#2 田舎暮らしの人とのつながり【齋藤 朱未】
人とのつながりは、都市部は希薄で田舎は濃厚と言われていますが、みなさんがお住まいの地域はいかがでしょうか。地方移住で避けて通れない人間関係について、齋藤先生にお聞きしました。人間関係が濃い田舎だからこそ、できることもあるようですよ。
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川添 前回に引き続き、「農村部から学ぶコミュニティづくりのヒント」をテーマにお話を伺いするのは、生活科学部人間生活学科准教授(※)で農村計画がご専門の齋藤朱未先生です。本日もここ京都にあります、同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。では齋藤先生よろしくお願いいたします。
※収録時。2023年4月現在、教授。
齋藤 お願いします。
川添 前回は初回のお話として、農家レストランをキーワードにして、お話を伺ってきましたけれども、今日は「田舎暮らしの人との繋がり」というテーマを一応立てておりまして、お話をお伺いしていきたいと思っております。
地方移住のお話、ちらっと前回も出ましたし、私自身は結構最近、ニュースなんかで見聞きする内容で、東京なんかだと転出超過になってというようなお話をちょっと聞いたりして、結構地方のほうに人が動いている、流れているというお話を、最近聞くことが多くなったなと思っているんですけれども。何かそのあたりの実態だったりとか、先生の研究されている中でのお話をお聞きしたいなと思うんですが、いかがでしょうか。
齋藤 そうですね。コロナになってから、東京だけじゃなくて、東京をはじめ大都市圏だけではなくて、地方のほうにというようなことで、人がどんどん出ていっている、地方のほうに移住してるっていう話はあるんですけれども……。いやあ、実際はそうでもないですよ。
川添 あ、そうなんですか。
齋藤 確かに“戻っている”という言い方をすると、地方の出身の方がご実家のほうに戻っているというパターンもあります。ただ、ここ最近のそのコロナのことで、地方に移住しているっていうような傾向についてをよーく見てみると、結局、都市に通える範囲の地方に移動している、移住しているという方が多いかなというのが実態だと思います。
川添 例えば今、我々のこの同志社女子大学(京田辺キャンパス)の近辺でいうと、大阪なんかが一番、都市部みたいな形ですし、そこに通いやすい、ちょっと離れた……。
齋藤・川添 (声を揃えて)田舎。
川添 田舎っていうところに移住をされている。
齋藤 そうですね。コロナで緊急事態宣言下のときに、特にリモートワークが増えていったということもあって、会社に通わなくてもいいんであれば、田舎でのんびりと、おうちで仕事をする。それが許されるなら、都会にいる必要はないですよね。わざわざ高い家賃払わなくても。
川添 そうですね。
齋藤 人がゴミゴミしてるところにいなくても、みたいなことなんで。そういう人は思い切って、確かにこの辺だと高知のほうとか、徳島のほうに移住される方とか。あと淡路島なんかに行く方もいますけれど。ただ、まぁ……大阪はどうだろう。大阪の辺りは結構すぐに田舎があるので、どこに行っても比較的通える範囲なんですけど。東京なんかでいくと埼玉とか千葉とか、ああいう、いわゆる1時間2時間ぐらいで大都市に行けるようなところ。そこのいい感じの田舎過ぎず、田舎な部分(といった土地に)移動している、移住している方が多いなっていう印象ですね。
川添 いわゆる住み心地が良い場所に移住というか、移転じゃないな、なんて言うんでしょう……家を住み替えて、でもお仕事は変えずに、お仕事の仕方を工夫してるっていうことですよね。リモートワークを取り入れて、通勤するにしても、週に1回、2回ぐらいとかいう頻度が。
齋藤 そうですね。週1、2回なら片道2時間かかろうが、まぁまだ耐えられる、と。
川添 そうなんですか。ちょっとニュースで見聞きしてた内容と、実態そうなんだっていうところですけど。
地方移住っていったら、前回お話出ましたが、仕事と密接に関わるっていうところで。実態として、仕事も、本当に住み替える土地に合わせて変えてしまっての移住をされる方っていうのは、そんなに多くないってことなんですかね。
齋藤 一定数はいます。特にお父さんの世代が転勤族で、おじいちゃん、おばあちゃんが田舎にいない方。そういう今の20代、30代の方は、比較的思いっきり田舎のほうに移住をして、そこで自分が持ってるパソコンスキルを使って、行政から下請けの広報の仕事をする、とか。
川添 なるほど。
齋藤 あとは、カフェをオープンするみたいなことで、やっている若い人はいますね。
川添 イメージで、そこまで生活をガラリと変えるっていうことをすると、そこの地に自分の生活パターンだったりとか、ご近所づきあいも含めて、どっぷり変わってしまう、変えないといけないっていうのがすごい難しいとこなんじゃないかなと。すごく大きな決断だなって思いますけどね。
齋藤 はい。思います(2人笑)。思いますね、かなり変わると思います。なので、本当に田舎に移住すると、よくいうご近所づきあいっていうのができないと、やっぱりちょっとしんどいかなっていうところはありますね。
川添 ご近所づきあいというと……。
齋藤 例えば川添さん、今どういうご近所づきあいしてますか。
川添 ご近所付き合い……。隣とか数軒、両隣だけではない、数軒の範囲でのいわゆる町内会的な、そのレベルですかね。
齋藤 お隣さんのお仕事とかご存知ですか。
川添 あんまり知らないです。きっとお仕事されてるんだろうなぐらいな感じですね。
齋藤 ただ、田舎に行くと濃いですよぉ(2人笑)
川添 もっとプライベートなところもですかね。
齋藤 そうです。もう四六時中監視されてるっていうふうに、よく都会から来た方は言うんですけれども。何をしてるかを、常に見られてるようなものになりますし、もうご近所さん同士が、「あそこのお父さんはどこに働いてるから何時に家を出るとか」「あそこの子どもはどこの学校に行ってる」とか、全部把握してますね。
川添 えぇ、監視カメラがついてるみたい。
齋藤 もう人動監視カメラ。
川添 なんかそういう環境に、都市部から移住して、見られているってかなり大変なことじゃないかなと思いますね。
齋藤 私もそう思います(2人笑)
川添 何て言うんでしょう、移住したからには、やっぱりその土地で、いったら生涯過ごそうときっと思われて決断されて移住されると思うんですけど……そういうご近所づきあいだったりが、環境にどうしても慣れなくて、「ちょっと難しいな、やっぱり(ほかの土地に)住み替えようかな」みたいな、そういう方が実際……。
齋藤 います。
川添 おられるんですか。
齋藤 います。
川添 そうなんですね。
齋藤 やっぱりお隣さんが誰かがわかんないような生活をしていた方が、さっきもちらっと言いましたけど、監視されてる気分になってしまうので。それが(実際は地元の方が)お互いを話のきっかけを探しに、例えば隣のおばあちゃんが実は(話のきっかけを)探しに来てて、よく(我が家に)みえてる(=いらしている)っていうふうに思えなければ、生きづらいなとか。あとは、田舎ってのんびりと悠々過ごせそうと思って来たのに、来てみたらワサワサいろんな人が毎日やって来るみたいなところで、なんかもう全然落ち着かないみたいなところでちょっとイメージが違ってしまうと、昔の生活が恋しいというか、1人でやっていたときがいいなっていうところになって、出ていってしまうってことはあります。
川添 思い描いていった自然の風景そのものの生活ではなく。
齋藤 ではないですね。田舎の生活は人との生活だと思います。
川添 そうですか。そのあたり都市部は全く、本当に先に私が(先生の問いに)答えたように、お隣さんのお仕事なんか全然知らないですし、そういう意味では、逆に人間関係は希薄。希薄で、それで生きていけるっていうか、生活していけるので、その点全然違うんですね。
齋藤 そうですね。
川添 人付き合い(の中で)監視されてるっていうのは、すごいネガティブな受け方ですけど、逆にそれだけ繋がりが濃いと、いい点なんかもあったりするんでしょうか。そのあたりはいかがですか。
齋藤 確かにネガティブな表現でちょっと監視って言ってしまいましたけど、逆に興味を持ってもらえてるっていうことなので、その移住した人が何か実はこういう仕事がしたいということがあれば、「あの人に言ったらきっと支えてくれるよ」とか、「なんかあの人がこういうことを知ってるよ」みたいな情報を与えてくれて、みんながみんなで、その人を持ち上げて、夢の実現ルートを作ってくれることもあります。
川添 いわゆる“ツテ”で何とかなっていく、とかいうような感じなんですね。
齋藤 そうですね。それもあるし、あと、お子さんがいるご家庭なんかであれば、子どもの安全安心、通学路を歩いているだけでも、1人で歩いている様子を見て、「誰々ちゃん」みたいなことで声をかけてくれたりとか。今、難しい状況ではあるので、何か知らない人に挨拶をするなっていう教育もされたりはするんですけど、(地域の)みなさんがみなさんでその子どもを見守ってくれるっていう点では、その地域の方全員が、子育てに協力してくれるっていう点で、すごいいい、なんていうかコミュニティというか繋がりというものをつくっていくことができるかと思います。
川添 なるほど。以前ちょっと別の場面で話題に上がったことがあったんですけど、防犯だったりとか、防災っていう観点でご近所づきあいっていうのがちょっと見直されている、都市部なんかでも、見直されてるみたいな話が、ちょっと話題に上ったことがあって。そういうのって、田舎暮らしだとどちらかというと、メリットといえる部分なのかなという感じですね。
齋藤 はい。さっき言ったように、お隣さんが何してるかわかってるので、日中、おじいちゃんしかいない家だと、そこで地震があって逃げなきゃとかいうときに率先して、そのおじいちゃんを助けに行ける人が何人かいるっていう。そういう情報をお互いに持ってるっていう点では、人と人の繋がりが濃い分、難しく言うと“共助”の言葉がうまく働くかと思います。
川添 そうですね。都市部ではなかなか難しいですけどでも、ちょっとでも田舎の人の繋がりがそうなんだっていう今のお話を受けて、少しでも参考になることがあればなというふうに、今、お聞きして感じたところでした。どうもありがとうございました。
齋藤 ありがとうございました。
川添 本日は、「農村部から学ぶコミュニティづくりのヒント」をテーマに、齋藤朱未先生にお伺いしました。次回はコミュニティの可能性についてお話を伺っていきたいと思います。