#1 SNSの情報とどのように向き合うか【梅田 拓也】
SNSやニュースアプリでは、好きなアカウントやトピックを登録することで、ユーザーの好みに合わせた情報を集めることができます。しかしその中には、私たちの自由な情報収集を阻む、さまざまな罠が潜んでいるかもしれません。現代の情報環境における、新しいメディアリテラシーに迫ります。
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川添 今回は学芸学部 メディア創造学科 助教でメディア研究と技術哲学がご専門の梅田拓也先生に、「ネット社会に惑わされないために」をテーマにお話を伺います。全4回にわたって、ここ京都にあります、同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは梅田先生よろしくお願いいたします。
梅田 よろしくお願いします。
川添 初回ですけれども、SNSをキーワードに、お話を伺っていきたいなと思っております。SNSの情報とどのように向き合うかということなんですけれども。本学でも、TwitterですとかFacebookですとか、そういったSNSを使って大学の情報を発信していく取り組みは以前から行っているところです。本学同様にいろんな企業さんであったりとか、もちろん個人もSNSを利用していろいろ情報発信をされる方が多いというような、そんな社会状況にあるのかなと思います。日本では、Twitter人口が世界の中でも2位ぐらいなんですかね、それぐらいTwitter人口というのは日本でも多いというふうに聞いたことがあります。
梅田 川添さんは個人でTwitterとかSNS、されていますか。
川添 Twitterに関していうと、自分で発信はしないけれどもアカウントを持っていて、流し見は毎日するかなっていう感じです。あと、Instagramですね。
梅田 はい。
川添 Instagramはちょっと発信したりもしていますし、ただそんなに頻繁ではなくて、どちらかというと見る側という感じで使っています。
梅田 そうですね。僕も授業とかで学生に「TwitterとかInstagram、どう使っていますか」っていうことを聞きますけれど、自分から何かを積極的に発信している人は、そんなにいないという印象を持っています。
川添 学生でもそんな感じなんですか。
梅田 そうらしいですね。川添さんは(SNSの利用は)情報を取るのが主ということなんですか?
川添 そうですね、情報を取るというより…。
梅田 集めるとか。
川添 それもありますけれど、例えばInstagramなんかだと風景写真なり、食べ物の写真なり、それ以外にもいろいろ視覚的に自分も“いいな”って思えるものがたくさん並んでるのを、単純に見たいっていう、そんな感じですかね。
梅田 川添さんは、TwitterとかInstagramで、フォローするというか情報を取るソースを選ぶときに、どういうことを大事にしたり、基準にしたりされているんですか。
川添 選ぶときですか…。自分が知りたいこととか、興味関心がある人をまず選びたいっていうのはあります。
梅田 なるほど。これは結構、今のSNSの研究で非常に話題になっていることなんですが、TwitterとかInstagramもそうですけれど、両方とも何か自分が好きなアカウントだったり、自分の好きな情報をつぶやいているものをやっぱり優先して取ってしまいますよね。これが今のSNSの情報行動において、すごく重大な影響を与えているのではないか、ということが話題になってます。
川添 どういった点ですか?
梅田 そうですね。これはキーワードなんですが、「サイバーカスケード」っていう言葉をご存知でしょうか。
川添 すみません、初めてお聞きします。
梅田 カスケードは英語で滝という意味で、「サイバーカスケード」なので「インターネット上で生まれる滝」ということなんです。滝って上から水が流れてくると、岩にぶつかって分かれるじゃないですか。
川添 はい。
梅田 こんなふうにインターネット上の情報コードっていうのは、いろんなところでぶつかりながら分かれていって、自分の趣味とか関心、あるいは思想というものに基づいて、人がどんどん(自分のまわりに)固まってしまうという現象が起きていると。これを「サイバーカスケード」って一般的に言うんですね。
なので、ツイッター上で政治のことに関心を持っている人は政治のことをつぶやいている人をフォローするし、アイドルに関心を持っている人はアイドルのことをフォローしちゃうし、インテリアのことに関心を持っている人はインテリアに関するところばかりというふうになって、結局、自分の趣味とか考え方に近い人同士でしか、コミュニケーションをしていかないような形になっていってしまっていると。
川添 はい。
梅田 これももう一つキーワードなんですが、「エコーチェンバー効果」っていう言葉をご存知でしょうか。
川添 エコーチェンバー効果ですか。これもすみません、初めて聞きます。
梅田 エコーチェンバーって「反響室」という意味で、今このラジオを録っている部屋みたいに録音するときに使う部屋のことなんですが、自分の声が跳ね返ってくるような部屋のことを指しているんですね。
川添 はい。
梅田 さっき言ったみたいに、自分の考え方とか思想が近い人が集まってネット上でコミュニケーションをしていると、自分の考え方に近いような意見を言っている人ばっかりになってくる。そうすると、自分の趣味とか考え方に近い人が身の回りにたくさんいる錯覚にとらわれていって、その意見をどんどん強めてしまうと。だから仮に、フェイクニュースとか嘘みたいな情報を自分が発信していたとして、その周りにもそれを発信する人がたくさんいるので、それは嘘だということに気づかないまま、どんどん信じ込んでいってしまうみたいな現象が起きてると指摘されてます。
川添さんには先ほど、「どうやって情報を得るアカウントをフォローしていますか」みたいなことを聞いたんですが、実はそのポイントが「自分がどういう思想に染まっていくのか」とか、「どういう考え方に慣れていくのか」ということと、実は密接に結びついてるっていう話なんです。
川添 そうなんですね。フェイクニュースとさっき先生がおっしゃいましたけれど、フェイクニュースとか、作り上げられた画像とか話なんかがSNSによって拡散してしまって、嘘が本当のことのようにいろんな人を巻き込んで、えらい騒ぎになったとか、そういうニュースも聞いたりしますよね。それぐらいすごく影響があるようなことですよね。
梅田 川添さん、身近にそのフェイクニュースとかを聞いて困ったみたいな経験とかはありますか。
川添 私自身は正直、思い返しても今のところないかな…。
梅田 フェイクだと気づいていないだけかもしれないですよね。
川添 ですよね(2人笑)。そこを見抜く力だったりとか、気付くようにしないといけない視点だったりとか、そういうものをきっちり持っておかないと、むやみやたらにSNSは楽しいだけのものではないのかなというふうにも、普段使いながら思ってるところはあるんですけどね。
梅田 そうですね。一つはさっき言ったみたいな「サイバーカスケード」だったり「エコーチェンバー効果」だったり、インターネット上のコミュニケーションがどういう傾向を持っているのかとか、どういうふうになりやすいのかっていうことを事前に知っておくと、例えば自分が好きなものばっかり見ていないだろうかとか、見慣れないものを見たときにそれを目の端から外そうとしていないかとか、そういうことを反省するために使えたりするのかなと思いますね。もう一つはTwitterとかInstagramの仕組み自体をちゃんと理解した上で使うってことも大事になるのかなと思います。
川添 仕組みというのは、最近だとTwitterを毎日見てます(というときに)、フォローしているアカウントからの発信されたものは、確実に画面を開いたらサラッと出てきてその(出てくる)中に、「別にこの人はフォローしてないんだけど」っていうような感じで、似通ったようなことをつぶやいてる方の投稿が一緒に流れてきたり、「私、この人のこと、あんまり知らんけど」みたいな感じのこともあったりするんですけど。
梅田 そうですね。
川添 今どういう仕組みで、個人個人が表示されたり、見られるような仕組みになっているんですか。
梅田 そうですね。今は川添さんがおっしゃったように、使っているユーザーの行動、例えばどんなアカウントに“いいね”をしたのかとか、どんなアカウントをフォローしているのかとか、そういったことを数量的に計算して、「この人はこのツイートが気になるんじゃないだろうか」みたいなことを勝手に押し付けてくるような、レコメンドですね。レコメンドのシステムがいろんなSNSとかに実装されているんです。それがさっき言ったようなサイバーカスケードやエコーチェンバー効果をさらに強化していく形になっていて。だからそういう情報提示、おすすめするためのアルゴリズムというか、そういった仕組みが、より自分の興味関心に近いものしか見えないような環境にしているんじゃないかなと。
だからそれも、フェイクニュースの問題に繋がってくる。つまりフェイクニュースが出てきたときに、それを“いいね”とかしちゃうと、それに近い情報がまたどんどん流れてきて、それでいつの間にかそれが真実であるかのように信じ込んでしまうという動きがあるのではないかなと思います。だから、パッと見ではわからないような、TwitterとかInstagramの仕組みには、そういう偏った行動をとらせてしまうような、何か罠というか、トラップが潜んでいるんじゃないかなぁと思いますね。
川添 フェイクニュースって、SNS文化の中で生まれたものなんですか。それとも、もっと概念的にだったりとか、そういうものっていうのは、昔むかしからあったりするものなんですか。
梅田 そうですね。フェイクニュースっていう言葉自体はすごく昔からあって、たくさんの人に対して嘘の情報をばら撒くっていうようなこと自体は、昔からありました。例えば19世紀末とかに、今私たちが新聞って呼んでいるマスメディアが大衆化し、要するにみんなが字が読めて、安い値段で新聞が買えるようになった時代ですね。この時代にも既にフェイクニュースが大きな問題になっていました。アメリカの新聞社とかは、発行部数をいっぱい出して、それで嘘でも何でもいいので、面白い情報で載せて、いろんな人に新聞を買ってもらおうとしたんですね。その結果「イエロージャーナリズム」というんですが、今でいう週刊誌とかみたいな、なんていうか面白おかしく、下世話に語ってしまうようなメディアがたくさん売れて。それが結構、その当時も批判されまして、それを批判するような風刺画とかを見ていると、風刺画の中に、既に「フェイクニュース」って言葉が入ってたんですね。だから、実はこういうフェイクニュースみたいなものが、実は昔から存在するものなんですね。人間って業が深いなという(2人笑)感じがしますね。
川添 そうなんですか。(フェイクニュースが)昔からあったということは、受け取る側としては、発信されている情報をそのまま読んだまま受け取って「そうなんだ」というふうに理解するのではなくて、やっぱり読み解き方であったりとか、背景を考えたりする思考だったりとかは、人間として持ち合わせておかないと、それこそフェイクニュースっていうもの自体が世の中に拡散されてしまったりとか、今だったらSNSというもので拡散の時間だったりとかが、ものすごい速いスピードで、しかも範囲というんですか、それがすごく拡大されてしまうので、受け取る側の倫理感っていうんでしょうか、そのあたりはしっかり持っておくべきというふうに、昔むかしから当たり前だけれども、備えておかないといけないことなのかなっていうふうに今、聞いていて思いました。
梅田 そうですね。一人ひとりが情報の内容だけじゃなくて、その情報の受け取り方というか、自分がどうやって情報を得ているのかっていうことに自覚的になる必要があるなと思います。
川添 なるほど、わかりました。ありがとうございます。今日はSNSを切り口にしてお話をお伺いしてきましたけれど、次回はまたちょっと違う視点でお話を伺いたいと思っています。(次回は)プログラミング教育ですね。こちらをキーワードにまた次回お話ししていきたいと思っておりますので、引き続きよろしくお願いいたします。
梅田 よろしくお願いいたします。
川添 本日は、「SNSの情報とどのように向き合うか」ということについて、梅田拓也先生にお伺いいたしました。次回もよろしくお願いいたします。