ビタミンDが変える明日の健康

ビタミンDが変える明日の健康

長谷川 昇

看護学部 看護学科 特任教授

#4 ビタミンD、日本と海外で比べてみると【長谷川 昇】

長谷川先生は日本の高齢者とビタミンDの関係だけでなく、タイ王国との比較研究も行っています。2国間に違いはあるのか、タイ王国での研究について伺いました。また最終回にあたり、リスナーへのアドバイスもお届けします。

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川添 前回に引き続き、看護学部看護学科特任教授で健康科学がご専門の長谷川昇先生に、「ビタミンDが変える明日の健康」をテーマにお話を伺います。本日もここ京都にあります、同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生よろしくお願いいたします。

長谷川 はい、よろしくお願いします。

川添 いよいよ先生との番組も最終回になりました。これまで3回にわたってビタミンDという栄養素が、とても大切な役割を果たしているということがわかってきました。今回の最終回は、まず先生が今研究を進められている海外のお話、エピソードなどもお伺いしたいと思っています。

今先生は日本だけでなく、タイでも同じように(ビタミンDと認知機能の)研究を進められているとお聞きしているのですが、なぜタイに行かれたのかというところから、お話を伺っていきたいです。

長谷川 タイに行くにはお金がかかるので、予算がないと行けないのですが、タイは文献的に認知症の割合が日本と比べて6分の1ぐらいと、認知症が少ないことが知られています。これは本当なのかということを確かめることも含めて(科学研究費助成事業に)申請をして、いただいた予算を使って行っている研究ということになります。なので日本人がタイ人の生活を真似できる何かいいものはないか、「だから認知症が少ないのではないか」というもの、そういうことで始めたのですが、実際に行ってみると特に何ということはなくて。

(タイで訪れたおうちが)敷地が広いご自宅なんですけれど、そこに息子さんのおうちがあり、お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんの家があるという生活をされていて、100歳ぐらいの方も何人か見ました。人生の最終段階に近づいている方もいらしたんですけれど、必ず誰かが見ているんです。だから(家にいらっしゃる方が)外に出るということは、多分ないと思います。おそらくその方は認知症だと思うんですけれど、では、誰がそういう人の数を把握しているかといったら、把握できないですよね。日本でもそうですけれど、高齢者の方の状況を把握するというのは、役所でいえば保健所とか療養施設になります。そういうところに入所されている方、あるいは保健所の事業に参加されている方であれば、健康状態とかはすべてチェックできますけれど、実際は外に出ないと日本でも把握できない。だから(タイの人は外部機関とつながっていない分)認知症の数が少ないのではないかという感想を持ちました。

川添 データを取りきれていないということですね。

長谷川 そうですね。ビタミンDを測定してみると、意外と驚いたことにタイの方は高いんです、日本人と比べて。

川添 皆さん充足(※)しておられる。

※体内におけるビタミンDは、血中のビタミンDの濃度により「充足」「不足」「欠乏」という3つの判定基準で区分されている。

長谷川 半分ぐらい充足ですね。日本人は充足の人が非常に少ないので。

川添 9割が足りていない(不足)ということでしたものね。

長谷川 不足の割合はそう変わりないのですが、欠乏の割合が逆転しているので、ビタミンDに違いがあるのではないかと(仮定しています)。日本と同じ測定を我々だけではできないので、タイ北部のチェンマイ大学とか、やはり北部のランパーンのラチャパッド大学と共同研究という形で始めたところです。

川添 実際、タイは現状、いわゆる日本のように高齢社会になるんですか。

長谷川 そうですね、高齢社会になりつつある。日本よりもちょっとまだ、高齢化という意味では遅れていますけれど、一つはタイの定年って60歳なんです。日本は65歳ですよね。若いときに定年を迎えられているということは、おそらくその後の豊かな生活というか、給料にあまり縛られない富裕層の方、「日本に何回も行ったことがあるよ」という方ともお話しさせてもらいましたけれど、そういう方は(認知機能における)認知度もすごく高いですね。

川添 わりとゆったりとした生活。

長谷川 そうです。いろいろなことができますよね、60歳できちんと仕事を終えられるということになると。

川添 生きる活力みたいなものが、ずっと生きている間続く。お仕事は今はないんだけれども、自分の好きなことをして過ごしておられる。

長谷川 そうです。そういうことが多分いいのではないかなと思って、日本でも同じような測定をして、ビタミンDの多い高齢の方は日本にはいないのでその代表としてタイの方々を研究させていただき、日本人はビタミンDが低いマップの手段になるので、そこでどんな違いが出てくるのかということを、同じ測定をしながらチェックしていこうというのが、我々のプロジェクトです。

川添 実際、タイの方々のほうがビタミンDの充足率は高いということなんですけれど、その要因としてはどのように考えられていますか。

長谷川 今のところ、今までお話してきた経緯からすると(ビタミンDの摂取は)食事と日光浴、紫外線ということですけれど、紫外線についてはもう文句なく赤道に近いところにありますから十分あるだろうと。それから食事もどちらかというと脂のものが多く、豚肉をよくお召し上がりになるんです。向こうの学生たちと食事で焼肉に行っても、そもそも牛肉はあまり置いていない。豚肉は脂身とかがあるので、おそらくビタミンDの充足は、食べ物からも紫外線からも十分なのかなと。ただこれも、きちんと今調査をしてます。食事調査もしているので、その結果が上がってこないとあまり無責任なことは言えないのですが、感覚として、そんな違いがありそうだなという気はします。

川添 今はタイだけかもしれないですけれど、他の国のそういった事情なども、研究や実験ができていくと、前回ご紹介いただいた認知度を推定できるスマホアプリも、可能性がもっと広がるのかなと、すごく思います。

長谷川 私どものアプリは、食生活と日光浴(といった生活環境)でビタミンDを推測し、そのビタミンDと体組成や年齢、身長などを組み合わせて、最終的な認知度としています。体組成というのも一つのファクターになります、筋肉量とか。

それはどうやって測っているかというと、体組成計というか、筋肉はどのぐらいありますよ、特に右腕左腕、右足左足、それぞれの筋肉量と脂肪量が測定できるような、少し精度が高い機械になります。そういうもので測ると、体組成がきちんと出ます。私が日本で使っている機械とタイの機械は全然別物ですけれど、私がたまたま両方の機械で測ったところ、数字がほとんど同じだったんです。ということは、(機械の)原理をよく考えてみると、弱い電流を流すと筋肉と脂肪は電気の取り扱いが違うので、片方から流して片方で受け取ったときにどのぐらい減るかとか、どのぐらい通りやすいかみたいなことで式があって、そこで換算しているということなんです。その式が、日本の機械とタイの機械は、同じということがわかる。最終の結果が同じということを少し拡大解釈すると、タイ人と日本人の体組成はほとんど変わらない。ということは、アプリの体組成の部分はほとんど共通でいいのではないかと。

川添 そうですね。

長谷川 だとすると、ビタミンDが(タイにお住まいの方のほうが)多いだけということになるので、同じアプリが使えるのではないかなと考えています。

川添 いろいろな可能性がまだまだ広がるという楽しみな部分もありますけれど、今進められている研究で、今後、より注力していきたいこと、解決をめざしていきたいことを最後にお伺いしたいと思うのですが、いかがですか。

長谷川 ビタミンDから(認知機能の程度)を推測するということが日本人だけではなく、全世界中の人たちにとって共通ということを確立するというか、はっきりさせていきたいです。あくまでも、そのためのアプリですから。これまでの話を総合していただければわかりますけれど、ビタミンDというのはカルシウム代謝のところでしか、いまだに教科書的には書かれていないわけです。実際にはもっと働きがあるということで、ビタミンDは重要なものである、もっと言えばなぜ重要なのか。神経細胞もですが、我々の細胞膜は脂でできているので、脂溶性のビタミンは簡単に通過できます。

皆さんは(皮膚が)かゆいときに、かゆみ止め薬を塗りますよね。あれは経皮吸収というか、塗っている部分に浸透していく薬、つまり脂の薬だから手に塗れるわけです。だからかゆいところに(薬の成分が)入っていくことができる。だとすると(脂溶性の)ビタミンDも細胞の中に入っていく。細胞の中には核があり、核の膜、核膜も細胞膜でできてるので、(脂溶性のビタミンDは)核の中に入る。核の中にはDNAがあり、遺伝というところにも関係しています。つまり、もっと言えば受け取った遺伝もですが、何かをつくり出すということも当然できる物質だと思っているので、(ビタミンDは)すごいものではないかと思っています。たまたま今は認知症の研究をしていますけれど、もっと他のものに応用できる、それがアプリなのか、あるいは治療なのかはわかりませんけれど、ビタミンの一つで予防もできる、治療もできるということが明らかになっていければ。新しい分野でiPS細胞というすごいツールもありますが、ビタミンでiPSを超えることができれば。荒唐無稽の話をしてますけど(笑)。

川添 いえいえ、ありがとうございます。これまでのお話の中でも命だったり、生きるということだったり、年を重ねるみたいなところで、専門は先生方、皆さん違うのですが、たびたび(この「ひとつぶラジオ」でお話しいただく中で)行き着くところは結局、人として無理なく、それぞれが納得できる生き方を叶えるための研究だと感じています。そういった面で今日までのお話も、これから自分が年を重ねていくとか、自分自身ではなく周りの人たちも年を重ねていく中で、何となく不安に思っている中で、健康をどう維持できるかということが、こういった研究成果によって不安が軽くなっていくものだということを、改めてお話を聞いて感じることができました。すごく新鮮なお話だったと思います。

リスナーの皆さんは私世代の方が多いかとも思うのですが、最後にそういったリスナーの皆さんに、先生からメッセージをいただけるならお願いしたいのですが、いかがですか。

長谷川 これから妊娠、出産をお迎えになる皆さんには、現在のところ残念ですけれども、全世界中の妊婦さんはビタミンDが低い(摂取量が不足している)状態です。その結果、例えば妊娠糖尿病や高血圧の問題、あるいは帝王切開のリスクもあることが報告されています。もっと言えば、将来生まれてくるお子さんにも影響が出てくることがあるので、できればビタミンDについて少し考えていただけたら。それは今までのお話でわかるように、そんな大したことではないんです。食べ物にちょっと気をつけてみる、ちょっと日光浴をしてみる。どうしても足りないと思ったらサプリメントで摂っていただくことも悪いことではないと思います。そんなことをお伝えできればいいのかと。あまり室内だけにこもりっきりにならず、生活を変えていただければと思います。

それから更年期を迎える女性の方は、骨粗鬆症ということが一番ご心配かと思います。高齢になると転んだら骨折になり、骨折したら治りが悪いからいきなり入院になり、長引くということになってしまう。そして入院でまた狭いところ(病室)に閉じ込められていると、日光浴もできなくなり、悪循環が起こることになります。女性の方はどうしても閉経後、女性ホルモンが減ります。この女性ホルモンは、実は骨を溶かす細胞に一生懸命、働きかけ、抑えるホルモンになります(※)。この点に気をつけていただきたいと思います。

※体内のカルシウム量が足りないと、骨からカルシウムを溶かして補充するが、女性ホルモンはその調整を行っている。

川添 ありがとうございます。これまで4回にわたって、ビタミンDという栄養素のことを軸にして、私たちのこれからの健康のことを、いろいろ考えてみました。全4回にわたって先生どうもありがとうございました。