#2 「親子で工作」から育まれること【竹井 史】
いわゆる“図画工作”が苦手だった保護者にとって、子どもとの工作遊びは悩みのタネ。気軽に取り組むにはどうしたらいい? どこまで“おせっかい”を焼いていい? 子どもと一緒に工作を楽しむためのコツをお聞きしました。
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川添 前回に引き続き、「感性を育む親子のものづくり」をテーマにお話をお伺いするのは、現代社会学部 現代こども学科教授で美術教育学がご専門の竹井史先生です。本日もここ京都にあります同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生、よろしくお願いいたします。
竹井 こんにちは。よろしくお願いいたします。
川添 前回、先生のご専門とされている研究内容をいろいろ紹介いただきまして…。実演もたくさん見せていただいたんですけれども、今日は工作にスポットを当ててお話を伺っていきたいなと思っています。いきなり私自身のことをお話すると。
竹井 いいですよ、どうぞ(笑)
川添 工作というのが非常に苦手で、もう昔から苦手意識がすごく強くて、自分自身が子どもの頃からですけれども。何を作ったらいいのかわからない、遊べないということもあって、それが自分の中ですごくマイナスポイントだっていう思いをひきずったまま大人になって。そして今、子どもがこのあいだ4歳になったところなんですけれど、制作好きなんですよ。
竹井 あぁ、そうなんですか。
川添 紙があったらとか、ハサミを使いたいとか(何かを作ることが)好きなんですけど、それ以上に楽しませてあげる術が自分の中にはないというのが、自分の中ですごく今気になっているところです。なので今日の工作にまつわるお話というのは、ぜひ先生にいろいろお伺いしたいなと思っていました。
竹井 工作できなくてもね、死にはしないのでね、大丈夫です(2人大笑)。僕は音楽がダメだし、それでもちゃんと図々しく生きていますしね。まず、そういう“何々ができなくちゃいけない”っていう、全てをできなきゃいけないという発想を、もうやめてしまった方がいいですよね。自分の得意分野で、どんどんやればいいということで。そうすると身も心も軽くなってきて、また(苦手な分野でも)素敵な発想が湧いてくるんじゃないかなと思うんですね。
川添 そうですか。
竹井 日本の教育は全部みんな同じように、いろんなことをしようと…それはそれでね、可能性を広げていくっていう意味ではいいんだけれど、全てできなくちゃいけないって、これは大嘘ですよね。全然そんなことは考えなくていいと思います。
川添 ちょっとだけ心が軽くなりました。ありがとうございます。そうは言ってもやっぱり、これから子どもが成長していく中で、例えば小学校の夏休みの宿題だったりとか。
竹井 多いですねぇ、親がやってしまうことね(笑)
川添 私自身も苦手なんだけれど、(苦手なりに)子どもと一緒に取り組むと絶対、口出ししたり、したくなるだろうなとか。
竹井 子どもは「うるさいなぁ」と思って聞いてるはずだよね。
川添 そのあたりをどういうふうに、どの程度子どもには自主的にやらせて、保護者の立場としてはどういうふうに寄り添っていけたらいいのかなっていうのが、いまいちピンとこない部分があって、そのあたりをまずお伺いしたいと思うんですけれども。
竹井 その話ですとね、私がやった間伐材工作っていう…間伐材っていうのは、スギとかヒノキの計画的な植林で伐採された木材ということなんだけれども。それを使った工作のワークショップをやったときの話を、聞いていただけたらと思うんです。
川添 はい。
竹井 そのときはですね、ある親子、お父さんと子どもが、朝ちょっと眠たそうな感じで来たんです。ちょっとどっちもしんどそうやなぁ、みたいな、会話も少なくてね。「それじゃ今日は間伐材使って、何か作ってもらいますよ」って(言ったんです)。
そうするとですね、子どもはパッと10cmぐらいの、いや10cmはちょっと大きいかな、6cmぐらいの間伐材を見ると、「これは何か、いろんなものができるな」って想像するんです。ところがですね、それを切らなあかんわけです。のこぎりで切る、金づちで打つっていうね。(子どもには)そんな簡単にできるわけじゃないんですね、イメージがあっても、そんな簡単にできるわけじゃない。
そこにお父さんの出番があるんですね。力持ちで、のこぎりの使い方は上手くないけれど、昔切ったことがあると。ここでちょっと偉そうなところを見せてですね、「おぉそこを切るのか」とかいうことで、じゃあ切ったろうと。そうすると子どもはですね、「お父さんすごいな、これを切れるのか」って思うわけです。
逆にお父さんにしてみたら、発想は湧かないことはないんだけど、やっぱり社会人になって自由な発想が湧きにくい。そうすると子どもの自由な発想、奇想天外な発想にですね、驚いたり感心したりするわけですよ。
その中で、お互いの新たな出会いみたいなものがあるわけです。普段、日常生活ではね、お父さんは「お父さん」っていう役割を演じているじゃないですか。子どもは「子ども」という役割を演じてて、毎朝やっているようなこと、言うてることは同じようなことで、なんとなくその役割を演じているような感じがするんです。その中にですね、間伐材っていう非日常の工作環境を提供されると、日常にはないような男と男同士のせめぎ合いが始まる、ドラマが始まるわけですよね。
そうすると、お父さんは「こいつ、なんかすごいな。普段、全然言うこと聞かんのに、勉強せえへんのに発想はすごいな」。子どもは「お父さん、普段は寝てばっかりいるのに、ビールばっかり飲んでるのに、このときはなかなか力強いな」ってね。で、お互いああやこうや言いながら、工作をし始める。そうすると、共通の活動を一緒にやっていると、共通の言語ができあがってくるんです。「こうした方がいいんちゃう」「ここを押さえてて」。そこにまたスギやヒノキのいい香りがプーンと漂ってくると、本当に2人で共同作業とかをやっているような感じになっていくわけですよね。
そこで新たな親子の出会いがあるということで。なので、要は子どもなりの良さ、お父さん、あるいはお母さんなりの良さみたいなものを、どんなふうにバランスよく生かしながら、例えば工作をやっていくかということが、大事になってくるんじゃないかなと思うんですね。
川添 今のお父さんと子どものワークショップの例の中で、例えば途中でお父さんの方が「お前、もっとこうしろよ」みたいなことを、やっぱり言いたくなっちゃうのかなって思うんですけれど。そういう声かけっていうのは、子どもに対してやってもいいもんなんですか。
竹井 それはね、(間伐材工作のような)対等の場所でやるわけですから、そこで逆に子どもも、「そんなこと言うたって、僕はこういうふうにしたいんだもん」みたいなふうになって、(お互いに意見を言い合える)そういう関係作りをできればしてほしいですよね。お父さん、あるいはお母さんから、“こう言われたからそういうふうにする”みたいな人間関係になっちゃったら、これはやっぱり具合悪いかなと思うんですね。
川添 日常生活で朝起きて、学校に行くまでの準備の中で「早くしなさい」なり、そういう時間の過ごし方だけだと、親が上で子どもが下っていう、そこが崩れることがない。
竹井 そうなんですよね。時々、逆のパターンがあるけどね(2人笑)
川添 毎日の生活の中ででもそういう上下(うえした)の関係ではなくて、対等な関係性というのを持てる時間を作れるのが、家庭の中での、例えば工作の時間。
竹井 そうですね。まぁ工作だけでなくてね、例えば一緒にお風呂に入ったりというのも、とっても素敵な時間だなと思うしね。プールでもいいです。裸の付き合いとか、そんなんいいじゃないすか。共通に体験できるっていう、そういうことですね。親子で存分にやりながら、その中で新たな発見を、お互いの発見をしていくっていう、そんなことが大事かなと思うんです。
川添 親のほうから考えても、子どもの今まで見たことのなかった一面を見られるって、すごく嬉しいことですし。
竹井 そうですね。だから一つの提案はね、子どもが作ってるのを親が見てるだけじゃなくて、同じことを親も子どもと一緒にやってみたらいいんですね。そうしたら、子どもの良さとか問題点、お母さん、お父さんの良さとか問題点もわかると思うんです。「お母さんこんなん下手やな、ここ、こうするねんで。なんやこれ、全然おもしろないやん」みたいな話になってしまったり。一緒にやればいいんですよ。
川添 そうですね。
竹井 何もせずに上から「ああだ、こうだ」って言うのをやってしまうと、子どもは「うるさいなぁ」というふうに思うだけなんじゃないかな。あるいは、言われた通りにしてしまうイエスマンになっちゃわないとも限らないですよね。
川添 そうですね。案外、大人も一緒に(工作などを)やってみて、「これ結構ムズイやん」みたいなこともあったりしますしね。
竹井 それ、いいと思いますね。
川添 なるほど。そんな中でも、危ないことは制止したりだったりとか。
竹井 それは大事ですよね。
川添 今、私の娘だったらハサミをそれなりに使えるようにはなってきたかなぁとは思うんですけれど。
竹井 お子さん、おいくつでいらっしゃるんですか。
川添 4歳ですね。それなりに上手に使えるようになってきたけれども、でもほったらかしにはもちろんできないし、見守りは必ず必要だし。それが今はハサミだけれども、また違う物、段々触れる物が多くなってくるはずなので、物の使い方、安全面でのきっちりとした担保の仕方っていうか、そのあたりは親の目線としては……。
竹井 知っておかなくてはいけないですね。安全性は大事です。ハサミは大体、そうですね大体3歳ぐらいかな、それぐらいが一番初めのハサミとの出合いで、ただそれは個人差ありますので、(その年齢になってハサミを使わなくても)全然心配せずに。ただ(使い方の)順序性みたいなものを忘れると、やっぱり危険と思いますので、安全性を含めてね、そこはお母さんに知っていただく必要があるかなと思います。
ハサミはまず、輪っかが二つありますよね。
川添 はい。
竹井 そこにですね、親指と基本は人差し指(輪が大きいときは、人差し指と薬指)を入れます。人差し指を外に出したほうがいいというふうに言う人もいるんですが、これは間違いではないんですけれども、実は昔の裁ちバサミの名残りなんです。大きなハサミのときには人差し指を外に出したほうが安定したんですね。でも今、子どもたちが使っているのは事務用のハサミなんです。だから人差し指を外に出してしまうと、危険性のほうが勝ってくるので、人差し指は中に入れるのがいいと思います。
川添 はい、中に入れる。
竹井 そして輪っかに(指を)入れたら今度はですね…川添さん、今はお子さんは大きいけれども、もう少し小さいお子さんだったときに、どんなふうにしてハサミを開くとか、閉じるとかの言葉がけをされますか?
川添 えぇ…なんて言っていたかなぁ……。
竹井 どうしたらいいかな。
川添 どうしてたかな。もう片方の持ってないほうの手、それは近くに置かないでっていうことは言ってました。テーブルの上に(ハサミを持つ手の)ひじをつけてとか、紙を切るんだったら紙のこっちの方を持ってと。ハサミの刃が近くないところに、もう片方の手を置く。
竹井 それはそれで大事なことですよね。これね、(ハサミの輪に)手を入れてするときに、子どもの生活経験で持ってる動きでね、(拳を開いて閉じる)パーグー、パーグーってあるじゃないですか。ハサミ(の輪)中に(手を)入れても「パーしてごらん、グーしてごらん。あ、パーしたら開いたねぇ。グーしてごらん、閉じたねぇ」。そうすると子どもはパーグー、パーグーのやり方でハサミが使いやすいですね。初めは1回切りっていうふうに、「パーしてグーして、あっ切れたねぇ」っていうね。そういうところから、の短いものを、紙の上みたいなもので切るような、それからスタートしていくといいですね。
そのときにね、「あなたが(紙の)こっち持ってパーしてグーして」と両手を使ってやると、これは怪我のもとになります。最初はお母さんなり先生が、紙の端を持って切るものをハサミの間に持ってきて「パーしてごらん、グーしてごらん」って言って、「あっ、切れたねぇ」ってそんなことをやりながら、切るということの喜び、楽しさを子どもたちに伝えていく。それができたら今度はパーグーパーグで2回切る。バーグーで切っていったり、連続して切ったり、あるいは三角形に切ったり。
止め切りっていう、途中で止めて切るとか、円を切るとか、段々、難しい形になっていくわけなんですね。その時、お母さんが子どもたちの見本というか、切ってるときに「こうやって切るんよ」ということや、あるいは子どもに見られていないと思って、ハサミで紙を切ってるときによくやることは、ハサミの延長線上に手があるお母さんが多いんです。それは子どもが真似しますから、絶対やめてください。ちょっとやりにくくてもですね、ハサミの延長線上に手はないようにしていただきたい。そしてもう一つね、とっても大事なことがあります。それはなんだと思います?
川添 えぇ……もう一つ? なんだろう。なんでしょうね。
竹井 あまり難しく考えないで(笑)
川添 危ない、危ないって言いすぎるのも、よくないのかなって。
竹井 おぉ、正解に近づいてきました。
川添 楽しいものだというか、正しく使えば楽しいものだって。
竹井 すばらしい、大正解。ハサミで紙を切るときはですね、笑顔で切るということがとっても大事で。「お母さん、楽しそうに切ってるな。僕もちょっとやってみようかな」ってそういうふうに思わせるように、紙を切ってもらいたいなと思いますね。そこが大事なポイントと思います。
川添 危ないものって大人はわかっていたら、初めからちょっと制止しがちだったり、使わせることを躊躇しがちなんですけど、そうではなくて、きっちり責任を持って見守るというか、正しい使い方を大人自身も勉強しながら、子どもに楽しそうに伝えていく。
竹井 本当に楽しいですよ(2人笑)
川添 そして、一緒に楽しむっていうのが、やっぱりすごく大事なんだなというふうに今、先生にお聞きしてすごく感じました。
竹井 あとはですね、おせっかい(を焼きがちな)お父さん、お母さんに、ちょっと言っておきたいんすけれども、子どもにできることは子どもにさせてあげてください。絶対おせっかいはダメということを言っておきたいですね。
また、子どもが一生懸命に切ってるから、もうその姿を見たら「子どもがやっているから」ということで、安心してテレビを見たり、お料理に集中しないでくださいね(2人笑)。子どもはこうやってるところを、お父さん、お母さんに見てほしいんですよ。安全性のこともありますけど。一緒に見て、それを「すごいのができたね」「何ができるんかな」っていうことで、褒めてあげていただけたらいいかなというふうに思います。
最後はですね、できたらそれを飾って、作って終わりじゃなくて、作ったところが半分ぐらいかな。それを一緒に飾ったり、あるいはそれで遊んだり。お父さんが帰ってきたら「お父さん見てごらん。今日ね、うちの子どもね、ものすごい素敵なことができたのよ」「そうかぁ」って。そうしたら、子どものやってることも浮かばれて、「お父さん、こんなに喜んでくれたら、もっとやってみよう」と思うじゃない。そういう中でですね、1枚の紙とハサミなんだけども、その中で喜びを積み上げていって、家族の輪をより強固にしてもらいたいなというふうに思うんですね。
川添 私自身も、そのあたり気をつけてといいますか、意識して。
竹井 一緒にやってくださいね。
川添 はい、ぜひそうしたいと思います。ありがとうございます。本日は「工作を親子で楽しむことで育まれること」について、竹井史先生にお伺いしました。次回は絵画ですね。絵を描くということについてポイントを置いて、また先生にお話を伺っていきたいと思います。またよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。
竹井 ありがとうございました。