農村部から学ぶコミュニティづくりのヒント

農村部から学ぶコミュニティづくりのヒント

齋藤 朱未

生活科学部 人間生活学科 教授

#4 農村の今とこれから【齋藤 朱未】

少子高齢化によって、過疎化が進む農村部。これから日本の農業や農村コミュニティはどう変化するのでしょうか。テクノロジーによって変わりつつある農村の仕事と生活、そしてコミュニティについて齋藤先生にお聞きしました。

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Transcript

川添 前回に引き続き、「農村部から学ぶコミュニティづくりのヒント」をテーマにお話をお伺いするのは、生活科学部人間生活学科准教授(※)で、農村計画がご専門の齋藤朱未先生です。本日もここ京都にあります同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。齋藤先生よろしくお願いいたします。
※収録時。2023年4月現在、教授。

齋藤 よろしくお願いします。

川添 今回は最終回ということで、今までお伺いしてきた農村の今、現状と、あと今後、未来に向けて、というあたりでお話をお伺いしていきたいなと思っています。前回までのエピソードでも、田舎暮らし、それから農村のコミュニティというあたりで、いろんなキーワードが出てきてて、私が一番印象に残っているのは、前回の(エピソードでお話しいただいた)農村部でのSNSの活用だったりとか、割とICTなんかも進んできてるっていうところがすごく印象に残ってるんですけれども、今の農村でのリアルな現状、課題だったりとか、そのあたりからまずはお聞きしていきたいなと思います。

齋藤 はい。農村のリアルな現状、課題といったようなことで、一番最初にやっぱり出てくるのは、後継者不足ですね。

川添 後継者不足。

齋藤 農業を営む後継者が、そもそも存在していないっていうことが一番大きな問題にはなっています。

川添 いわゆる跡継ぎってことですよね。

齋藤 そうですね。

川添 女性が嫁いでくるというイメージも、なんとなくありますけれども。実際、その辺りもやっぱり難しいところなんですか。

齋藤 嫁ぐ男性がいればいいんですけど……。そもそも、今はもう農業で食べていくのって、結構、昔に比べると規模が大きくなければ難しいというふうに言われていて。特にお米なんかは、すごい安いお値段になってしまっているので、どうにかブランド化して、「何とか産、何々米(例えば、魚沼産コシヒカリなど)」みたいな、そういう自分でのブランディングっていうのを行いながら、どうにか付加価値をつけてやっていこうっていうような動きがあるんですけど。それをしていない方々にしてみると、“農業で食べていくのはなかなか難しい”。なので、“もう農業はやらない、継がない”といった方が多くいらっしゃって、若い人がどんどん都市部のほうに仕事を求めて行ってしまう、といったようなところがあります。そういう状況にはなってるので、今農村の中でいろいろと活用されていること(のひとつ)としては、10軒の農家に10人の後継者がいたところを、今は1人の後継者で10軒分の農業をまかなおうみたいな動きができてます。

川添 それは、どうやったらできるんでしょう。

齋藤 ですよね、普通に考えるとそうなんですけど。そこで動くのがICTなんです。今スマート農業みたいなことで、農業の機械化っていうのはかなり前から進んではいるんですけれども、もう後継者がいないのであれば、その数少ない後継者に、いかに効率よく農業をやってもらうか、あとは持続してもらうか、っていうところで、ただの機械化ではなくて、無人の機械を動かすとか。あとはエンジニアになりたかった人(=技術的な知識を持つ人)を呼んできて(※)、農業をやってもらうといったようなことで、どんどんそういうICTの動きっていうのが、農村部のほうでも今は出てきています。
※エンジニアの技術を活用して農業を行うという意味。例えば,ハウスなどの施設栽培の作物は、朝晩の水やりや作物の生育状況に応じた肥料やりなど、毎日の決まった作業などは、エンジニアによるプログラミングなどにより自動化が可能。また、機械を操作・修理するという点では、エンジニアが農作業を行うことで,効率良く作業を進めることが可能とされる。

川添 そうか。そうすると、1人で10軒分の農家の維持ができる。

齋藤 そうなんです。現地に行かずとも、もうGPSとかの遠隔操作で機械を動かすことをプログラミングしてしまえば、あとはスタートボタンを押せば、お風呂に入ってる間にやってくれる、ごはんを作ってる間にちょっと(農作業を)確認しがてら“やってくれてるな”っていうので、農作業ができてしまうっていうところに、今どんどんと技術が追いついてきています。

川添 そうですか。それは導入したいって願い出る側と、そういう開発をしたい、提供したいっていう側はもちろんあると思いますし。

齋藤 農機具(メーカー)さん。

川添 あと導入しようにも資金的な部分で、割とハードルがすごく高いような印象もありますね。

齋藤 さっき10人の後継者がいるのが(=必要なのが)1人でできるっていう話をしたんですけれども、その(あとを継ぐ)1人が確保できれば、その1人の人が残りの9軒分からいくらか委託料もらって。

川添 はぁ、なるほど……。

齋藤 (その農作業の委託料で)その機械を購入して10軒分の農作業をするというようなことが、できていったりします。なので、1人でやるんだけれども、実際の資金としてはその人だけに負担がかかるわけではなくて、ほかに委託してくれる農家さんからの資金を得ることもできるので、そこまでハードルは高くないかな。あとは地域で1台購入するっていうパターンが結構あるので、その地域で、共同で、それこそコミュニティの話に戻りますけど、コミュニティをつくっていって、その組織として機械を導入するっていうことになれば、みんなが使えるものなので、みんなで地域の農業を支えていこうといったようなことでは、必要な経費かなというふうに思います。

川添 そうですか。そういったいろんな工夫をしながら、維持をしていくってことですね。ただそうは言っても、後継者としてあてにしていた若者たちが、どんどん農村部から転出しているとなると、やっぱり農村部の人口っていうのは、だんだんどうしても減っていきますよね。純粋に考えると。

齋藤 そうですね。

川添 その転出してしまった、都市部のほうに転出してしまった、いわゆる若い世代だったりが、もともと自分が生まれ育った農村部のほうの(高齢の)人たちと、それこそSNSだったりとか、何か繋がり続けられる関係性みたいなものが何か継続されると、それこそ都市部に行ってしまった若手が、残っている高齢者の方々のために、そういうICTの活用みたいなところのハードルを下げる役目を担ったりもできるんじゃないかなって、ちょっとすごい期待を持って、今思ってたところなんですけどね。なんかもう切り分けて、“自分が出ていっちゃったから、もう後のことは知らんよ”じゃなくて、やっぱりそういう、もといた自分の地のことをちょっと思い続けるみたいな、なんかそういうふうな、それぞれの意識の持ち方みたいなのも期待してもいいのかなって、そういうふうにも思ったりしましたね。

齋藤 そうなんです。川添さんが言った点って、今、実は注目されてるところで。

川添 そうなんですか。

齋藤 「関係人口」っていうふうな言葉でよく言うんですけれども。出ていったからって別に繋がりがなくなるわけでもないし、繋がりを切りたいって思ってるわけではない。そういう人たちが、自分たちが生まれ育ったコミュニティとどう繋がっていこうか、あとは実家に帰ったときに、すんなりとそのコミュニティに入れるようにっていったことで、普段はいないかもしれないけど、来たときには「おいでおいで、一緒にやろうよ」みたいな形で入っていけるような繋がりっていうものを、どんどん日本のいろんな地域の中でつくっていこうというような取り組みっていうのが、広がっています。

川添 そうなんですか。それも、前回の話題にあったコミュニティみたいなところに繋がっていくのかもしれないですね。はい、ありがとうございました。

最後にですけれども、先生の今研究されている内容を踏まえて、今後の日本の農業とか農村コミュニティに対する期待、どのように変わっていくのかな、変わっていってほしいなっていうような期待みたいな部分も、ぜひお聞きしたいなと思うんですけど。

齋藤 私自身は農村っていうのは、もう誰が来ても、何でもできるような場所になればいいなっていうふうな思いで、今も研究をしているところがあります。で、若い人が何かチャレンジしてみたいんだけれども、どこでやろうか、どうやってやろうか、リスクを考えるといったようなことで悩んでるときには、「まず農村行ってみな」って私は言いたいところがあって。あとは子育ての点でもそうですね。少し、おじいちゃん、おばあちゃんと関わっていく中でとか、全く知らない大人と関わっていく中で、いろんな話を聞いてみたいといったようなときに、気軽に結構、行けるところがあると思うんですよ。

で、そこに行くことによって、嫌な面もあるかもしれないんですけれども、自分にはなかった新たな発見とかをしていける場所っていうのが、どっかの農村にはきっとあると思うので、そういう点では、いろんなコミュニティもそうだし、文化もそうだし、そういうのを発見できるようなところ。あとはそれを維持できるように、私は今後も研究をしていければなというふうに思っています。

川添 ありがとうございます。農村っていう言葉はイメージとしてね、ちょっと古いイメージだったりとかを持たれてしまうような、若い方も多いかもしれないんですけれども、こういった未来に向けてのいろんな取り組みだとか、お話をお聞きするとすごく印象が変わった部分もありますし、ちょっと魅力的な面もあるんだなというふうに感じることができました。

齋藤 よかったです(笑)

川添 ありがとうございました。これまで4回にわたって、「農村部から学ぶコミュニティづくりのヒント」をテーマに齋藤朱未先生にお話をお伺いしてきました。齋藤先生、改めてどうもありがとうございました。