長谷川 昇】
ビタミンDと認知機能の関係を研究する長谷川先生は、同志社大学、大妻女子大学との共同研究「認知度推定プロジェクト」に参画しています。ビタミンDが認知機能に果たす役割やプロジェクトについて、詳しくお聞きしました。
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川添 前回に引き続き、看護学部看護学科特任教授で健康科学がご専門の長谷川昇先生に、「ビタミンDが変える明日の健康」をテーマにお話を伺います。本日もここ京都にあります、同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生よろしくお願いいたします。
長谷川 よろしくお願いします。
川添 前回、1回目のエピソードでは、ビタミンDという栄養素について詳しくお話をお伺いしてきました。今回は2回目になりまして、先生が実際に研究で取り組まれている「認知度推定プロジェクト」から、お話を伺っていきたいと思っております。
「認知度推定プロジェクト」という名前がついているので、認知機能とビタミンDという栄養素が密接に関わり合っていることを、研究の目的として進められているのかとお見受けしています。このあたり、今実際に日本が高齢社会にあってご高齢の方も増えている、そして自分自身が、おそらく長生きをする可能性も高くなってきているということで、その中で自分自身が健康に長生きできるのか、健康というのも認知機能が多少衰えていくかもしれないけれども、ある程度維持したまま元気に生きていけるのか、ちょっと不安に思ったりするようなこともあります。ですので今回ぜひ、どのような研究を進められているのかも含めて、お話を伺えるのを楽しみにしております。
ズバリなんですけれど、研究対象にされているビタミンDという栄養素が、認知機能にはどのように影響すると見られているのでしょうか?
長谷川 結果から申しますと、認知機能というのは何もしなかったら落ちていくので、落ちるスピードを少し和らげるということがあります。
川添 スピードを和らげていくというのが、ビタミンDの役割、効能として明確にわかっているということですか。
長谷川 そうですね、いろいろなことで(実験を)やっています。一つはシャーレの中で神経細胞を培養というか生かす、これは脳の中のシミュレーションみたいなことになります。この神経細胞だけでなく、培養細胞は全てですけれど、シャーレにまいてやると、重力で下に落ちていって、底にくっついたら、自分の好きな形になっていきます。神経細胞は教科書にも書いてあるように、軸索といってずっと枝を伸ばすような形で伸びていき、次に、その枝の先がお隣の神経細胞にくっついて情報のやり取りをします。それが大きくなれば、脳の中のネットワークになるのですが、ビタミンDを細胞培養するときに加えておくと、そのネットワークをつくるための(細胞が)伸びていくスピードが非常に速くなるということが、我々の実験でわかっています。

長谷川 それからもう一つ、お隣の細胞にくっつきますと申しましたけれど、そこである伝達物質というか、ちょっと難しい言葉になって申し訳ないけれど、物質でやり取りをしているんです。ペタッとくっついたとしても、それは実際に細胞膜同士がペタッとくっついているわけではなくて、必ずそこに隙間(シナプス)があります。その隙間の中を、水に溶ける物質がやり取りをします。よくご承知のものだとすれば、アドレナリンとか、ああいうものがやり取りされる物質になります。
そして、その隙間の数がたくさん、あればあるほど他の細胞といっぱいジョイントしたということになります。その数を調べてみても、ビタミンDがあるほうが盛んに、お隣の細胞とやり取りをしているということが実験的にわかっています。この事実を応用して考えれば、お年寄り、高齢化したときに脳のネットワークがいろいろ壊れていくとか、違う意味からの研究はいろいろありますけども、それに対してビタミンDが解決できるのではないかと思います。
それから赤ちゃんも生まれてくる前に一生懸命、脳のネットワークをつくって、それから生まれてきます。ですのでお母さんのお腹にいるときのビタミンDも結構、脳の発達に大事なのかなと思ってます。
川添 生まれる前から、そんな役割を持って…。
長谷川 (妊娠の)2期、3期という24週ぐらいのときは、絶対に薬を投与できない時期ですよね。どうしてかと言ったら、それはそのときに脊椎だとか神経の細胞が一生懸命、大人になろうと形成されているときなので、薬はできるだけ、お母さんは我慢してくださいという時期なんです。けれど逆に言うと、そのときが赤ちゃんにとっては最高に(脳のネットワークづくりが)盛んなときなので、ビタミンDはこのときにおそらく必要であろうと。
川添 そうなんですね。妊娠中のお母さんは、食生活はもちろん、日光をちゃんと浴びて、そういうことも意識した生活をすることで、ビタミンDという栄養素がちゃんとつくられて、「充足」状態にあって、それが体内の赤ちゃんの成長にも影響するということですね。
※ビタミンDと日光の関係、充足状態については、エピソード1参照
長谷川 赤ちゃんはお母さん頼りで、自分から欲しいと言えないので。残念なことに実際は、これは私が測ったわけではないんですけれど、お母さんたちのビタミンDが不足気味ということは、文献的にも知られています。(ビタミンDの不足でカルシウムが吸収されないと)どうしても骨とかから取られて、弱くなります。ご自分の防御ということも一つありますけれど、赤ちゃんにあげるという意味でもきちんと取っていただきたいなと思います。
川添 これは妊娠中にぜひ知っておかないといけなかった情報だなと思います。そもそもビタミンDを実験に取り上げることになったきっかけというのは、何かあったんですか。
長谷川 実はビタミンDの研究を始めて、まだ20年ぐらいで、それほど長いわけではないんです。以前はカテキンというお茶(の成分)を研究していました。動物実験とか、細胞の実験もして、人に飲んでもらいたい成分がわかってきたので錠剤を作って、実際に飲んでいただこうという段階になり、(一方はカテキンの錠剤、もう一方は異なる無害の錠剤を飲んでもらうのに)カテキンを飲まない人に何を飲んでもらうかという話になりました。
ほぼ見た目が同じ錠剤を、本人にも(カテキンでないと)わからないように飲ませないと意味がないし、砂糖のかたまりを飲んでもらっても申し訳ないということで、どのみち必要なビタミンDと、ビタミンDプラスカテキンを比べてみる話になって治験を始めました。実際に高齢者の方に飲んでもらったんですけれど、そうするとビタミンDだけで、認知機能の低下も止まりました。我々は認知機能だけではなく、身体機能とか、あるいは筋肉量とか健康科学的にそういったものも測っていますが、歩行機能が上がったりという事実が出てきて。カテキンもですが、ビタミンDをもう少しやってみようと思い始めたのが、私が石川県立看護大学におりましたとき、大学があった、かほく市の高齢者の方たちの結果が基になっているんです。
川添 元々は全然違う研究をされていて、偶然にも(治験で)ビタミンDを使ったから今に至っているということなんですね。
長谷川 先ほど申し上げた神経が働いているというのは、普段でも実はそういう物質は脳の中にあり、神経成長因子、NGFというファクターがあります。ビタミンDも一緒に実験してるんですけれど、ビタミンDが神経の成長する因子に取って代わって同じような働きをするというところまで突き止めています。それから神経成長因子が働くと、ある特別なタンパク質が、神経細胞の中でできるんですけれど、それもビタミンDだと同じようにできるということがわかっていますので、案外身近に、薬ではなくいいものがあるじゃないかという、我々としてはそういうイメージです。
川添 ありがとうございます。そういったいろいろな実験の過程を経て、今は高齢者の方の認知機能の低下を、これは防ぐという言い方をしたらいいんですか。
長谷川 そうですね。一番問題なのは、日常生活は普通にできているからあまり気にしていないけれど、実際に測ってみると認知機能的には少し数値が落ちてくるという段階を経て、本当に物忘れという状態になってしまうこと。その前のところを一番早めにご自分が知って、それから何か予防策をするということが将来の認知度を下げないためにも大事なことかなと思います。
川添 日本人9割がたは、ビタミンDが不足しているけれども、そのビタミンDをきっちりと摂取して、「充足」状態に持っていくことで認知機能がどんどん低下している状態を防ぐことができることを、今、実験をもって研究が進められている。
長谷川 この応用としては、血液中のビタミンDは目で見ただけではわかりませんけれど、他のいろいろなテストによってすごく簡単に、食べるもの、それから日光浴もそうなんですけど、ビタミンDができる要因の過不足を調べることによって、本来見えないビタミンDの量を推測できないかというようなことを研究目的にしています。
そうするとその先にある神経細胞のところはつながっていることはわかってるので、きちんと自分がチェックできていれば、将来起こり得る認知度の低下もきちんと把握できるのではないかと、今思っているわけです。
川添 なるほど。その推定するためのチェック機能というか、チェッカー的なツールを、開発することも含めて、今進められているかと思うのですが、そのあたりは次回にまた、詳しくお話をお伺いいたします。
高齢者の方の認知機能のこととその低下を防ぐためにビタミンDが影響しているというあたりで、どういう実験をされて解明してきたかという、研究のプロセスみたいなところも、なかなかお伺いする機会もないので聞いておきたいと思います。
長谷川 先ほどまでのお話は、シャーレの中でということになりますが、それを飛び越し、実際にビタミンDの錠剤を飲んでもらう。ビタミンDの錠剤を作るのは結構大変ですし、錠剤をもらうと薬と思いびっくりさせちゃうので、できるだけ臨床試験的には今あるもので何かないかなと。で、ビタミンDのグミを見つけたので、ビタミンDのグミを毎日食べてもらうようにしました。ただ毎日食べると、起こりえることですが、仮に「充足」している人がいらっしゃるとします。第1回で申しましたように、ビタミンDというのは油に溶けるビタミンで、水に溶けるビタミンは(体内で)余分だったら、おしっこに全部流れてしまうので問題ない。油に溶けるビタミンの場合は、もしたくさん取ってしまったら自分の体脂肪に蓄積されます。そうすると過剰な症状が出てくる可能性があるので、実際にこれだけ食べたらいいというグミの半量を毎日食べていただきました。大体効果が表れるのは6ヵ月ぐらいから。認知機能を測ってみると、歩行機能とかが少し良くなっていく。歩行機能は筋肉ですね。筋肉が動くようになる。大体6割の人が向上してくるということが、わかっています。
逆のことを言えば、この前コロナが流行りましたよね。パンデミックで、「ステイアットホーム」ということで、家にいなさいという政策上、高齢者の方は多分、外に出られなかったと思うんです。普通だったら週に1回とか2回とか、お茶を飲みながら買い物に行ったりされていると思うんだけれども、それもされてない。おそらく紫外線不足なんじゃないかなと推測はしますけども、パンデミック後に測ってみると、ビタミンDの量が減りました。
川添 そんなに顕著に表れるものなんですね。
長谷川 そうなんです。半分がいきなり「欠乏」になり、(ビタミンDの「欠乏」状態になった)ほぼ同じ人が、認知度が下がって認知症近くになっていたので。
川添 それだけ明確に結果が出るって…。
長谷川 いろいろなことを総合しても、やはりビタミンDというのは、一つの目安になる、と。
川添 それだけ身体機能的にもそうだし、認知機能が低下していくのを防ぐ役割として効果的な栄養素ということは、すごくよく理解ができました。これを認知症予防に活用していくということで、これからの時代で考えていくと、認知症だと診断される一歩手前の段階で、きっちりビタミンDを摂取するなりの、予防をしないといけないということですね。
もし予防ができなかったらというか、予防の策をとらなかったとしたら、認知機能がちょっと低下しているような状況から、認知症に診断されるまでのペースというか時間的なものは、人により差はあるのかもしれないですけれど、どれくらいのスピードで進行していくものなんですか。
長谷川 そうですね。現在のその方がどのぐらいの認知度の低下になっているかということも一つはあるんですけれども、大体1年で10%ぐらい、認知度が落ちてくる。ですから、すごいギリギリのところだったら、その10%はおそらくそんなに感じないと思うんですけれど、だんだん下がってくる。
だんだん下がってきている方にとっては、その10%は大きいので。つまり10%ずつぐらい、簡単にわかりやすく言いますと、神経細胞が死んでいくと考えてもらえれば。具体的にはそうでないかもしれないけれど、意味として10%という数字はあります。
川添 一昔前までは認知症って、年を取ったらそういう機能はどんどん低下していって、そういう症状になったりするよって。ただ、それがいつなるかわからないとか、そのことで年を取ることへの不安だったり、恐怖だったりという感覚があったんですけれど、でも先生が研究を進められてわかってきたように、それを予防できる策がある、その策を取るためにある栄養素をちゃんと摂取することによって、自分自身で防ぐことができたりとか、認知機能が起こるスピードを低下させることができる。自分で何とかできるということがわかっただけでも、すごく安心感も出てくるし、自分が努力すれば何とかなるというか、元気に生きていくっていうために必要なことで、自分自身がちゃんと努力しないといけないと、非常に学ばされるお話だったと感じます。いろいろな方に本当に知っていただきたいと、すごく感じました。
長谷川 そうですね。やはり目に見えないものを推測できる物を作りたいというのは、我々の最初のゴールではあるんですけど。それがアプリだったら簡単に、スマホがあればいいなというところに結びついていったらいいなと思っております。
川添 ありがとうございます。今、最後に出たアプリのことは、また次の回で詳しく、開発のお話などもお聞きしていきたいと思っておりますので、今日はこのあたりにさせていただきたいと思います。本日はありがとうございました。
長谷川 ありがとうございました。