生活をわかりやすくする「音」を探る

生活をわかりやすくする「音」を探る

和氣 早苗

学芸学部 メディア創造学科 教授

#3 日本人の音への感性を考える【和氣 早苗】

家の中ではさまざまな家電、街に出れば信号や駅の発車メロディなど、日常生活には音があふれています。では、外国ではどうなのでしょうか。人々が音をどのように捉えているか、日本と海外の違いをお聞きしました。

/ 11分52秒

今すぐ聴く

各ポッドキャストで聴く

Transcript

川添 前回に引き続き、「生活をわかりやすくする〈音〉を探る」をテーマにお話をお伺いするのは、学芸学部メディア創造学科教授で、ユーザインタフェースがご専門の和氣早苗先生です。本日もここ京都にあります同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生、よろしくお願いいたします。

和氣 はい、よろしくお願いします。

川添 初回前回、2回にわたっては、家電などの機器に使用される音ですとか、その音が作られる過程の基礎について教えていただきました。先生のお話を聞いて改めて感じたことなんですけれども、私たちの生活の中って、本当に音があふれているんだなと思いました。

和氣 いや、本当にそうですよね。家の中でも、今までお話ししてきましたようにキッチンでもどこでも、エアコンでもいろんな音が鳴りますし、外に出ても信号機からも音が出ますし。駅なんかに行くと、もう本当に音だらけですね。例えば電車が来るときの発着音ですとか、行き先案内のアナウンスがありますし、ドアが閉まるとき、開くときにブザーが鳴って。最近だとホームの転落防止柵も出てきてますから、あれが開いたり閉まったりするときにメロディーが鳴ったりしますね。

川添 そうですね。

和氣 この間、新幹線に久しぶりに乗ったんですけれども、ホームも多いですから、もういろんなところでひっきりなしに音が鳴っているような状況がありますね。日本は実は世界の中でも、こういった情報を伝える音の利用がとても多い国なんです。

川添 そうなんですか。

和氣 そうなんです。

川添 海外はそんなことはないですか。

和氣 そんなことないですね。例えばヨーロッパの駅だと本当に静かなものです。何も鳴らずにドアが閉まって、スーッと電車が発車したりしますので、置いていかれそうになったりすることもありますけどもね。

川添 日本でそれだけ音が多いというのは、日本人の感覚、価値観だったり、そういったものが関係しているんですか。

和氣 あると思いますね。日本って、やっぱりおもてなしの文化ですとか、気配りの文化というのがありますよね。親切というかね(笑)。

まぁ親切にいろいろ先に回って、いろいろなことを教えたり、予防したりという目的もあるかもしれませんけれども、音を出す。多少おせっかいかなということも、街中を歩いてると多々ありますけれどもね。

それでも本当に大事なことで、親切だと思って音を出しても……、でも、ありがたいことももちろんあります。バリアフリー的な観点から、目の見えない方にとってはやっぱり音というのが大事なので、鳴っていると本当に助かるという場合も、とてもあるんです。けれども逆に、音が多すぎて、ちょっと何が何だかわからないとか、一般的に音が多すぎて結局聞き流している、聞き落とすということもありますので、たくさん鳴らせばいいということではないですね。

川添 そうですよね、本当に知らないといけない、気づかないといけないものに気づけなくなってしまう、音があふれすぎてというのが、一番困りますね。

和氣 そうなんですよね。本当に過多になってしまってね。なので、目標としては適切に鳴らす。多すぎず少なすぎず、ここは絶対に伝えないと、というところで伝わる音を使って鳴らすというのが一番いいと思いますね。

川添 あと、音に対しての感覚でいうと日本人の感覚として、ちょうど今収録してる今は夏の終わり、もうすぐ秋が始まってみたいなあたりは、季節を感じるときに自然の音、虫の鳴き声とかそういうもので表現したり、感覚を持ったりするのが割と一般的かなと思うんですけれども。

和氣 そうですね。それは日本人の感覚らしいですね。

川添 (笑)。

和氣 虫の声を聞いて秋を感じたり、セミの鳴き声が聞こえてきて夏になったな、とか。セミの鳴き声も、いろいろなセミの鳴き声を聞き分けたり、そういうのは日本人の感覚、日本の文化だそうですね。

川添 ああ、そうなんですか。

和氣 はい、海外では虫の音というのは騒音でしかないらしいですね。

川添 そうなんですね(笑)。

和氣 昔から日本では虫の音を聞く「虫聞き」というようなものが催されていたそうです。でも海外だと、「どの虫が鳴いていても一緒でうるさい」ということらしいですけれども。多分そういうのあるかもしれませんね。日常の音に情緒を見いだしてというのは日本人の感覚だから、今もいろいろな情報を表現する音をたくさん使いがちになったり、そこにメロディーを使ってみたり。

川添 そうですね。

和氣 いろんな情緒をのせて楽しもうという感覚は、日本人だからかもしれません。

川添 音を楽しむという感覚が結構あるんだなと思うのは、それこそ今お話に出てきましたけれど、電車の駅ごとに(発車時の)音楽を変えたりとか。

和氣 ああ、そうです、そうです。

川添 (JRの)大阪環状線なんか、電車に乗るときに「ここの駅はこの音楽流れてるな」みたいなのを、たまに行く人間としては楽しいなというのがありますけど。あの辺のちょっと楽しむ感覚っていうのも、もしかしたら日本人ならではなのかもしれないですね。

和氣 いや、本当におっしゃる通りだと思いますね。電車の発着にメロディーを使うというのは日本独自のものですし、本当にご当地音ですよね(笑)。「やっぱ好きやねん」とか流れるのが。

川添 ああ、ありましたね(笑)。

和氣 そこに楽しみを見いだすというか、遊び心があるのは日本人だからかなと思います。そう言えば携帯で着メロとか着うたとかもずいぶんはやりましたけれども、あれも日本の文化ですね。

川添 あ、そうなんですか。

和氣 そうですね。

川添 へえー。ちょうど私が中学生とか高校生ぐらいの時代かな、携帯電話が普及し始めて、着メロを自分で作ったり、そんなのもありました。

和氣 でしたね、ありましたね。意外と日本人はそうやって身の回りの音というところは聞いていたり、本当に情緒を感じたり、楽しんだりという気持ちがあるんですね。

川添 ああ、そうなんですね。それは初めて聞きました。そういう日本人の情緒を感じる感覚ということと、あと文化的な面、おもてなしであったりとか、丁寧さであったりとか、そういう部分も相まっての音の開発というのは、なんていうんでしょう……音のデザインというものの技術が発達してきたのかなと、今お話をお聞きして、感じたところではありますね。

和氣 そうですね。まあ、まだ道半ばという感じが私の印象ではありますね。少し前は、そうしたくても、いろいろな音を出す技術の問題ですね、スピーカーの問題だったり、家電製品から良い音を出そうとするとやっぱり値段が高くなってしまったりとか、そういったものもあったので、ピーピー音しか鳴らないというところがありましたけれど、今、その辺も容易にいろんな音が出せるようになってきたところですので、皆さん試行錯誤してるところだと思うんですね。

で、ちょっと過剰になっているかなというところがありますので、少しここで整理をして、本当に多すぎず、必要なところでわかりやすく心地よい音というのを使う。で、そうするためにはどういうところを注意したらいいかとか、そういうのを(私は)いろいろな実験とか、心理実験とかを通して研究して、皆さんに提供していけたらいいなって思ってますし、そのためには皆さん、使ってる人からの意見というのがやっぱり大事かなと思います。

川添 そうですか。

和氣 日本人の方の感性を生かして、皆さんどんどんいろんなところで感想をSNSとかでも言っていただけたら、メーカーさんもどんどん変わってくるかなと思います。

川添 そうですか。生活に根付いた音の感覚、生活者の視点で、いろいろ開発者の方々にお話が伝わることがあればいいなと思います。

和氣 はい、ぜひ。これは好きとかね、これはちょっとうるさいとかね(笑)。「ピーピーピーピー」と鳴りすぎとかいうのは、ぜひお伝えいただけたらと思いますね。

川添 はい、ありがとうございます。今まで3回お話をお聞きしてきまして、次が最終回になるんですけれども、次は最終回ということで、「音が作るこれからの社会」ということで、少し大きなテーマにはなってきますが、またお話を引き続き伺っていきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

和氣 はい、よろしくお願いします。

川添 本日はありがとうございました。

和氣 ありがとうございました。