#4 家でできる、話す技術を身につける方法【佐伯 林規江】
英語によるコミュニケーションで欠かせないのが話す技術。とはいえ、子育てや仕事で忙しいみなさんにとっては、レッスンの敷居は低いほうがうれしいですよね。家にいながらにして、英語を身につけるための方法を佐伯先生とのお話から考えます。
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川添 今回は、学芸学部国際教養学科教授で、英語教育学がご専門の佐伯林規江先生に、「正しい英語ってどんな英語? 『通じる英語』を始めよう」をテーマにお話を伺います。全4回にわたって、ここ京都にあります、同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生、よろしくお願いいたします。
佐伯 よろしくお願いいたします。
川添 いよいよ最終回となりました。まずは前回までの振り返りから。まずは通じる英語を始めるためには、インプットがとにかく大事ということと、それをアウトプットするのに、そんなに難しく考えることはなくて、いわゆる日常生活の行動をまずは英語で思い浮かべる、英語で伝えてみるとか、英語で発してみる、英語に置き換えてみるというところからやっていきましょう、と教えていただいたところでした。
そういう自主学習をスキマ時間にでも進めていって、最終的にではないですけれども、自分が発した言葉に対しての、例えば発音が合ってるのかな、本当にこの表現で通じているのかなとか、相手と話したいという純粋な気持ちだったり、そういうことも生まれてきそうなんですけれども。そういったときにどう学習を進めていったらいいのか、まずは先生に話をお伺いしていきたいなと思います。
佐伯 はい。大変難しいところなんですけれども、実は発音とか、それからプレゼンテーションがうまくできているかどうかとか、パフォーマンスの部分というのは、かつてはやはりフェイストゥフェイス、対面式の、対面なんて言葉も昔はなかったぐらいで、向かい合って先生に直してもらったり、グループの中でやってみてフィードバックをもらったりということが当たり前だったんですよね。
川添 はい。
佐伯 でもコロナ禍が始まったから、というわけではないんですけれども、AIですとか、それからいろいろなオンラインのツールの発達がとても目覚ましい昨今では、オンラインで活用できるサービスというのもたくさんあるんですよね。私も具体的にこれがいいとか、あれがいいとかというところまで、よくわかってはいないんですけれども。
川添 はい。
佐伯 オンラインで同じようなニーズを持っている人たちが集まってコミュニティを作って、Zoomやいろいろなコミュニティツールを使って対面でお話をしてみましょうとか、そういうところで自分自身が言いたいことがちゃんと伝わっているのかなというのを、相手からの反応で見てみる、アウトプットの部分になるんですけれども。
それと自分がその場で言うことによって、自分が言ってることが、「あっ、間違っていたな、ここは今、こういうふうに言えば良かったけれども、言っていなかったな」なんて、自分自身の振り返りもできるんですよね。そういうのを”メタ知識”っていいます。最近の言語学習の中で一番大事なこと(の一つ)で、自分を違うところから自分を視るような言い方をメタといって、いろんな分野で使う言葉なんです。
川添 はい。
佐伯 そういうオンラインサービスなどでアウトプットすることによって、自らが気づけるようなところもあるし、相手からフィードバックをもらったり、相手の反応を見たりということができます。そういうオンラインで(のコミュニケーション)なら、おうちからでも可能というのもありますし、もちろん機会があればそういう(対面の)コミュニティに出向いていったりというのも、これからはあると思うんですよね。
また、オンラインという形で、先生と短い時間、ちょっと長い時間といろいろ選べて、ちょっとチェックしてくれたりっていうのもあると思うので、ぜひ調べてみて、(利用者の)評価なども見れますし、それで活用されるっていうこともいいかなと思います。
川添 なるほど。
佐伯 それからAIの翻訳機能とかでも、自分の声を入れて、それを翻訳してくれるというのもあるし。
川添 ああー。そうか。
佐伯 自分の声で英語を話してみて、それがAIに通じているかどうかというのも、一つのチェックにはなりますよね。
川添 確かにそうですね。
佐伯 皆さんのほうが多分頭が柔らかくて、今のいろいろなツールをご存知だと思うので、そういうのもいろいろと活用してみてはどうかなと思います。
川添 そうですね、いろんなツールがあるので自分に合ったものとかも、いろいろ探してみるのも楽しいかもしれないですね。
佐伯 ぜひ。
川添 はい、ありがとうございます。先生は普段、うちの大学で学生の指導をされてるわけですけれど、この3回、4回にわたってお聞きしてきたような、通じる英語の身に付け方というのは、学生に対しての指導でも同じようなお話をされているんですか。
佐伯 はい、授業にもよりますけれど、することもありますね。特に英語音声学の授業では、しっかりと分析的にも英語の音について、それから日本語と英語の音の違いについて、そして発音学というふうになるんですけれども、英語を英語らしく話す。この場合はネイティブらしくということが入ってくるんですけれども、ネイティブスピーカーの英語はどんな仕組みになっているのかを学びながら、英語の発話が流暢になるようにという話をします。
そして一番大事なことというのは、これは私の研究の分野にも関わってくるんですけれど、英語って母音とか子音の一つひとつの音ってありますよね。日本語でももちろんありますが。一つひとつの音をきれいにすること、つまりLとRを(言い)分けることだったり、Tの発音を美しくすることだったり、Sとか摩擦音はたくさん息を出すとか、そういう一つひとつの音に関する特徴。それから音と音にまたがる特徴というのが、英語の音にはあるんですけれども、そういうのをsuprasegmentalっていう言い方をして、超音節っていうんですね。
例えばリズムだったり、イントネーションだったり、それは一つの音ではなかなか難しくて、比較の問題になるので、リズム、イントネーション、あとはストレスという強勢ですね、アクセントっていうのかな。そういうものと比べてみると、一つひとつの音の美しさ、一つひとつの音の日本語の影響を受けてる度合いと、リズム、イントネーションなどの大きな部分で、どちらが整えば、より英語として聞きやすいか、より聞きにくいか。実は大きな部分、(つまり)リズム、イントネーションが英語らしくなっていれば、一つ一つの音がモロに日本語であっても、あまりコミュニケーションには障害にならないっていうことがわかってきてるんですね。
川添 へえー。
佐伯 つまり、日本語的な子音、母音の発音をしていても、リズム、イントネーションが英語的であれば、コミュニケーションにはいい(=伝わりやすい)ということがわかってきているんです。日本語と英語のリズム、イントネーションは、どこが大きく違うかというと、例えば日本語というのは、(発話の)頭が大きくて、息を出す量が多くて、だんだんしぼんでいくデクレッシェンドになっていくような、最後はストンッて静かに終わるような、息継ぎまでの流れがあるんですよね。
英語はどちらかというと、後ろの方にボリュームが来るんです。なので、発話から後ろの方がウヮンって上がって、最後、息継ぎに行くっていうような、クレッシェンド系。そして、後ろの方(=息継ぎに近い方)に大事な内容が来ることが多いんです。なので、そのリズムとかそのイントネーションというのを心がけて発話するようにすると英語らしくなるし、逆にお尻の方が聞こえなくなるような英語の発音の仕方をすると、ちょっと英語としては聞きづらいなっていうふうになるんですよね。
川添 なるほど、ええ。
佐伯 学生さんたち、とても準備をたくさんして、とてもソフィスティケートされた、アカデミックな英語を使えるようになって、プレゼンテーションの準備などをたくさんしてくれるんですけれども、いざ本番ってなったときに、小さな声で、しかも最後の方にしぼんでいくような(発話で)プレゼンテーションをすると、せっかく言いたいことがたくさんあって準備もできているのに、プレゼンテーションのときに、何を言っているかわからない、なんてことになるんですよね。
一つはもちろん、私たちも緊張しますから、緊張の度合いの大きい方はもう声が出せなくなって、そういうのは対面でしているコミュニケーションでもあると思うんです。でも英語を話す人全員、全員ではないな、一般的に、英語を話してる人たちを見ていると、緊張をしていても声は大きいんですよね。
川添 うーん(笑)
佐伯 ちょっとステレオタイプな見方かもしれないですけれど、それだけ息を使っているということなんです。リズムもイントネーションもそうだし英語は一つひとつの子音がとても大事なので、その子音の音を出すには、かなり息を出さないといけないんですよね。そのときの息の量っていうのは、やはり、最初は意識するのかな。意識しないと私たち母音で話している日本人にとっては、ちょっと息の量って少ないと思うので、そういうところを少し意識して、まず声を大きく出す。声の張りを持たせる。そういうことで、英語って成り立ってるんだよって、英語らしくなるよって。これだけコミュニケーションだ、プレゼンだって言ってるのに、最後、”声大きく出せ”なんておかしいですけれども(笑)。でもそこが基本のような気もします。
なので、皆さんも英語を話そうと思うときの緊張はわかるけれど、もう開き直っちゃって、まず大きい声で、アイコンタクトを取って相手の人を見ながら言うっていうのも大事かなと思います。いろんな話を授業ではします。
川添 そうなんですね。とにかく伝えたいっていう思いが、声の大きさにも、もしかしたらつながるかもしれないですね。
佐伯 そうですね。確かにそうですね。
川添 ありがとうございます。最後には声の大きさが大事だよというお話も聞けて、学術的なこともお話も聞けて、大変参考になったんですけれど、本当に最後なので佐伯先生からリスナーの皆さんに、通じる英語を始めるということに関して、最後のメッセージといいますか、何か一言いただけたら、すごくうれしく思いますが、いかがですか。
佐伯 ありがとうございます。通じる英語というのは何なのかなというときに、まず伝えたいことを持つこと。そしてその伝えたいことは意外と簡単な英語を使ってでも伝えることはできるよということをわかっていただいて、「じゃあ簡単な英語っていうのは何かな」って考えると、私たちが以前から一度は学んだことのあるような表現の仕方をもう一度学び直して、それを組み替えることで十分言えることあるよっていうのを、マインドセット…マインドリセットかな、していただいて。いつからでも学びはもう一度始めることができるので、ぜひ英語の世界にいつでも戻ってきてくださいって言いたいですね。
川添 はい、ありがとうございます。とても勇気が持てるお言葉をいただき、ありがとうございます。これまで4回にわたって佐伯林規江先生にお話をお伺いしてきました。改めまして先生、どうもありがとうございました。
佐伯 ありがとうございました。