#1 骨の維持だけではない、ビタミンDの役割【長谷川 昇】
カルシウムを体内に吸収させるためにはビタミンDが必要です。ほかにはどのような働きがあるか、どのような食材に含まれているのかなど、ビタミンDを研究する長谷川先生に教えていただきました。
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川添 今回は看護学部看護学科特任教授で健康科学がご専門の長谷川昇先生に、「ビタミンDが変える明日の健康」をテーマにお話を伺います。全4回にわたってここ京都にあります、同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生よろしくお願いいたします。
長谷川 よろしくお願いします。
川添 今回から4回にわたって先生にお話をお聞きしていく内容が、ビタミンDということですが、このビタミンDという栄養素のことについて知らないことばかりなので、楽しみにしております。4回よろしくお願いいたします。
ビタミンについては、ビタミンCが風邪予防だったり、お肌に良いことだったり、そういうことで普段耳にすることが多いんですけれど、このビタミンDという栄養素について、どんな栄養素なのかというところから、お聞かせいただけますでしょうか。
長谷川 ビタミンDは確かにおっしゃられるように、あまりなじみのないものだと思いますけれど、教科書的にはカルシウムの代謝に関係するビタミンということがいわれてます。ごはんを食べるとき、カルシウムが入ったものも一緒にお食べになると思うんですけれど、次にこれが血液に入らないと全然意味がないので、そのときにビタミンDがあると効率よく血液に入れることができます。高齢者の方の測定会に行って、おじいちゃん、おばあちゃんたちが「1日1リットルは牛乳を飲んでいるけれど、全然骨が強くならない」ということを、時々おっしゃられます。そうすると、ビタミンDを摂ってなくて、「何のために牛乳を飲んでいるですかねぇ」みたいになるんです。
川添 そうなんですね。
長谷川 元々、我々の体は神様がおつくりになったと思うんですけれど、体の血液の中のカルシウムを一定の量にするように仕組まれているんですね。だから、体の中には骨が一番、カルシウムが集まっているところなので、食べなければ骨から溶かしてくるしかなくなってしまいます。そうするとどうしても骨が軟らかくなって、骨粗鬆症になったりするんですけれども、ビタミンDをきちんと摂って、血中のカルシウムの濃度をいつも一定にしてあげれば、骨から持ってくる必要はなくなるので、最終的に健康でいられる。直接的ではないんですけれど、そんなことをしているホルモンというのが教科書のレベルの話です。
川添 骨の形成にはカルシウムというのは、もちろんよくよく耳にするので、そこは知ってるのですが、カルシウムだけじゃダメなんですね、骨の形成というところでは。
長谷川 そうなんですよ。他にもイオンでいえば、マグネシウムとか、リンとかご承知のものも実際には必要ですけれど、主にはカルシウムが一番大きな要因となります。
川添 そこにビタミンDがないといけないということなんですね。
長谷川 そうですね。せっかく食べても身にならないということで、例えば薬にしても骨粗鬆症の一番初期から処方する薬の中には、ビタミンDも実際に入っています。
川添 そうなんですね。ありがとうございます。骨の関係以外に、ビタミンDの役割というのはどういうところにありますか。
長谷川 我々が研究を始めた頃は、カルシウムのことだけだったんですけれど、最近は本にも出るようになってきて、いろんなところに効いているんだな、と。
例えば筋肉の疲労についてとか、あるいはがんについてとか、一番最近の話題ではコロナですね、コロナのときにビタミンDが効いたといった報告もあります。成人病で高血圧だとか心臓の疾患とか腎臓の疾患とか、そういうものに対して広く効果があるという論文は、だんだん出てきています。
川添 このビタミンDという栄養素、いろいろなところに影響している栄養素のように、今お伺いして感じるんですけれど、実際、我々日本人の体の中には、意識して摂っていかないといけない栄養素なのか、それとも自力でというか、自分で持ち合わせているような要素だったりするのか、そのあたりはいかがですか。
長谷川 ちょっと微妙な表現にはなりますけれど、両方ともといえば、両方ともですね。一つはビタミンDとして吸収するということであれば、絶対に食べないと無理ですけれども、例えば自分の中、具体的にはコレステロールですけれども、自分の中にある物質を紫外線によってビタミンDに変えていくこともできますので、本来は両方の交換が必要です。
川添 今、チラッと紫外線って出てきましたけれど(笑)。紫外線って私たちからすると、美肌の天敵みたいな感じがしますが、そういうところも影響しているんですね。
長谷川 そうですね、紫外線は実際には光なので。ちょっと難しい言葉で、波長という言葉があります。紫外線には波長の長いもの、短いものがあるんですけれど、その中でAとかBとかCとかタイプがございまして、Bというのが、紫外線が皮膚でコレステロールからビタミンDをつくるのに必要な紫外線なんです。
これはガラスでカットされてしまうので、「ガラスを通して日光浴をしているからいいでしょ」とおっしゃる方がいらっしゃいますが、それはちょっと難しいということになります。もう一つは、同じBが日焼けで火傷するものでもあるんです。だからここが痛し痒しで、難しい、それぞれコントロールをしないといけないところではあります。
川添 上手に付き合っていかないといけないというものなんですね。ありがとうございます。そんなビタミンDというお話を、これから4回展開していくのですが、元々体の中には持ち合わせているし、ちゃんと栄養素として取り入れないといけないというお話が、今先生からありました。実際、取り入れていかないといけないということは、逆にいうと不足もするというか、健康を維持するためには不足しない状態を維持しないといけないというようにも聞こえたんのですが、実際どうなんでしょう。我々、日本人の体には足りてる栄養素なんですか。
長谷川 そこなんですよね。実際には、文献的には90%の方が足りていない。
川添 足りていない。
長谷川 はい。本学の学生さんも毎年計っていますけれど、本当に足りている人は80人、90人のうち3人、4人。今お話ししたのは「充足」、もう十分ですよという人ですけれど、その下に「不足」という方がいらっしゃいまして、ここが一番多い割合です。その下に「欠乏」という方がいらっしゃいます。「欠乏」だとビタミンDはかなり少ないです。だからといって、倒れて動けなくなるというわけではないので、ご自身が気を付けていないと実際に自分で不足かどうかを感じることはできないです。
川添 なるほど。目に見えてとか、自分の自覚症状として現れることは別にない。
長谷川 ないですね。よっぽど骨がひどくなって、だんだんボロボロになってくると、「これは一体、どういう原因だろう」と調べ出して、「あなたはビタミンD不足ですね」みたいなことにたどり着くかもしれませんけれど、普通に生活をしている上では、今自分に足りていないだろうなとか、今日は大丈夫だなみたいなことは、わからないのが現状です。
川添 そうなんですね。9割以上、ほぼ皆さん足りていないということですよね。
長谷川 そうですね。
川添 充足している状態に維持しておくのが、健康のためにはいいということですよね。では足りない分をどうやって補っていくというか、摂取していけばいいのかというところなんですけれど。やはり、食べ物が関係しますか。
長谷川 食べるもの半分、紫外線半分。どちらかというと、紫外線がちょっと多いのかもしれません。
川添 食べ物であれば、どんな食材がとか、そういったこともあるんですか。
長谷川 魚、シイタケ、キノコですね、それから卵。日本人の方がよく食べる食材から摂るとすると、という条件で我々が選んで「これいいですよ」と言っているんですけれども。
川添 いわゆる日常的に食べるもの、卵なんて毎朝食べる方もいらっしゃると思いますけれど、食べることに関しては、食品、食材を選ぶという点では、そんなに特別なことは何もなく。
長谷川 そうですね。若い方は、魚はあまり食べないかと思いますので、そこはちょっと意識して食べていただく必要があるとは思うんですけれど。卵でしたら大体2個半で1日分(のビタミンD)という計算になるので、朝昼晩ありますから朝と夜に1個ずつ食べるだけで、もちろん紫外線の部分も含まれますから、両方でいいのかなと。シイタケも我々の体と同じで、紫外線を浴びたシイタケを食べないと意味がない。
川添 そうなんですね。シイタケにも光を浴びさせる。
長谷川 そうです。干しシイタケがいいというのは、いろいろなところに書いてあると思うんですけれど、それはそういう意味です。生で取ってきたのをいくらパクパク食べても、あまりビタミンDに変化していないんです、中の物質が。
川添 そういう意味で言うとシイタケもそうですし、他の食材、先に上げられた魚や卵も、調理方法などを工夫することで、より吸収しやすくなるとか、摂取しやすくなるということも、あったりするのでしょうか。
長谷川 ビタミンDというのは、もう一ついえばビタミンというのは主役ではないんです、どのビタミンも。何かを作り出すときに、「君がいないとできないよ」という相手が、ビタミンなんです。だから、なくてもいきなり困ることはないけれど、効率よくするために必要であると。そのビタミンも構造上で2種類ありまして、水に溶けるか溶けないかということですけれど、ビタミンDの場合は水に溶けないほうのビタミンになります。油に溶けるビタミンなので、調理のときに油物と一緒に食べると効率が良く、油が分解されるときに、その酵素もビタミンDも分解して吸収の効率が良くなるということになります。
川添 卵だったら卵焼きにするとかでしょうか。
長谷川 そうですね。サラダはドレッシングを必ずかけるとか。
川添 油と一緒に摂る、油に溶ける栄養素であるということですね。油で調理することで栄養素がちゃんと摂れるというお話で、(生活科学部食物栄養科学科 教授の村上恵先生による)調理科学のお話のときにも、野菜から効果的に栄養素を体に取り入れるのに、調理の仕方としては炒め物が一番いいというお話を伺ったことを思い出しました。
長谷川 確かにビタミンDは油に溶けるので、油炒めをすれば中から出てくるということですよね。それからもう一つは、案外熱に強いんです。水に溶けるビタミンは熱に弱いものが多いので、そういうことからすると、調理上は非常に手間が少ない。今のお話ですと、温めれば、加熱すれば何とかなるという。それは非常に当たっている話だと思います。
川添 話がつながって、おもしろいですね。食材、食品から摂取するということと、もう一つは紫外線、日光ですよね。本当は肌のことを考えたら、焼けたくないなとか、当たりたくないというところですけれど、そこは上手に付き合っていかないといけないということで。時間というのでしょうか、日光に当たる時間はどれくらい…。
長谷川 これもよく聞かれる話で、日光浴といわれると、すぐ皆さん、日焼けを気にされます。多分思い浮かべられるのは1日の14時ぐらいとか、一番光の強いときに外に出るというイメージになってしまうんですけれど、決してそうではありません。紫外線というのは多少曇っていても通過してくるので、昼の日中じゃなくても、朝方ちょっと日が差してきたとき、夏なら気温がそれほど上がっていないので、そのときを狙って散歩する、夕方も同じですけれど、それで十分だと思うんです。
時間とおっしゃられましたけれど、これは残念ながら地域差があります。例えば緯度。(地球を)横に切ったときに上のほうと下のほうでは、当然赤道に近いところとは変わってきます。日本でいえば沖縄と北海道は、(紫外線を浴びるのに)十分な時間は違う。京都ですと大体15分ぐらいを1日に浴びていただく。それも顔は日焼け止めなしで、15分間外で寝ておいてくださいということではなくて(笑)、顔は日焼け止めを塗っていただいてもいいんですけれど、手だけ出してもらって。手のモデルさんだったら困るかもしれませんけれど、足もやっていただければもっと効果的だと思います。15分ぐらい、ジョギングか散歩をしていただいて、それを繰り返して毎日していただければいいのかと。
川添 そういうふうに聞くと、ちょっと安心というか、無理やり、日なたに行かなくてもいいのかなと思えますね。
長谷川 ただ一つだけ条件というか、紫外線を浴びてビタミンDができます、その元は何ですかという話なんです。その元は実はコレステロール、はっきり言うと皮下脂肪です。コレステロールって悪者のイメージですよね。例えば心臓の冠状血管に詰まって狭心症になったり、もっと進めば心筋梗塞になってしまう。あるいは脳の細い血管に詰まると脳梗塞になる元ではありますけれど、皮下のコレステロールに紫外線が働いてビタミンDができるのであって、ただ紫外線を浴びればいいわけではないんです。ある程度、食事の中で動物性のコレステロールを含んだ脂肪を摂っていただきたいというのが調理上の(理論です)。卵ならコレステロールもありますしね。一番いいものなんです。
川添 悪そうなものは悪いということじゃなくて、ちゃんとバランスをとりながら摂取していかないといけないということですね。よくわかりました。ビタミンDってどんなものかというイメージがずいぶん湧いてきたところで、次回以降、もう少しこのビタミンDという栄養素のことを、深掘りしていきながら私たちがこれから年を重ねていく上での健康のことだったり、そのあたりに踏み込んで、お話を引き続き伺っていきたいと思っております。今日はこのあたりにさせていただきたいと思います。
長谷川 ありがとうございました。
川添 どうもありがとうございました。