パッケージから知る食品加工の世界

パッケージから知る食品加工の世界

西村 公雄

生活科学部 食物栄養科学科 特任教授

#3 天然と養殖、あなたはどっち?【西村 公雄】

鮮魚コーナーで見かける「天然もの」の文字にひかれて、手に取ってしまう人は多いはずです。では、養殖の魚、ゲージで飼われているニワトリは、私たちにとって不健康な食材なのでしょうか。食材の生産について考えてみましょう。

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川添 前回に引き続き、「パッケージから知る食品加工の世界」をテーマにお話をお伺いするのは、生活科学部 食物栄養科学科 特任教授で、食品加工学がご専門の西村公雄先生です。本日もここ京都にあります同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは西村先生、よろしくお願いいたします。

西村 はい、お願いいたします。

川添 いよいよ第3回になり、本日は天然と養殖……天然ものという言葉と養殖ですけれども、こちらについて詳しくお伺いしていきたいと思います。

前回は食品添加物についてお聞きしまして、今度は天然、養殖ということなんですけれども。私自身はあまり天然もの、例えばお魚とかを食すことが少ないので、ほぼほぼ、多分養殖のものを食べてるのかな、というような日常です。なんとなく今、私自身が持ってるイメージだと養殖のものは姿とか形とか、味なども含めて、どれを選んでも当たり、はずれがない、安定しているものという印象を持ってまして。一方で、天然のものはすごく貴重なものというイメージを持ってるんですけれども。このあたり、それぞれの良さだったりとか、違いだったりを、先生に詳しくお伺いしたいなと思っております。

西村 はい、そうですね。たまに見るテレビ番組ですけれども、インタビューがなかなか面白くてね。(インタビューで)おばさんに「魚と肉と、どっちを食べますか」って聞いたら、即座に「肉」って言ったんですよ。その理由はというと、「魚なんて何食べてるかわからないじゃない」。そこでみんな笑ったんですけれども、ある意味、とっても真理をついてるなと、私は思ったんです。というのは、もちろん、天然ものは非常に価値があるとされているんですけれど、アニサキスっていう寄生虫ご存知ですか。

川添 最近、食中毒とかで聞くようになりました。

西村 そうですね。大体2センチから3センチの長さの、白色の少し太い糸状の寄生虫なんですけれども、サバとかアジとかサンマとか、そういったものに寄生しているんですね。それを万が一食べますと、数時間から10数時間後にみぞおちに激しい痛みが出てきたり、吐き気とか嘔吐が起きるものなんですけれども。こういう寄生虫を持っている可能性があります、天然のものはね。

(そして)養殖のもの。もちろん海の中で飼ってたら、こういうふうなものも(寄生する可能性があります)。このアニサキスというのは、その卵をオキアミみたいなものが食べて、それをサバとかアジが食べてとなりますので、普通の海で養殖してると、寄生する危険性があるんですけれども、(タンクのような)クローズのところで養殖しているものは、エサもアニサキスがないようなもので養殖してますから、かなり安全に食べられるということになります。

ですから天然のものは、こういうふうにちょっと寄生虫の問題がありまして。もちろんきちっと管理はされてるんですけれども、でもやっぱりよく聞くでしょ。

川添 ええ、聞きますね。

西村 ということは、ちょっと難しいこともあるのかな。普通、寄生虫は(魚の)おなかの中にいるんですけれど、鮮度が悪くなると筋肉のほうに移るんですよ。それを刺身なんかで食べちゃうと、食中毒になるということになります。

それから最近流行りのジビエですね。学会でも皆さんよく発表されているんですけれども、これも食中毒が起きています。クマ肉のロースト赤ワインソースね。クマの肉を食べようって、それ自身は別に構わないんですけれども、やっぱりこれも加熱がいまいちだったんでしょうね。トリヒナという寄生虫がいまして、これによる食中毒が起きたということも報告されています。ですから天然とか野生とか、そういうものを食するときには、やはり十二分に加熱をするというところは大切かなと。

それとお魚を摂られる方にはちょっとショッキングかもしれませんけれども、厚生労働省からのパンフレットがありましてね。「これからママになるあなたへ―お魚について知っておいてほしいこと」 (というパンフレットに)「お魚はからだに良いものです」「でも妊娠中はちょっと注意が必要です」(と記載されています)。

魚っていうのは、オメガ3系列の脂肪酸……ちょっと難しいんですけれども、ドコサヘキサエン酸、聞いたことあるでしょう。

川添 はい。

西村 それからイコサペンタエン酸、一般的にはエイコサペンタエン酸とも言ってるんですけれども、こういう脂肪酸は血栓を防止するんです。だから健康にいいと言われて、(たしかに)そういう成分も含んでいるんですけれども、残念ながら、その食物連鎖の上にいる魚、クジラとかイルカも含むんですけれども、そういう魚は食物連鎖の一番上にいますから、自然界に存在する水銀が取り込まれて濃縮されている可能性が高いんですね。

そうするとこの水銀っていうのは、我々の世代ですぐ頭に浮かぶのは水俣病です。

川添 公害ですね。

西村 そうですね、有機水銀で体が動かないような、脳性麻痺とか体が震える、あるいは水俣病で生まれてきたら初めから体が動かないような重篤な病になりました。そういう原因物質の水銀が、残念ながら食物連鎖の頂点にいるようなキダイとかマカジキとか、そういうふうなものにはちょっと濃縮されていますよ、ということを厚生労働省が注意を促しています。

これも天然の魚には、そういうふうな危険があるということですね。でも特に注意が必要ないものもありまして、キハダとビンナガとか、ツナ缶は大丈夫です。サケ、アジ、サバ、イワシ、サンマ、タイ、ここらへんは大丈夫。ブリも大丈夫ですから、我々が普段食べてるのは大丈夫なんですけれども、ちょっと大きめのやつ。

川添 大きめのやつ。

西村 はい、これは注意が必要だと。ただ、これも養殖というクローズのところでやりますと、こういう危険性はないですね。

また鶏にしても、それから牛にしても。鶏もアニマルウェルフェア(※)ということが言われて、ああいう小さなところで飼うのは、動物に対して悪いと、最近は言われてるんですけども。
※アニマルウェルフェア…動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態

“食べる”という観点からすると、(飼われている鶏は)非常に管理されていまして、食べる飼料も非常に安全です。寄生虫も病気もないものを食べてるわけですから、我々にとっては安全な肉が食べられる。そして流行りの平飼いですよね。(敷地内で)いろんなところに行って(エサを)食べる。そういうのはやっぱり寄生虫もいますし、多くの鶏は病気を持ってる可能性も高いです。ですから、きれいにさばいて、ちゃんと食に供することができれば全く問題はないんですけれども、どんなものでも天然の方が上で、それから養殖の方がちょっと下っていうのは、健康リスクということを考えると少し違うのかなという気はいたします。

ただし、おいしさですね。プロに聞きますと、タイがあるじゃないですか、天然のタイ。これは甲殻類を食べている。エビとかね。そして養殖のタイ。(こちらには)安物のイワシを食べさせる。そうして(漁をしてタイが)死ぬでしょう。死んでからちょっと、うまみが出てくるんですよ。どの辺までかというと、死後硬直で硬くなるところまで。

これは魚によって時間が違うんですけれど、早いもので2時間かな。長いもので7時間ぐらいかかるんですけど、その間にちょっとうまみが出てくるんですね。天然のタイはオキアミとか甲殻類のエビとか食べてますから、そういう香りとか味が出てくるんだって。

川添 へぇ(驚き)

西村 養殖のやつはイワシの味がするんだって。

川添 食べているものによって、違うんですか?

西村 はい、そういうことをおっしゃってましたね。ですからいわゆる活魚というのは、鮮魚店で締めて、すぐに刺身にするんですけれど、そうするとイワシの臭いが出ないうちに、すぐにおしょうゆにつけて食べてもらうと、おいしく食べられるというようなことを、プロの人は言うてはりました。だから一長一短あるかな。でもリスクということで考えると、やはりきちっと管理されている養殖とか、養鶏場で飼われているほうが、リスクという点では安全かなと。

だからといって天然ものが危険と言うんじゃなくて、おいしさという点からすれば、そっちの方がおいしいのかもしれませんね。

川添 はい。おいしさと、あと安全というところと、いろんな軸で見方があるのかなと思いますが、加熱をすれば、基本的には危険というのは、かなり低下されると。

西村 寄生虫はもう加熱すれば大丈夫です。物によっては加熱しても、ちょっと危ないものもあるんですけども、それはもうマイナーなので、あまり気にされることはないかなと思います。ボツリヌス菌という菌がありまして、これは空気がないところでどんどん繁殖するんですよ。

ボツリヌス菌を出す有害物質は、熱をかけてもなくならないです。菌は死ぬんですけれども、ボツリヌス菌を出した有毒な物質が残るので、それで食中毒が起こります。そういう例はあるんですけれども、寄生虫の場合はまず熱をかければ大丈夫で、病変はきれいに切り取れば、まず大丈夫だというふうに思います。

川添 はい、ありがとうございます。先生がテレビ番組のお話をされたので、私も今、お話聞をきながらフト思いを出したことがあって。最近、田舎で自給自足の生活をするご家族だったりを取り上げる番組を見かけることが多くなっているんですけれど、大体そこで出てくるのって、ニワトリを自分で飼われてとか、お野菜作られている(ケース)も多いかなと思います。あと海のほうに魚釣りに行かれて、とにかく食材を自給自足されているっていう方がよく取り上げられているので、そういった(天然もののように)自然に近いことがメディアを通してより一層、“何かいいもの”っていうふうに表現されていることが、段々多くなってきてるのかなと、見ていて思うこともありますね。

西村 自然とか天然とか言うと、何か親しみがあって、皆さんいいのかなと思うんですけど、私の子どもの頃なんて、今よりも自然に近い生活してましたけど、みんな虫を飼ってましたよ。

川添 フフフ。

西村 検便したら、もうみんな虫がウヨウヨいて。

川添 そうですか(笑)

西村 だからそんな生活がいいのか、今みたいに衛生的な生活がいいのか、それはもう個人がお考えになったらいかがでしょうか? 私は今の方がいいな。

川添 そうですか。ありがとうございますこれまで3回にわたって食品パッケージの表示ですとか、さまざまな食の形を見てきましたけれども、次回は最終回となりまして、海外の事情もお聞きしながら、食の安全について考えていきたいと思います。今回は先生のお話、ありがとうございました。

西村 はい、どういたしまして。