毎日を笑顔に。乳幼児期の子どもの発達と子育て

毎日を笑顔に。乳幼児期の子どもの発達と子育て

塘 利枝子

現代社会学部 現代こども学科 教授

#4 ワンオペ育児を乗り切るには【塘 利枝子】

大学で保育を専門的に学んだ卒業生からは、子育ては理論や知識でカバーできないという悩みや、母親が一人で育児や家事を担う、いわゆる「ワンオペ育児」で子どもと向き合う余裕がないという声も聞かれます。育児で心と体をすり減らさないためのヒントをお聞きしました。

/ 12分24秒

今すぐ聴く

各ポッドキャストで聴く

Transcript

川添 前回に引き続き、2023年10月29日に本学京田辺キャンパスにて開催しました「アニバーサリー・ホームカミングデー」での公開収録の様子をお届けします。それではどうぞお聴きください。

(ここから公開収録)

川添 …少し話を展開していきたいと思います。先ほどの第1部では、ご卒業生お二人に登壇いただいて、柴田さんからは保育士さんとしてのご経験と、今、ご自身に子どもが生まれて、自分が母親になって、お仕事上の経験との狭間でのお悩みもありました。保育士さんは本当に保育のプロでいらっしゃるので、そのお悩みを聞いて、「そういった方でも、子育ての悩みはあるんだ」というのが、私自身はすごくびっくりしたところではありました。

 たくさんあります(笑)。保育士のプロであっても、やはり客観的に、自分が責任を負っている子どもを見るのと、親として(子どもを)見るのとでは、もう全然違っていて。でも、プロだから全部わかっているわけではないので、プロであっても、他の人からいろいろなご意見をいただくということは、すごく大事だと思います。

川添 そうですね。

 今、乳幼児の支援も徐々に整ってきていて、出産してみて「こんな自分じゃなかった」というのが、結構あるわけです。

川添 はい。

 赤ちゃんを抱いて、「この赤ちゃん、どうしたらいいの?」というような。産後うつも多いですし、そのときにサポートしてくれる行政のいろいろなシステムも徐々に整いつつあります。そういうものを、盛んに利用することも必要かと思います。

川添 ちょっと一歩足を踏み出すことができたらいいな、というふうに思います。

 そうですね。

川添 ありがとうございます。その柴田さんからのお悩みのところで、ワンオペ育児といったお話もありましたけれども、(リスナーに)お悩みを募集したときに、もう一つこんなご相談も寄せられました。ご紹介をさせてもらおうと思います。現代こども学科の卒業生で、ラジオネーム「ゆうぞう」さんからのお悩みです。

『2歳と6歳の母です。大学時代学んだ事が日々の子育てで活かせていたらいいのですが、子育ての現実と理想の子育ての狭間で悩ましい日々です。知識では分かっていてもワンオペで家事育児をまわすことが、想像以上に気力体力を奪われて、じっくりと子どもと向き合う余裕がありません。学生のころ思い描いていた理想の母親像というものは夢みたいな感じなんだと親になって思い知らされることばかりです。心の余裕を持ちながら子育てするためのコツなどあれば知りたいです。』

……ということで、学んできたことと現実との狭間で悩んでいるということなんですけれど、心の余裕を保つというのは(同じく子育て中の)私自身も課題なので、ぜひ先生にアドバイスをいただきたいなと思っております。

 難しいですよね、24時間(子どもが)走り回っていれば、きつく叱りたくもなるし、感情的にもなりますよね。先ほど(#1に登場した)芋縄さんも、「『優しく語るのよ』と学生時代に教わったのに、とてもじゃないけれどできない」と、おっしゃってました。

でも、芋縄さんは「子どもを叱った後、『ごめんね』って謝る」と言っていたところは、素晴らしいなと思いました。親としてもイライラするのは当たり前だと思うんです。でもそのときに、ちょっと子どもから離れてみる、または自分の時間を少し作ってみる。そこはパートナーとも協力しながら、「ちょっと私イライラしてるの。だから少し、(あなたが)見てくれる時間を作ってくれない?」と話し合うとか。子育ては、母親だけが責任を持つものではなくて、パートナーだったり、または周りの人々を、もっともっと頼っていいんじゃないかなと思います。

ですので、本当にイライラしたときこそ、子育て支援サロンに子どもと一緒に行くとか、または、ちょっと大きな広場で子どもと一緒に走り回ってみるとか。親としてストレス発散の場は、すごく必要だと思います。

川添 そうですね。私自身も仕事をちょっと離れて、育児に専念していた時期もありました。その時期って四六時中、子どもと一緒というのが、もう本当に息が詰まってしまうようなときもやはりあって。私は必ず毎日、子どもを1日1回は外に連れ出して、公園に行くでもいいし、それこそ子育て支援センターみたいなところに行くでもいいし、とにかく明日はどこに行こう、次の日はどこに行こうみたいな感じで、雨が降ったらちょっと嫌だな、みたいな感じで外に出るということをして。自分自身の気分転換だったり、あと、外の人と関わることで、いろんなアドバイスをいただくこともあったし、温かい目を向けてくださる方も、ありがたいことにたくさんいらっしゃって。そういうことに本当に救われたな、という記憶が蘇ってきました。

今は仕事をしながら、毎日本当に慌ただしくて、この心の余裕の持ち方というのは、本当に難しいところだと思うんですけれど。そんな中でも、なんていうんでしょう、仕事をしている時間もあるし、そこは子どもと切り離された時間、自分自身の時間になっているので、(子どもから離れる時間も)すごく大事なんだな、ということと、あとはお休みの日は子どもと過ごす時間がそれはそれで貴重だと思います。そこはすごくメリハリがつけられていて、今、ようやくバランスがだんだん取れてきたかな、みたいな感じです。子どもが成長するとまた状況も変わってくるとは思うんですけれど、状況、状況によって、いろいろ自分自身も、思いも変えていきながら、子どもと向き合っていけたらいいのかなって、すごく感じますね。

 そうですよね。子育てって“親育て”でもあるんですよね。親もそれで育っていく。仕事をしていらっしゃる、卒業生からのお悩み相談でも、「自分が仕事をしていることで、子どもに向き合う時間がないんじゃないか」というご相談もありましたけれど、でもやっぱり、親が働いていることが悪いことではなくて、親は親の、自分の時間というものを作っていくってことで、子どもに対しても、「あ、かわいいな」と思えたり、「自分ってこんなふうに思っていたんだ」と思えるので、やはり親も、自分の人生を生きるということが、非常に重要かと思います。

川添 そうですね。あと親はいろいろな知識がありすぎて、「母親たるものはこういうものだ」みたいな、固定観念もまだまだあるのかなというふうにも感じていて。でもそれは、大人が作り上げてしまったものなだけであって、子どもからすると、この子の母親は、この目の前にいる自分しかいない、この子の父親はこの人しかいない。だから、(それぞれの親子の間には)前例も何もないというか、まっさらな状態なので、そこに大人側が引け目を感じることだったり、罪悪感を感じることは、一切なくてもいいのかなって。そんなふうに最近思ったりするので、私は結構、子どもに仕事のグチを言ったりとか(二人笑)。本当にわかっているのか、わかっていないのか、わかんないですけど、「こんなんで、こんなんやってん」みたいなことを言ったら、子どもも「へー、大変そうだね」みたいな感じで(笑)。

 (笑)。ちゃんとリアクションしてくれるんですね。

川添 はい、リアクションをしてくるのがだんだん楽しくなっていってきたので、「自分の母親は、こんな母親なんだ」というふうに感じてもらえたらいいのかなって思いながら、私は毎日を過ごしています。

 理想の母親じゃなくても、母親の、または父親の、いい面、悪い面を見て子どもたちは育つのであって、いい面ばっかり見せていたら、お互い息が詰まる。

川添 そうですね。

 いろんな形があっていいのかなというように思います。

川添 はい、ありがとうございます。本当に、みんなそれぞれ違って、みんないいというか。そんな形で子ども自身もそうですし、親自身も、自分というものを大切にできたらいいなと思いました。あと、大人側は、周りをたくさん頼って、大変だったら、周りを頼ったら何とかなるというか、そういう気持ちでこれからも子育てなり、生活なりというのをがんばっていけたらいいなと、今日のお話を通してすごく感じました。また、同じ子育て世代の皆さんとも、ぜひこの思いを共有していきたいな、と思いました。塘先生、第1部からいろいろアドバイスたくさんいただきまして、本当に今日はありがとうございました。

 ありがとうございました。