#3 ビタミンDで認知症発見をめざす【長谷川 昇】
ビタミンDの数値から、認知症の初期症状を早期発見する研究を行っている長谷川先生に、「認知度推定プロジェクト」におけるアプリ開発や実装実験など研究について教えていただきました。
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川添 前回に引き続き、看護学部看護学科特任教授で健康科学がご専門の長谷川昇先生に、「ビタミンDが変える明日の健康」をテーマにお話を伺います。全4回にわたって本日もここ京都にあります、同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生よろしくお願いいたします。
長谷川 はい、よろしくお願いします。
川添 前回に続きまして、先生が研究されているビタミンDのお話で、高齢者の認知機能ですとか身体機能に及ぼす影響についてお伺いしていきたいと思っております。前回の冒頭でもご紹介しましたけれども、今、先生は「認知度推定プロジェクト」という名称で研究を進められていますけれど、改めてこのプロジェクトの研究内容についてご紹介をいただいてもよろしいでしょうか?
長谷川 前回までお話しさせていただきましたように、血液中のビタミンDが筋肉の量や認知機能にかなり影響を及ぼすということが、だんだん明らかになってきました。逆にビタミンDの数値さえわかれば、認知機能を推定できるのではないかということを考え、ビタミンDをきちんと知る方法はないかなと。ビタミンDは血液の話なので、採血をしないとわからないということになります。それも悪くはないんですけれど、できれば採血をしないでビタミンDを知ることが一つ、そしてそのビタミンDから認知度を推測する。2段階になりますけれど、そういうアプリ、あるいはアルゴリズムができないかということで研究を進めてきました。
川添 ありがとうございます。アプリの開発ということで、今はスマホ社会でスマホをほぼ皆さん手にしておられるように思うのですが、自分の手元で認知度の推定ができる、そのアプリということですよね。
長谷川 そうです。
川添 すごく画期的というか、近未来的な感じというか。本当に認知症はどう症状が出てくるのか、いつなるのかわからないという、ちょっとした不安感みたいなところが推定できる、それも自分の手元で簡単にとなると、すごく画期的なことだと聞いていて思います。
長谷川 認知度を測定するだけだったら、他にもいろいろアプリはあるんですよ、実は。認知度を測定するテストみたいなものがありますけれど、その一部を使って推定するとかあるいは音声ですね。どのぐらい当たるかどうか、私にはちょっとわかりませんけれど、音声でしゃべってみてとか、その波長といったところを見るんでしょうけれど、そういうご本人の発するものから推定しましょうというアプリは実際にはあります。あるいは新幹線ホームの看板にあるように、アミロイドβ というのが認知症の一つの原因になっていて、それが脳の中に蓄積することによって、神経細胞が死んでしまうのでその部分の記憶が失われることになります。アミロイドβは、ほんのちょっとの血液から推定できますというのが、新幹線の看板に出ていましたけれど、実際にその原因物質をそのままダイレクトに狙うという方法です。あるいはしゃべり方が認知症の方に似てくるからとか、そういう実際に表に出るものから推測するアプリあるいは手段はまだ他にもあります。けれども我々の場合はそうではなく、普段の生活の状況、あるいは体重や身長という皆さんが健康管理上お使いになっている普通のデータを使って、ビタミンDが推測できないかというのが第1段階で、アプリを作り始めました。
実際に調べてみると、認知度とビタミンD濃度との間に、結構、相関があるということがわかってきました。そのときは実際に血液から取ったビタミンDを使っていますけれども、ビタミンDが認知機能の推定に使えることが明らかになりました。そして2段階目として、血液を取らなくてもビタミンD値を推定できないかという課題が見えてきました。それができれば、先ほどの血中ビタミンDの値の替わりに推定したビタミンDの値を使用すれば、最終的に認知度の推定ができることになります。すなわち、ビタミンDの値を採血せずに容易に推測できる条件を探すという課題です。
それは今までの話を総合していただければわかるんですけれど、食生活とそれから日光浴、そういう生活習慣に着目し、それらからビタミンDを推定することができないかと考えました。特許も申請していますけれど、我々の新規性というのは、生活習慣からビタミンDを推定し、推定値を使って認知度を推定するというところで、特許を申請することができています。
川添 一般的にリリースされている認知症の推定測定のようなアプリと、一番大きく違うのがビタミンDという。
長谷川 それを軸にしている。
川添 ということなんですね。それをもって信頼性が増しているというか、そういうことも言えるのではないかと想像します。採血をしなくてもビタミンDを測定するということで、今、先生からちょっとお話がありましたけれど、アプリではこれまでお聞きしてきたように日光浴をどれくらいしているのかとか、どういう食生活をしているのかとか、そういったことの質問に答えていくような形なんですか?
長谷川 そういう感じです。日光浴をしているということもありますけれど、逆に「日焼け止めを塗っているか」という項目もあります(笑)。それから食べ物に関しては、前々回に「何にビタミンDが入っていますか」というご質問で、卵とか魚という話がありましたけれど、「卵を毎日食べていますか」とか「魚はどうですか」といったことも質問項目には入っています。普通の生活習慣を聞きながら、そこからビタミンDを推測するという。
特に日本人が食べることの多い食べ物をピックアップして使う。もちろん全部やっているわけではないんですけども。あともう一つ、「サプリを飲んでいますか」というのも、中に入っています。
川添 「サプリを飲んでますか」ということは、ビタミンD系のサプリを摂っているかということですか。
長谷川 そうです。ビタミンDのサプリを飲んでいますか、使っていますかというのも項目に入れてあります。
川添 なるほど。そういういくつかの質問、いわゆる日常生活というのを答えていくことによって、推定ができるということですね。
長谷川 そこでアンケートから出た点数と、その方に採血をしていただいて(血液から)測ったビタミンDがきちんと相関することをまず確かめて、その項目で十分だということを(確認できました)。
川添 とすると、判定をするために、アプリ自体にかなりの数のデータが蓄積されていないといけない、判定ができないと思うんですけれど。そのデータの蓄積、データの収集というのは、どのように進められたんですか。
長谷川 条件がいろいろあるだろうということで、紫外線の量が違う石川県の七尾市の高齢者の方、それから福井県の永平寺町、それから京都は宇治、愛知県は長久手ということで地域の違う方に。健康教室のようなものを自治体が実施しているので、そこで一緒にやらせていただいて。もちろん我々はビタミンDも測定しますけれど、それ以外に血糖値、あるいは運動の歩行機能だとか、筋肉量だとかそういうデータも測定して、「今こういう状態ですよ」ということをお返しするための健康測定の一環としてデータを少しご提供いただいて、それで作ったものになります。ただ、それがまだ(推定が)100%かというのは言い切れないので、これからもう少し数を増やして、場合によっては、そのデータで深層学習、AIに式を作ってもらう、アルゴリズムを作ってもらう。そのアルゴリズムがどこの日本人でも、どこにお住まいの方でも合うかどうかというのは、今はっきり申し上げにくいところです。いろいろな地域の人のデータを使っていますが、お住まいの全員の何割かというと100%ではないので、次の段階としてはそれがどのぐらいあるのか。場合によっては、我々はそれぞれの地域のバージョン、例えば北海道地域のアルゴリズムを使ったアプリ、近畿地方の人のアプリであってもいいのではないかと思っています。
川添 アプリを立ち上げて推定をするときには、まずは「お住まいの地域はどこですか」から始まって、そこを選択することによって、その地域の方々から収集されたデータをもとに判定が進んでいくみたいな、そんなイメージですよね。
長谷川 その地域に行って、このアプリを使っていただいて、出たビタミンDの値と、採血をさせていただいたビタミンの値が合うかどうかですよね。つまりアンケート項目は、その地域はそれでいいのか。地方の方は漬け物をたくさん食べられたりしますので、地域によって食べ物が違うわけですからオールマイティーの質問項目かどうかはわからないので、それがきちんとビタミンDの排出を予想するだけのものであるかどうかを、まず確かめないといけないとは思っています。
川添 このアプリは特許も申請されているということなんですけれど、一般の方は利用することは、今できる状態なんですか。
長谷川 一応できるようにはしてあるんですけれど、現在のところは少し待ってくださいという状態です。今(プロジェクトが提携している)薬局さんに、お買い物でいらっしゃったお客さんにお願いをして検証しているというところです。一つはアプリ自体がスマホの画面で簡単に操作できるものかということ。我々は作るときに、「もうこれでいいだろう」と思っておりますけれど、実際に高齢者の方からするといいかどうか、わかりません。もっといいものがあるかもしれない。
それから、アプリに入力したデータから推定した認知度が表示されるシステムになっており、同時に、出た結果に対して有益なコメントが表示されます。そのコメントに妥当性があるのかを検証しなくてはいけない。それに関しては、ちょっと齟齬があったりするものが臨床研究中に出てきていますので、それを直すということですね。そんなことをしながら、徐々にリファインし、完全なものにしていくという段階です。
ただ、(一般の方がアプリを使うことは)やってやれないことはないんですけれど、我々が持っているホームページを見ていただいて、ただ一つだけお約束いただきたいのは、きちんとこちらの許可を取ってから使っていただくというような、(現段階では)やたらめったら使えるというものではない、ということは一応書いてはあります。できればもう少し待っていただけるとありがたいというところです。
川添 今はまだ実証実験中なので、使える場所が決まっていますよということで、身近でそういった機会がもしあれば、「このラジオで聞いたアプリのことなんじゃないかな」と、もしかしたら偶然にも出会う方がいらっしゃるかもしれないですね。
長谷川 この前もある薬局さんでこの測定会をしたのですが、チラシはホームページにも載せてありますので、それを見てちょっと行こうというのは、可能かもしれません。
川添 アプリということで、高齢者の方が使われることがきっと多いだろうと思った中で、スマホを普段から使い慣れてるといっても、アプリそのものの操作性とか、使い勝手だったり、使っていく操作を理解できるかどうかという問題も、結構大きなところかというのは、少し気になっていました。
長谷川 今のところは二次元コードで入って、登録してもらうようにしていますけれど、それも今の段階では、(測定会を行っている)薬局の管理栄養士の方が代わりにやるということにして、使い勝手がどうかというテストにしています。それがうまくいけば、いよいよご本人にという段階になると思います。
川添 自分たちの手元でアプリをパッと取得できて、しょっちゅう使うものではないとは思うんですけど、自分が気になったときに、推定できる、触ることができるという時代がまもなく来るというのは、すごく画期的なお話だなと思って、興味深く伺っていました。
長谷川 我々としては、今おっしゃられたように、お一人おひとりが操作してもらうのが一番いいことかと思っていますけれど、その前の段階でいろいろなグレードがあるので、例えば市役所の健康長寿課とか高齢の方に対応されている課があると思うんですけれど、そういうところで使っていただければ、ご自分の担当の方のお一人おひとりの認知度を把握できるということも視野に入れているので、それに向けて、本学のある京田辺市と協議が始まったところです。これから、役所の使用についても始まっていくと思います。
川添 今後のリリースも楽しみに注目していきたいと思いました。アプリ開発のお話を今日はメインでお伺いしましたけれど、次回が最終回となります。次回ももちろんビタミンDの話を軸にしながら、日本のこと、それから先生が今、海外でも研究を進められているということですので、そちらの話も含めて、最終回にお話をお伺いしていきたいと思っております。また次回もよろしくお願いいたします。
長谷川 ありがとうございました。
川添 本日はありがとうございました。