#3 医薬品の効果を最大限に活かすには?【喜里山 暁子】
「服用は食後」といわれることが多い薬ですが、その理由と正しい「食後」のタイミングとは? 症状だけではなく、ライフスタイルにあった薬の選び方、服用で気をつけたいことをお聞きしました。
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川添 前回に引き続き、「薬剤師が伝授する医薬品との上手な付き合い方」をテーマにお話をお伺いするのは、薬学部 医療薬学科 准教授で薬物動態学がご専門の喜里山暁子先生です。本日もここ京都にあります同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは喜里山先生、よろしくお願いいたします。
喜里山 よろしくお願いいたします。
川添 前回は医薬品の選び方、自分に合った薬の選び方を教えていただきましたが、服用するということを、今回のエピソードではお伺いをしていきたいなと思っております。
喜里山 皆さん、薬(の服用)はだいたい1日3回というイメージがあると思うんですけれども、逆に「1日1回でいいですよ」とか、「1日2回でいいですよ」とかいう薬もいっぱいあると思うんです。実は薬の成分の違いで、1日1回で良かったり、3回で良かったりする場合と、製剤的な工夫も…ちょっと難しいですけれども、薬の形になったものですね。何か工夫をして、本当は1日3回飲むものを1日1回でいいようにしてる場合があって。だから、「1日何回がいいのかな」というのは、皆さんの生活スタイルに合わせて選んでいったら(と思います)。もちろん病気によって、どうしても3回飲まなければいけない薬もありますし、一概には言えないんですけれども。皆さん今、いろんな生活スタイルがあると思いますので、目標として “きちんと薬を飲んでもらうこと”ということを考えますと、ライフスタイルに合わせて薬の服用の回数とか、タイミングを選んでいくということが可能になっています。
川添 なるほど。思い返すと、私の子どもが何か病気、症状があって、病院で処方されるお薬、水薬がまだ多いんですけれども、「1日3回飲んでね」というふうに言われたときに、子どもは今保育園に通ってるので、3回のうち1回というのはお昼に飲まないといけない。
喜里山 保育園で。
川添 保育園で。でも保育園は、投薬は基本的にNGなので、“そうなると2回しか飲めないことになっちゃうな”ということで、一度私も薬剤師さんに「お昼飲めない場合、どうしたらいいんですか」って聞いたことがあるんです。そうすると、「そのときは帰宅されてから1回飲んで、あと寝る前に1回飲んで、3回飲めばいいよ」と言ってくださったので、そういうことなんだと思って。ちゃんと聞いてみるもんだなと、すごく実感したことがあります。
喜里山 だいたい薬って、食後っていう指定があると思うんです。もちろん飲むことによって消化管に何か影響を及ぼすので、食後服用がいいっていう薬もありますけれど、飲み忘れを防止するという意味で、1日3回だったら食後という指定がある場合が、結構多いんです。
なので、今回のようにお昼に飲めないようでしたら、朝ごはんを食べた後に1回、帰ってから1回、寝る前に1回とか。あまり偏りのないように、自分の生活の中で合わせて3回を決めていくっていうのは一つの方法だと思います。
川添 そうですか。あとすごく基本的なことですけれど、食後っていったときに、本当に食事が終わって「ごちそうさま」って言ってすぐ飲んでいいのか、やっぱりちょっと時間をあけた方がいいのかとか、何かそういうのってあるんですか。
喜里山 基本、食後と書かれている場合、食後30分がベースになっています。食直後になりますと、やはり胃の中にいっぱい食べ物がありますので、普通に考えると、薬がちょっと効きにくくなるかなっていう感じです。胃の中にいろんな食べ物があるので。本当のことを言うと、多くの薬は食間、胃に物がない状態の方が効くものが多いです。絶対とは言えませんけれども。けれど食後2時間たってから飲んでくださいって言ったら、大抵の人は忘れますよね。
川添 そうですよね(2人笑)
喜里山 なので食後30分ぐらいすると、胃の中の食べ物もある程度落ち着くので、ということになっています。
川添 なるほど。
喜里山 食前(に飲む薬)も、食直前に飲みますと、せっかく薬を飲んでもその直後にごはんを食べると、食中に飲むのと同じようになってしまいます。食前とありましたら、食事の30分ぐらい前ということになります。
ただ、エピソードとしては糖尿病の薬。食直前という指定があるものもあるんです。食べ物と一緒に、食直前に飲んだ薬は消化管の中を進んでいきますけれども、薬が吸収されるとき、また栄養素が吸収されたときに、例えば糖でしたらデンプンがグルコースに分解されて吸収されていくんですけど、その食事の中のでんぷんをグルコースにする酵素を(糖尿病の薬が)止めるので、糖が吸収されにくくなる。そういうことがありますので、(糖尿病のような)そういう薬というのは、食事と一緒に飲んで腸管の中で効果を発揮するということになります。
だから、その時間に飲まなければならない薬はありますけれども、自分のライフスタイルに応じて変えることもできる薬もあるので、困ったときは薬剤師さんに相談するのがいいと思います。
川添 そうなんですね。あと最近は、健康食品だったり、サプリメントなんかも服用されている方も多いんじゃないかなと思うんですけれど、それらとお薬というのは、やっぱり関係するものですか。
喜里山 そうですね、ある特定のものは、薬と相互作用っていうんですか、そういうものを起こすことで有名なものがあります。健康志向でサプリメントが流行っていますが、多くはあんまり影響はないんですけれど、ある特定の種類というのは薬が効きにくくなります。
あと食事なんかでも、実はジュースの中でもグレープフルーツジュースは、血圧の薬と飲むと効果が強くなりすぎるっていうのがあるんです。
川添 へぇ、そうなんですか(驚)
喜里山 だからある種の血圧の薬を飲まれるときは、「グレープフルーツジュースは飲まないでくださいね」って指導されると思うんです。それは何かといいますと、一番初めの回で「肝臓で薬は代謝されて体から出ていく」っていう話をしましたけれども、グレープフルーツジュースの中に含まれる成分が、その肝臓での代謝のある種の酵素を阻害する、効きを悪くする、酵素の活性を低下させるので、薬が(体から)出て行きにくくなって、効果が高くなって、副作用が出てしまうということになります。
※このグレープフルーツジュースの影響は、肝臓よりむしろ消化管にも同じ薬物代謝酵素があり、その酵素が阻害されるために吸収量が増えて起こります。
あと納豆なんか有名ですよね。
川添 納豆。
喜里山 血液を固まりにくくするお薬の作用を弱めちゃうとか。そういうのがあるので、気をつけないと。たぶんね、有名なものは指導されると思うんですけれども。
川添 サプリメントとかそういう健康食品だけじゃなくて、いわゆる食事のところでも気をつけるべきことっていうのがあるんですね。
喜里山 多分、処方箋を持って薬局なんか行きますと、アンケートを渡されると思うんです。その中に普段使っている薬とかサプリメント、アレルギー情報も含めて、いろいろ質問があると思うんですけれども、そういうところで薬剤師は本人のライフスタイルと、これから飲む薬の関係をチェックしていきますので、そういうところに、いろいろと気になることを書いておくといいと思います。
川添 正直に書かないといけないですね。先ほど私の子どもの話をしましたけれど、今は液体でしか薬を飲んでいないんですが、いずれ近いうちに錠剤であったり、粉薬は(今も)たまに出たこともあるんですが、液状以外のお薬を飲むことが出てくると思うんです。やっぱり初めは飲めないということが想像されて、そうしたときに親としてやりがちなのは、錠剤を砕いてみたりとか、「もう噛んでいいよ」って、もしかしたら言っちゃうかもしれないとか(2人笑)。実際、粉薬が出たときもやっぱり飲めなかったので、お茶だったかに混ぜて…麦茶ですけれど、お茶に混ぜて、わからないようにして飲ませたりとかもしたこともあって。そういう飲み方、服用時に本当に気をつけるべきことっていうのもきっとあると思うので、そのあたりをお聞きしたいです。
喜里山 そうですね。実は薬っていろんな工夫がされてるので、砕いちゃってもいい薬も結構あるんですけれども、中には砕くとせっかく期待したのに、効果が現れないっていうのもあるので、ちょっと難しいんです。
特に1日3回飲んでくださいねっていう薬は比較的そういうのは少ないんですけど、1日1回でいいとか、中には1週間にいっぺんとかいう薬になりますと、やはりその錠剤の中に実はいろんな秘密が隠されていて、壊しちゃうと期待した効果がないっていうのがあるんです。例えば、酸に弱い薬。酸ってちょっと難しいですけれど、まず薬を飲むと胃を通過します。胃というのは実は胃酸というものが含まれていまして、非常に酸性が強いんですけれども、その中でまず普通に壊れて…胃の中の水分で錠剤がバラバラってなったときに、その胃酸に薬が触れて成分が壊れてしまう場合もありますので、胃では壊れないような成分で錠剤自身を包んでいる場合もあるんです。
その後、腸に行って少しpHが上がってくると(錠剤が)壊れるような(設計)。そこは小腸という薬の吸収部位になりますので、そこで壊れて吸収されると、(不要に)分解しないで成分がそのまま、たくさん体の中に入っていくというふうになります。それを砕いて飲んじゃうと、もういきなり胃を通過するときに酸に触れちゃって、全部(成分が)壊れちゃうということがありますので、できれば壊さないように。もし錠剤とか飲みにくいようでしたら、壊していいかどうか、場合によっては薬を変えてもらう、水薬に変えてもらうとか、可能でしたらそういうことをお願いされてもいいと思います。
川添 そうなんですね。薬の効果とかに合わせて開発もされてるっていうことなので、なるべくその通りに飲まないと、効果は発揮されないんですね。
次回はその製薬、お薬のつくり方に関してもお話を伺っていくと思いますので、また次回、そのあたりを深掘りさせていただきたいと思います。ありがとうございました。
本日は「薬剤師が伝授する医薬品との上手な付き合い方」をテーマに、「医薬品の効果を最大限に活かすには?」について、喜里山 暁子生にお伺いしました。次回は「患者に寄り添う『製剤設計』という技術」についてお話を伺っていきたいと思います。先生、本日はありがとうございました。
喜里山 ありがとうございました。