生活をわかりやすくする「音」を探る

生活をわかりやすくする「音」を探る

和氣 早苗

学芸学部 メディア創造学科 教授

#2 機器の音はどう作られる?【和氣 早苗】

身の回りの機器が発する音には役割があります。では、その役割を果たすためには、どのような音色が効果的なのでしょうか。実際にサンプル音を聞きながら、機器に搭載する音に必要なことを教えていただきました。

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川添 前回に引き続き、「生活をわかりやすくする〈音〉を探る」をテーマにお話をお伺いするのは、学芸学部メディア創造学科教授でユーザインタフェースがご専門の和氣早苗先生です。本日も、ここ京都にあります、同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生、よろしくお願いいたします。

和氣 はい、よろしくお願いいたします。前回ですね、電子レンジとか炊飯器から「ピーピー」といった音ですとか、メロディーが鳴るっていう話がありました。じゃあここで問題です。そういう機器からは、どうして音が鳴るでしょうか?

川添 音が鳴る理由ですよね。

和氣 はい。

川添 うーん、何かの合図、「できましたよ」とかは、お知らせになるんですかね。

和氣 そうですね、正解です。

川添 ありがとうございます。

和氣 機器から音が鳴るっていうのは、大きく分けると二つ目的があります。一つは今、大正解してくれたように、本当にいろんな機器からのメッセージですね。「洗濯が終わったよ」とか「冷蔵庫のドアが開けっ放しですよ」とか。そういうメッセージを利用者に伝える役割として使われます。

川添 はい。

和氣 こういった音のことを報知音というふうに呼んだりします。報知音で、ちょっと離れたところにいる人にも、そういうメッセージを伝えることができます。ずっと洗濯機の前で終わるのを待ってるわけにはいきませんので、隣の部屋にいてもわかるというようなことですね。

もう一つは、ボタンを押したときに「ピッピッ」と鳴るような音があるかと思います。これは操作の反応を示す音ですね。「ちゃんと押せたよ」という反応を、音で表すということです。

昔は、ボタンが本当に出っ張っていて、押したら手応えがあって、というものでしたので、そういった音をあえて鳴らさなくても手応えがありましたし、(ボタンを押す際に)勝手に「カチッ」というような音が鳴ったり、物理的に音が鳴ってたんですけれども。

川添 ありましたね。

和氣 最近はタッチパネルの操作もすごく多くなりましたよね。そうすると押した手応えというのがないので、音で「ピッ」というふうに、ちゃんと押せたよっていうのを伝えるという役割も音にはあります。

川添 触感の代わりっていう感じですかね。

和氣 そうですね。ですので、反応音はすぐに鳴るというのが大事だったり、あんまり長くなくて、歯切れ良く鳴るっていうのが大事になったりします。

川添 ふーん。

和氣 で、報知音ですね。情報、メッセージを伝える報知音のほうにも、いくつかやっぱり条件があるんです。音をデザインするって言いましたけれども、その目的に合わせて、うまく目的が達成できるようにデザインするためには、条件というのが必要になってきます。

川添 はい。

和氣 報知音のほうは、三つ、その条件を今、言ってみようと思うんですけれども。まず一つ目は、これはちょっと当たり前みたいなんですが、聞こえる音であることですね。

川添 音なので、必ず耳にできないといけないっていうことですね。

和氣 これはちょっと当たり前すぎて、(聞こえないなら)ボリュームを上げたらいいんじゃないのって思われるかもしれませんけど、実はそう簡単でもないです。一つはですね、その機器が使われる場所。例えば駅の中で(発券時に音が鳴る)券売機なんかもありますし、道路で信号機からも音が鳴ったりもしますけれど、そういう(周囲が)うるさいところで鳴らす音というのはマスキングといって、騒音でかき消されてしまうことがあります。

ボリュームを大きくするというのは一つですが、それ以外に音色を変えて騒音とぶつからないような音程ですとか、音の高さですとか音色っていうのを作っていくことができるんですね。そんなふうにするっていうのがあります。

川添 はい。

和氣 また聞く人も、お年を召されてくると耳が遠くなるっていうのが一般的に言われますけれども、あれは特徴があってですね、(音が)全体的に聞こえなくなってくるのではなくて、高いほうの音から聞こえなくなってくるんですね。耳の聴覚のピークというのは18歳ぐらいだというふうに言われてまして。

川添 あ、そうなんですか。

和氣 学生にも言うんですけど「20歳超えたら落ちていくんだよって」(笑)。 聴力は落ちていく、私なんかもずいぶん落ちてるんですけど。

川添 案外早いんですね。

和氣 早いですね。今、皆さんヘッドフォンとかイヤホンをよくつけてるので、それでもっと早くから落ちていくとも言われてますので、皆さん気をつけていただきたいんですけれども。

川添 そうですね。

和氣 ご高齢になってくると高いほうの音から聞こえなくなってきますので、どういった音の高さで鳴らすのかっていうのが、とっても大事になってきます。少し前にすごく話題になっていたんですけれども、体温計が「ピピッ、ピピピピッ」ていうと思いますけど、昔の体温計は高い音で鳴っていたので、本当にご高齢の方がいつ測れたのかわからないと言って、最近は多分「ピポピポ」という形で、少し低めの音の中で、さらに音の高さを変えて伝えるっていうことをしてるものが多いかと思うんですけれども、これも聞こえる工夫になります。

川添 なるほど。同じ音程の音ばかりを使うんじゃなくて、高さを、何種類かの高さのものを交えて、聞こえる範囲をちゃんと広げるっていう形ですね。

和氣 はい、おっしゃる通りです。二つ目はですね、「ごはんが炊けたよ」とかお知らせをしないといけないんですけど、それが音を聞いてわかる必要がありますよね。

川添 そうですね。

和氣 特に危険を知らせる警報音なんかは、それで「危険だ」とわからないといけませんので、わかりやすい音をデザインするというのが大事になっていきます。

川添 緊急地震速報なんかは、音の大きさの話だけではなくて、すごく緊迫感があるような音が流れてくるので、あれがパッと聞こえてきたときに、すごく身構えるというか、そういう感覚になってしまいますけれど、そういう感覚を持たせるための音の作り方がされているということなんですね。

和氣 そうですね、おっしゃる通りです。いろいろな知見が、音響心理ですとか、そういうところで得られてます。例えばそうですね、警報音ということでいうと、「ピー、ピー」って繰り返すような音というのもたくさんありますけども、(音の)間隔が「ピ、ピ、ピ、ピ、ピピピピピピ」って狭くなってくるほうが緊迫感があるということであったり。

川添 ああ、テンポですね。

和氣 そうですね。先ほどの聞こえやすさとも関係があるんですけれども、「ウゥーーン……」っていうような、音程が変わっていくような、いわゆるサイレンとか。あともっと音楽的な要素を使うとすると、不協和音ですね。

川添 あー。ざわざわする(笑)。

和氣 そうですね(笑)。ちょっと不安を煽るような音というのがありますので、そういった音を積極的に使っていくというような感じでしょうか。

一つ、ちょっと音を持ってきましたので聞いてみていただけますか。

川添 はい、お願いします。

和氣 この音が何の音か、何を知らせる音かというのを当ててみてください。

( ♪ピンポンピンポーン )

川添 あ、クイズに正解しました(笑)。

和氣 そうですよね(笑)。多くの方はそう思われるんじゃないかと思います。じゃあ、もう一つですけれども。

( ♪ブブー )

川添 これは間違えましたかね。

和氣 そうですね(笑)

川添 ちょっとしくじった感じになりました。

和氣 はい。よく聞く音でもありますし、おそらく本当に多くの人がそう思われたんじゃないかと思います。じゃあ、もう一つですね、聞いてみましょう。

( ♪ププー )

もう一つ、いきますね。

( ♪ブブブブブブ )

今の、どんな感じがしましたか。

川添 さっきの正解、不正解(のメロディ)で言ったときに……。いや、どっちだろう。どちらっていうか、感覚はちょっとよくわからなくなりました。

和氣 そうですよね。最初の「ピンポンピンポーン」「ブブー」っていうのは、皆さん多分よくわかったと思うんですけれど、後で聞いていただいた音は、実は正解の音、「ピンポンピンポーン」と(不正解の)「ブブー」の音の音色を入れ替えました。

川添 ああー。

和氣 不正解の「フブー」っていう音色で、「ブブブブブブ」みたいな形にしたのと、「ピンポーン」の割ときれいな音で、「ブブー」みたいな感じのリズムにしたんですね。

川添 はい、はい。

和氣 それを入れ替えると、ちょっと何かわかんなくなっちゃいますよね。

川添 そうですね。何を言わんとされてるのかが、本当にわかんなくなっちゃいましたね。

和氣 はい。こんなふうにですね、音っていうのは音色があったり音程があったり、リズムっていうんですかね、時間でどう鳴らすかっていうのがあるんですけれど、それをいろいろ組み合わせることによって、いろいろな印象が変わってくるんですよね。

それで「これはOKな操作だったんだな」とか、「あ、終了したんだな」っていうような感じも作ることができますので、そういったことを使って、わかりやすい音というのをデザインしていくということをしてます。

川添 なるほど。条件が三つということで、最初お話ありましたので、もう一つありますね。

和氣 はい、そうですね。三つ目はですね、基本的にはやっぱり聞き心地が良い音である必要があります。ただし、さっきの警報音とかはちょっと例外ですね。あの警報音はいい音だなって聞いちゃうといけませんので、あれは例外ですが。でもキッチンで鳴るいろいろな家電からの音の聞き心地が悪いとつらいですね。毎日使って聞くような音がつらいと、もうその家電自体使うことが、もう嫌になってしまうかもしれません。

キッチンもリビングと繋がっていることもありますから、やっぱり心地よい空間にするっていうのが大事だと思います。なので、わかりやすい音が聞こえて、それがメッセージ、機器からのメッセージがわかりやすくて、さらに心地よいということが求められていますね。

川添 なるほど。ありがとうございます。単純に音といっても、音もデザインの一つというお話にも繋がりますけれど、今お聞きしたことで感じたのは、人間の特徴、身体的な特徴であったりとか、あと心理的な部分であったりとか、そういうものを利用するというか、そういうものが本当によく考えられて、音というのが一つずつ作られているんだなっていうのが、すごくよくわかりました。

普段何気なく聞いている一つのお知らせの音であったとしても、やっぱりそれに意味がなされているっていうのが、すごくよくわかりましたね。音を作る方々のご苦労っていうのも本当にいろいろあるんじゃないかなっていうふうに感じました。

和氣 はい。

川添 はい、ありがとうございました。次回なんですけれども、次回は「日本人と音」をテーマにお話を伺ってみたいなと思います。海外の音の捉え方と日本とで、少し違いもあるんじゃないかなということもありますので、その辺りを次回は伺っていきたいと思っております。

和氣 はい。

川添 はい。和氣先生、今回はありがとうございました。

和氣 はい、こちらこそありがとうございました。