パッケージから知る食品加工の世界

パッケージから知る食品加工の世界

西村 公雄

生活科学部 食物栄養科学科 特任教授

#2 無添加は本当にいいの?【西村 公雄】

「食品添加物は使っていません」と表示された食品があります。はたして保存料、甘味料、着色料、香料といった食品添加物は“悪モノ”なのでしょうか。今回は食品添加物をクローズアップしてお聞きします。

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川添 前回に引き続き、「パッケージから知る食品加工の世界」をテーマにお話を伺いするのは、生活科学部 食物栄養科学科 特任教授で、食品加工学がご専門の西村公雄先生です。本日もここ京都にあります、同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは西村先生、よろしくお願いいたします。

西村 はい、よろしくお願いいたします。

川添 第2回の今回は、「無添加は本当にいいの?」というテーマを挙げております。前回 は、食品表示についてお聞きしまして、その最後に食品添加物の表示の説明もお伺いしました。今回は引き続き食品添加物について詳しく教えていただければと思っております。よろしくお願いします。

西村 はい。食品添加物。ちょっと悪いイメージをお持ちの方もいらっしゃるんですけど、調味料とか着色料とか、人間、きれいな色(の食品)だと、おいしく思いますよね。(加えて)ちょっと味が良かったらということで甘味料とかの添加物があるんですけれども。

(そのほか)食品の保存性を高め、食中毒の予防を目的とする食品添加物がありましてね。微生物の増殖を抑制する保存料とか殺菌料とか酸化防止剤、こういうものが入れられてまして、食品の品質を劣化させない添加物がございます。

どうしてこういうものが入っているのかといいますと、我々人間っていうのは、いろいろ作物を採ったり、魚を獲ったりして、生きてきたんですけれども。お米は春に採れませんよね。秋にしかない。秋に採ったら1年(ストックを)保たせないと、食べ続けることができません。

魚もそうです。そういうことで私たちのご先祖さんは、どうやったら保存ができるのか、それを一生懸命考えてきたわけですね。(そして)一番効果があったのが乾燥です。水を減らすこと。こうすると微生物が繁殖しにくい。この最も優秀な保存食品が、かつお節です。かつお節は、そこらへんにポンと置いていても、全く腐りません(2人笑)。今はみんな削り節しか知らないかな。

川添 普段、目にするのはそうですね。

西村 もうこれは、全くそういうふうなこと(=腐るということ)はないですね。(あとは)燻製ってご存知?

川添 燻製って……。

西村 スモークサーモン。

川添 はい。

西村 あれも、もともとは保存のために……日本ではあまりしなかったんですけどね、肉食をしなかったので。燻製はどうして(保存できるの)かといいますと、煙の中に(腐敗の原因となる)微生物を抑える成分がいろいろあるんですよ。そういう成分が、どうやら微生物を静菌、(菌を)抑えて食品を長持ちさせるというのがわかってきましたので、それを食品添加物として使えたらというのが、こういう保存料の食品添加物の一つの始まりということになります。

ですから、(食)習慣からこういう保存料というものが出てきたんだというのは、歴史的に考えていただけたらなと思うんですね。

川添 燻製って今、キャンプ飯とかですごくはやりになって、よく聞くようになりましたけれど、そういう意図というか意味合いがあったんですね。

西村 はい。だから煙の中の成分はいろいろと、(腐敗の原因になる)菌を抑える成分があって、それで長持ちをするというのも燻製の特徴ということになります。

川添 保存を目的として、添加物が使われているということですが、他にはどういった意味合いで使われることがあるんですか?

西村 例えば菌を殺しちゃう。殺菌力ですね。こういった殺菌料や保存料は、“我々の体に悪いんじゃないか”というのもあるかと思います。ただ、これも前回申し上げましたけれども、どんな成分でもたくさん摂りすぎると体に悪いんです。けれども、そうでなければ、微量であれば、これは大丈夫なわけです。そういうことを考えますと、食品添加物っていうのは、いわゆるリスク管理はきっちりなされていると思います。だから、こういう食品添加物がない方が安心だと思える消費者さんがね、食品添加物がない(=殺菌処理がされていない)野菜を買われまして、O157で亡くなられたというような事例もございました。これだったら本末転倒になっちゃいますね。だから一般的に(食品に)入れられている食品添加物というのは、そういう安全性を担保している、ということになります。

そして、(食品添加物への使用量は)どういうふうに決まっているかといいますとね、毎日毎日、ネズミに添加物とか農薬を食べさせるんです。で、ずーっと食べさせても一生体に影響のない量の限界、「無毒性量」というのを決めます。毎日毎日食べさせて、その無毒性量の100分の1の量を、我々人間に対する1日の許容摂取量というようにしています。実際我々はどの程度摂っているかといいますと、この1日許容摂取量の多くて数パーセント。大体の食品添加物を、ゼロコンマパーセントの量で摂っていますので、残留農薬とか食品添加物で健康被害を受けるっていうのは、まず考えにくいというふうに思います。

川添 なるほど。そこまで細かくエビデンスが取られているということなので、過度に心配したり恐れたりっていうものではない、ということですね。

西村 健康リスクの大きさから考えますと、死亡率の高さから判断すると(健康被害をもたらすものは)喫煙ですね。これはもう、厚生労働省のホームページを見ていただいたらわかりますように、圧倒的に悪いです。そのあとが脂質の摂りすぎ、肥満、アルコールの過剰摂取、運動不足。こういうふうなものが並びまして(「誤解だらけの「危ない話」」小島正美著 エネルギーフォーラム刊/p265)、ずーっと読んでいっても、食品添加物とか残留農薬っていうのが出てまいりません。だからもうこれ以上の対策をいろいろしても、公衆衛生上のメリットはほとんどありません(2人笑)

川添 身の周りにそういった方がおられたら、ぜひお話ししないといけないかもしれないですね。なるほど。わかりました。その一方で添加物を使っていない無添加とか、健康食品みたいな形で“体にいいよ”といわれるような食品があったりとか、いろいろな言い方があると思います。無添加のものだったり、健康食品みたいなところのお話も逆に聞いてみたいなと思うんですが。

西村 無添加だから健康にいいとは、今申し上げたように言えません。今そういう健康に良いっていうのがあるんですけれども、保健機能食品という食品がありましてね。これは食品の機能っていうのは3つあるんですね。一つは私たちの血となり肉となる栄養の機能です。2つ目はね、私たちに“食べたいな”っていう気持ちにさせる。とってもいいにおい、おいしそうな歯ごたえ。せんべいも湿気ていたら、もう食べる気しないでしょ。

川添 ええ、そうですね。

西村 そういうふうに私たちに“食べたいな”という気持ちを起こさせる機能が二次機能。三次機能は私たちの体の体調を調節する機能があるっていうことが、わかってきました。そしてその三次機能、私たちの体調を調節する、そういう機能を持っていますよ、という食品を「保健機能食品」と呼んでいまして、その中に「特定保健用食品」、これはよく聞きますよね。バンザイマークがついています。

川添 トクホって書いてありますね。

西村 はい。あとは「栄養機能食品」、それから「機能性表示食品」。この3つが(保健機能食品には)あります。この三つは国が「三次機能を持っていますよ」っていうのを太鼓判押してるものと、それぞれの企業さんが、「これはそういうエビデンスがありますよ」ということで、出されている食品ということになります。

ですから、“いわゆる健康食品”というのは、これ以外のものですので、それには本当にエビデンスがあるのかどうなのか、効くのかどうなのかっていうのは、私の方からちょっとお答えすることはできません。

川添 今、解説いただいた保健機能食品というのは、体調を調節するのが目的といいますか、そういう役割があるということでした。ただ私たちってトクホのマークがついてるものを見ると、これを飲んだり食べたりするだけで健康が維持できるというか、健康になれるみたいな、そういう認識を持ったりするところがあるんですけれども。それだけ、その食品だけではもちろんダメっていうことですよね。

西村 それはダメですね。21世紀の初めに、(日本)栄養士会が1日30品目食べましょうって言っていました。これは30品目も1日で食べたら太るからというので、今はちょっと言っていないんですけれども、私はこの数値目標がある方が人間いいと思うので、講義でも(数値目標を持つよう)言ってるんですけれども。

でもこの品目ってのは、30皿じゃないですよ、30品目。私のところは朝ごはん、必ずみそ汁とごはんです。そうすると、ごはん1品目。みそ汁(を見てみましょう)。みそが入っています、豆腐があります、ネギがあります、わかめが入ってます、うちは小芋がよく入ってます、ミョウガがも入ります、これだけでもう7品目。ここに焼き魚があって、大根おろしがあって……で、海苔食べませんか? ほら、もう10品目です。こういうふうに、いろんなものを食べて、ちょっとずついろんなものを(体に)入れる。だからキーワードは「具だくさん」です。どんな食品にも、さっき言ったように危険があるわけです。

川添 はい、そうですね。

西村 だから、(一つの食品ばかりを)たくさん取るとその(危険の)リミットを超えちゃって悪さをするんですけれども、ちょっとずつ違う食品を取ると、それぞれの食品の危険性が下がるし、自然と栄養のバランスが取れると。こういう食べ方が一番いいんじゃないかな。それに今言った保健機能食品。こういったものを(必要に応じて)付けていただければいいんじゃないかな。もちろん適度にちゃんと運動しないと、とも思いますね。

川添 そうですね、何事もバランスが大事なのかなということを、改めて感じたところです。ありがとうございます。今回は「無添加は本当にいいの?」ということで、無添加が切り口になりましたけれども、次回はいわゆるお魚などの「天然物」というのをキーワードにお話を伺っていきたいなと思っておりますので、次回も引き続きよろしくお願いいたします。

西村 よろしくお願いいたします。

川添 ありがとうございました。