#1 忙しくても日常生活で肥満予防【和泉 美枝】
家事に育児、仕事と毎日が忙しくて、運動時間が取れないと悩んでいませんか。実は日常生活をちょっと工夫するだけで、肥満予防の対策ができると和泉先生は言います。その方法、そしてなぜ肥満予防につながるかを教えていただきます。
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川添 今回は看護学部看護学科准教授(※)で、ウィメンズヘルスがご専門の和泉美枝先生に、「〈ウィメンズヘルスケア〉でこれからの自分とも仲良く」をテーマにお話を伺います。全4回にわたって、ここ京都にあります同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生、よろしくお願いいたします。
※収録時。2024年4月現在、教授。
和泉 よろしくお願いします。私は看護学科を卒業して、助産師の資格も取得し、臨床で十数年間、看護師、助産師として働いてきました。それから本学の看護学部が開設する2015年、8年前に本学に着任して、それからは看護学生さんや助産師学生さんを育てる仕事をしています。臨床にいる間に3人の子育てをしながら大学院に行ったりと、私自身も忙しく子育てと仕事をしてきたところで、そのエピソードも踏まえながら今日はお話しできればと思っています。
研究については、女性の心身の健康支援ということを大きなテーマとして、主に妊娠期の女性や産後のお母さんを対象にして、自律神経や体重のコントロール、あとはうつとか不安とか、それらの関係性を明らかにする研究を行っています。
川添 ありがとうございます。そんな和泉先生に今回から全4回にわたってお話をお伺いしていくんですけれども、まず本日は肥満予防というところに着目して、お話を伺っていきたいなと思っております。まず私自身のお話なんですけれども、私は大学で勤務しているんですが、勤務後は帰宅して子育てをして、家事をしてという感じの毎日で、正直自分のために何か運動をしてとか、しっかり時間を取ってということがかなり難しい状況なんです。さらにそれに加えて、通勤は車通勤ということで、明らかに自分でも運動不足を認識しているという日常生活なんですけれども。
そんな私自身も、今日、先生から日常生活で対策できることなどがあれば、ぜひお伺いしていきたいなと思いますし、同じようなリスナーの皆さんも、今回のお話は、きっと期待されているんじゃないかなと思います。ぜひよろしくお願いいたします。
和泉 ありがとうございます。日常でもできる肥満予防ですが、女性の方は体重ってすごく気にするところだと思います。川添さんもご出産されて、体重ってどうですか。
川添 そうですね。出産後は、比較的順調に体重は戻ったほうだったみたいです。自分自身も「戻せたな」っていう感覚はあったんですけど、ただそこから…1年ぐらい、2年ぐらいして、徐々に徐々に、何となくちょっと肉付きが良くなってきたなとか(笑)、そういう感じでちょっと自覚してきた部分があって、当初「戻ったな」っていうときよりは、確実に増えているんじゃないかなという気がしています。
和泉 はい。私が研究した中でも、産後9カ月から1年のお母さんへの調査で、40%から45%ぐらいの人が、体重が戻っていなかったり、非妊娠時体重まで戻っていなかったり。あとBMI(※)ってご存知ですよね。BMIは普通に属しているんですが、体脂肪が多い「隠れ肥満」っていう言葉を聞いたことありますか。
※[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で算出される値。肥満や低体重の判定に用いられる。
川添 あります。
和泉 隠れ肥満の方も半数くらいおられたりして。
川添 そうなんですか。
和泉 なかなか体重コントロールというところが難しい。妊娠、出産、育児をすると、ホルモンのバランスも変わってきますので、体重コントロールは難しいっていうのがあるかと思います。
お母さんたち、忙しいですよね。本当に今、働きながら仕事して、育児もして家事もして、そのお母さんに運動をしてほしいって言っても、なかなか時間が取れないと思うので、日常生活でできる体重コントロールを少しご紹介したいと思います。
川添 ぜひお聞きしたいです。
和泉 はい。自律神経って聞いたことはありますか。
川添 はい、耳にはしたことがあります。
和泉 人が生きていく上では、とても大事で…寒いところに行ったり、暑いところに行ったり、ものを食べたり、消化したり、全て自律神経が関わっていて、人間の恒常性というか、体温を維持したりするのも自律神経で、これが働かないと人間が生きていけないという、とても大事なものです。その(自律神経の)中に交感神経と副交感神経という二つの神経があって、その二つがうまくバランスが取れている状態がいいといわれています。
交感神経だけが高すぎる、強すぎると、交感神経はアクセルの役目をするので、いつも活動的で、緊張していたりとか、ストレスがかかっている状況にあります。副交感神経はリラックスしたときに出てくるんですけど、副交感神経が高過ぎると、今度は疲れとか、元気がないとか、そういうリラックスが度を過ぎるというか、ボーッとしているところがあるので、どちらが高過ぎてもだめなんです。そこをうまくバランスをとって人の体をコントロールしているんですが、交感神経っていうのはさっきアクセルと言いましたが、食欲とか、体脂肪の燃焼のスイッチをコントロールしているもので、この自律神経の中でも特に交感神経を鍛えれば、体重が増えない。
川添 そうなんですか。
和泉 コントロールできるっていうのがあるんです。先ほど(今のお母さんは忙しくて)運動がなかなか難しいって言ったんですけれど、人の1日の消費エネルギーで、運動習慣のある人でも運動による消費エネルギーって数%、多くても5%ぐらいしかなく、あとは基礎代謝といわれる普通に生活するだけで消費するエネルギーとか、あと食事をとったときに消化吸収するエネルギーが60%ぐらい。
川添 そうなんですね。
和泉 あと、ここに私は注目しているんですけど、ニート(NEAT)という、「ノンエクササイズ アクティビティ サーモジェネシス(Non-Exercise Activity Thermogenesis)」というのがあって、これが35%を占めているんです。
川添 それはどういったものになるんですか。
和泉 このニートっていうのは「ちょこまか運動」といって、日常の何気ないアクション、行動になるんです。何気ない動きなので、皆さんが歩いたりとか、立ったり座ったりということなんです。
そういうものであれば、日常生活に忙しいお母さんでも取り入れることができると思うんです。できるだけ歩く、エレベーターは使わない、エスカレーターを使わない、あとテレビを見ているときも、CMごとに立ったり座ったり。そういうことによって、自律神経の交感神経と副交感神経のスイッチが入れ替わるので、交感神経が活発になってよく働いてくれます。
川添 そうですか。いわゆる、テレビを見ながらの「ながら運動」という言葉も聞きますけれど、そういったイメージですか。
和泉 そうです。今問題になってる「座位行動」っていうのを知っていますか。
川添 いや、聞いたことはないです。
和泉 座りっぱなしの、デスクワークの仕事が多くなっていて。座りっぱなしは、やはり良くなくて、デスクワークをしながらも手足をバタバタさせてとか、時々ちょっと立ってみたりとかということを取り入れてもらえると、このニート活動が増えるので、交感神経も活発になって体重コントロールがしやすい。
川添 そうなんですか。あえて運動する時間を作らなくても、ほんのちょっと意識するだけで、そのあたりのコントロールが利くようになるんですね。私自身も仕事が本当に基本デスクワークみたいなところなので。合間に、ちょこまか動くのは、何分に1回とか、何時間に1回とか、そういうイメージはあんまりないですか。
和泉 本では3分ごとに立ったり座ったりするのがベストっていわれているんですけど、なかなか難しければテレビのCMが15分に1回ぐらいはあると思うので、それぐらいおきにちょっと立って、ちょこちょこその辺を歩いてみたりとか、椅子に座って足だけバタバタ動かすとか、手を伸ばしてみたりとか運動してみたりと、そういうのでも大丈夫っていわれています。
川添 ありがとうございます。本当に少し日常生活を意識するだけで、肥満予防、体重コントロールに繋がるというお話を聞けただけで、すごく安心できました。ありがとうございます。
和泉 ありがとうございます。
川添 今回は肥満予防、生活習慣のことについてお話を伺ってきたんですけれども、次回は子どもにとって良い生活習慣、特に睡眠のことを取り上げながらお話を伺っていきたいと思っておりますので、また引き続き和泉先生には、よろしくお願いしたいと思います。本日はどうもありがとうございました。
和泉 ありがとうございました。