農村部から学ぶコミュニティづくりのヒント

農村部から学ぶコミュニティづくりのヒント

齋藤 朱未

生活科学部 人間生活学科 教授

#3 コミュニティの可能性を考える【齋藤 朱未】

都市部でも農村でも、生活に根ざしたコミュニティがあります。では、「コミュニティとは何でしょう」と聞かれたら、みなさんはなんと答えますか? 齋藤先生が研究する農村部を例に、改めてコミュニティの意味や可能性を探りました。

/ 13分20秒

今すぐ聴く

各ポッドキャストで聴く

Transcript

川添 前回に引き続き、「農村部から学ぶコミュニティづくりのヒント」をテーマにお話をお伺いするのは、生活科学部人間生活学科准教授(※)で、農村計画がご専門の齋藤朱未先生です。本日も、ここ京都にあります同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。斎藤先生、ではよろしくお願いいたします。
※収録時。2023年4月現在、教授。

齋藤 よろしくお願いします。川添さん、前回、ご近所づきあいのことについてちょっとお話しましたね。

川添 そうでしたね、はい。

齋藤 ところで、コミュニティって言葉、聞いたことあります?

川添 コミュニティ、ですね……。言葉としては聞いたこと、あります。例えば地域のコミュニティセンターとかいう感じで使ってたりしますけど、正直、深く考えて使ったものはないですね。どういう意味なのかなって思います。

齋藤 “どういう意味”(という部分で)のイメージはしてます?

川添 イメージ……。前回の話の流れでいうと人の繋がりの輪だったりとか、人と繋がってる場所だったりとか。グループっていう感じがしますね。

齋藤 なるほど。間違いじゃないですね(2人笑)。日本語でいうと、「共同体」っていう言葉でよく使われるんですけれども、コミュニティっていうのは、そもそもは1人でもコミュニティっていうふうなこと、主体、対象としては捉えられます。ただ、1人と1人が繋がると、よりパワーアップするじゃないですけど、そういうことに繋がっていくというようなことで、地域の中で地域の住民の方たちと一緒に交わって、何かをやっていこうとか、こういうグループっていうふうな言い方を(川添さんは先ほど)してましたけど、そういう活動をしていくと、より良いものをつくり出すことができるんじゃないか、または効率の良いものをつくることができるんじゃないかっていうようなことで、コミュニティというものが昔から繋がりとしては使われていますね。

川添 1人では限界があることを、それこそ複数人で寄り集まって、より良いものにしていくみたいな、そういうプラスのイメージがすごく強いなっていうふうに思いますね。

齋藤 そうですね。

川添 そのコミュニティっていう言葉、実際の住んでる場所だったりとかで、コミュニティづくり、とかいう言葉の使い方もすると思うんですね。じゃあ、田舎でのコミュニティづくりっていうのは、どんなものになっていくんでしょうか。

齋藤 コミュニティっていうものが、田舎でどういうふうに活きていたかみたいなことをちょっとお話しさせていただくと、コミュニティって便利な言葉なんですよ。で、この1人ではできないものを何人かでまとまると、うまいこと働くことができるってことなので。

例えば田舎の中には、社会的機能って呼ばれているものがいくつかあります。それは、かつての冠婚葬祭であったり。あとは、おうちを建てるといったようなことをするとき。お互いご近所さんが協力し合って結婚式を盛り上げようと、開催してあげようみたいなことだったり、お葬式を主催しよう……まぁ、主催するのは、実際はおうち、その対象の方ですけど、お母さんたち、ご近所のお母さんたちがやってきて、お客さんに出す料理を作って、この家を助けてあげようとか。そういうような働きっていうのが、いくつかありました。

あと、農村独特みたいなところでいくと、(先ほど家を建てる話を出しましたが)かやぶき民家の屋根の茅(かや)。あれを葺く(ふく)っていう作業を今は業者さんがしてるんですけれども、昔はご近所さん10軒ぐらいがみんな集まってきて、みんなで屋根の葺き替えっていうのをやっていた。それもコミュニティの力ですね。

川添 もう本当に生活に根付いてるんですね。なるほど。先生は結構、研究でフィールドワークとして、農村コミュニティの実態みたいなところも、見てこられてると思うんですけれども、長く研究されていて、変化してきているような部分っていうのは見られるものですか。

齋藤 調査でも見てますし、私も農村、農家の生まれなので体感としては、やっぱり……グローバルになりましたね。ITの進化で(2人笑)

昔は本当に田舎というか農村であればあるほど、あとは山のほうに近い中山間(ちゅうさんかん)地域と呼ばれるようなところであればあるほど、住んでいないとお互いの情報ってわからないところが多かったんですけれども、 これだけSNSとかインターネットが発達してくると、ご近所付き合いもインターネットでとか、息子、娘の情報もインターネットを介してといったようなところで、いろんな情報が農村の中にもいっぱい入ってくるようにはなったかなと思います。

川添 お隣近所との、例えばお隣のご主人は何時頃帰ってきたとか(笑)いうのもみんな筒抜けになっているっていうお話も前回ありましたけれど、そういうのも残りつつ。

齋藤 残りつつ。変な話、連絡網でいくと、昔ながらの回覧板を回すという文化はまだ残ってるところは多いです。ただ、おばあちゃんとかがおひとりで住んでいる方が多かったりすると、なかなかそれを回すということが、回覧板を回すっていうことが難しかったりもしますので、もう一斉配信。市町村によっては、お宅に1個タブレットを配付して、「そこに行政で必要な情報は全部届けますよ」っていったような形でやっているところもあります。

川添 へぇ、そうですか(驚き)

齋藤 あとは若いお母様方が少ないところであればSNSなどを使って、ママ友同士で子どもの……なんていうか、臨時託児所をつくる。「ウチ、ちょっとこれがあるんだけど、誰か面倒見てくれない」みたいな、そういうのを、田舎のちっちゃいコミュニティの中でやっているっていったようなことも、たまに見られていますね。

ただ、すごいコミュニティというか、人付き合いが濃いので、「あそこのお母さんは何時には帰ってくるはずだから、この時間以降に電話しよう、メールしよう」っていうのも全部筒抜け(2人笑)

川添 お相手のことをわかったうえでSNSなり、通信網を使うということなんですね。都市部はコミュニティっていうものの前提というか考え方とかが、もしかしたら今お聞きした農村部とは何か違ったりするのかなあという、今、ぼんやりとした疑問なんですが、先生から見られていかがですか。

齋藤 基本的には、変わらないはずなんです。ただやっぱり、都市の人のほうが、生活スタイルが農村に比べると、違いすぎるっていったようなところで、コミュニティを町内会の運営みたいなことでよく都市ではありますけど、それがうまくできないところがあるかなと思います。

農村部であれば、例えばお米を作っている農家さんが多いところだと、大体このシーズン、朝のこの時間帯に田んぼに行って、この時間帯に帰ってくる。それを、ほとんどの農家が同じような時間帯で動いてるので、変な話、お父さんたちが「夜に飲みに行こう」とか、お母さんたちが「夜にちょっとお茶会をする」とか、何か会をするっていっても、大体「家事が終わる7時以降に集まろうね」っていうのができると思うんですよ。都会の方は働いてる業種も多いんで、朝早く出勤して、昼ぐらいに帰ってくる人もいれば、逆に夜に出て行く人もいるっていうようなところでは、コミュニティというのは作りにくいかな。作りにくいというか、コミュニティの濃さといったようなところでは、やっぱり薄くなってしまうかなと、思いますね。

川添 そうですね。もうお仕事・生活スタイルが、多種多様すぎるんでしょうね。あと、ちょっと思ったのが、それこそ“知られたくない”みたいな(2人笑)。余計なことまで聞かれたり見られたり、知られたくないって(コミュニティをつくるうえで)思われたり。コミュニティって呼ばれるものの輪に、自ら積極的に“ここに入りたい”っていう気持ちがなかったら、そこまで繋がらなくてもいいとか。そういう意識を持っておられる方も、もしかしたら都市部のほうが多いのかなっていうふうに、ちょっと想像しますね。

齋藤 おそらく都市の方々に関しても、完全にプライバシーの侵害は嫌だし、個人のプライベートなところを知られたくないという思いはありつつも、確かにこのコロナの関係で、(近隣の人に深く知られたくない)とは言っても誰かとは繋がってたいって思いは、出てきてると思うんですね。

仮に農村から何か学べることとか、参考にできることがあるとすれば、おそらく都市部のほうでも、これから高齢者のひとり暮らしの方はどんどん増えていくと思いますし、高齢者でなくとも、結婚していないひとり暮らしの方とかは、どういう人と繋がっていこうかといったようなことで、判断をしていくことが多くなるかなというふうに、思います。

そういう点では農村はもう、都市に比べるとどんどん高齢化が進んでますし、ほとんど人がいないところに、おばあちゃん1人だけで生活してるっていうか(そんな)おうちは結構あるので、その方々が、そこでどういうふうに生活をしているか、あと誰に助けを求める、どういうふうな人と繋がってるのかといったようなことに注目していくと、(都市部で暮らす)自分たちのこれから先、必要な人とか、必要な繋がり、サービスとか、そういうものについてを判断していくことができるんじゃないかなと思いますね。

川添 なるほど。もう自分ひとりではなくて、自分で何か利用できるものだったりとか、手段を(農村部の事例から)探していくっていうことですね。

齋藤 そうですね。

川添 そうですか。ありがとうございます。本日は「農村部から学ぶコミュニティづくりのヒント」をテーマに、齋藤朱未先生にお話をお伺いしました。次回は最終回として、農村の今と未来についてお話を伺っていきたいと思います。先生、本日はありがとうございました。

齋藤 ありがとうございました。

川添 次回もよろしくお願いいたします。