年齢を重ねるごとにハッピーに。臨床心理学から探る、幸福度の高め方

年齢を重ねるごとにハッピーに。臨床心理学から探る、幸福度の高め方

日下 菜穂子

現代社会学部 社会システム学科 教授

#2 “生きがい”を改めて考えてみる【日下 菜穂子】

人生を豊かに生きるには“生きがい”が大切といわれています。改めて考えてみると、生きがいという言葉は大層な印象を受けます。そんな“生きがい”があると、私たちのココロにどんなことが起こるのでしょうか。日下先生が(研究)でシニア世代と関わる中から見つけた「生きがいの定義」について、お聞きしました。

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Transcript

川添 日下先生、よろしくお願いいたします。

日下 はい。同志社女子大学の日下菜穂子です。よろしくお願いします。

川添 前回は、「歳を重ねて幸福感がアップするのはなぜなのか」を、お伺いしてきましたが、今日は「人生を豊かにする生きがいづくり」ということをテーマに、お聞きしていきたいなと思っております。
私たち日常生活、家庭やそれから仕事で、みなさん日々、忙しくしていると思うんですけど、その中で、自分自身の生きがいをじっくり考えたりする機会が本当にない気がします。
(生きがいというと)例えば、私の親世代だと、孫が生きがいという方がいらっしゃったりしますが、先生が定義される“生きがい”を、お聞きしたいです。

日下 めちゃくちゃ広いテーマですよね。実は、前回の幸福についての話も、生きがいとすごく関係していて。大きくいうと、生きがいも幸福(の一部)ですよね。

川添 そうですね。

日下 今の質問の「生きがいって何ですか?」ということに一言で答えると……。実はこの質問、前もって聞かれていたんですね。それでちょっと考えていたんですよ。“何だろう…”と思って(2人笑)
私は研究で、「ワンダフル・エイジング」(のなか)で「生きがい創造プログラム」をやってまして。生きがいが研究の一番真ん中なんですけど、改めて生きがいって聞かれって“何だろう”って考えて、今日のために1個だけ用意してきたのが、一言で言うと、「心が動くこと」。

川添 心が動くこと。

日下 心が動いてるという状態が、すごく“生きてる”っていう実感があるんじゃないかなと思って。“あぁ、生きてる”というのが、そういう(生きがいという)感じかなと思っています。川添さんは、最近、何か心が動いたことってあります?

川添 心が動いたことですか。そうですね……。子どもが3歳になるんですけど、結構、言葉を流暢に使うようになってきて。“こんな言葉(で伝えられるようになったのか)、こんな感情を言葉で伝えられるようになったのか”と、すごくびっくりすると同時に、心が動いたというようなことが、最近よくよくあります。

日下 お子さんが発した言葉に。そうですね、お子さんとの関わりの中で心が動くことって、いっぱいありますよね。うちの子が最初にしゃべった言葉は「ヨッコイショ」でした。

川添 どこから聞いてきたんでしょう(笑)

日下 お子さんの成長の中で心が動くっていうことも一つですし、何か日々の中で心が動いてる、例えばそれがお風呂に入って、いいお風呂だっていうのも、いいですよね。

川添 そうですね。何か食べたときの、おいしいという気持ちも、そうですよね。

日下 最初のビールのひとくち(笑)

川添 それもいいです(笑)

日下 そういうふうに、生きがいっていろいろと言われてるんですよね。
あの神谷美恵子さんが執筆された『生きがいについて』はすごく有名ですし、フランクルの『夜と霧』も生きがいについてすごく語られているので、本当に奥深いんですけど、(生きがいを)簡単に説明すると、やっぱり生きてる実感、生きてるっていう何か実存感みたいなものが、言えると思うんですね。人が生きていることを感じるときって、何か(心に)動きがあって、ということなんです。その(心の)動きを何で感じるかというと、ちょっと先に“こうあってほしい”という願いがあるんです。

川添 はい。

日下 例えば、お子さんだったら“こういうふうに成長してほしい”という願いがあると、その願いにちょっとでも近づいたことが、うれしい感情になりますよね。

川添 そうですね。

日下 (うれしい話とは)逆に、失恋したときにも心が動いてるじゃないですか。失恋って嫌ですよね。川添さん、失恋したことないですよね。

川添 いえ、そんなことはないですよ(2人笑)

日下 失恋ってあれだけつらいのに、みんな失恋ソングを聞きまくるんですよ(笑)。わざと涙を流して歌うのは、それだけ熱く歌うんですよね。「失恋した!」みたいに、みんなの前で大きい声で歌ってるのは、やっぱり“生きてるぜ”っていう実感がある。
ポジティブであれネガティブであれ、心が動いてるということは、生きてる実感(につながること)なんだけど、“生きがい”はそこに前向きな要素が加わって、ちょっとでもその目的に近づけたことを喜んでいる状態、じゃないかなと思うんです。
目的ってあまり普段気がつかないので、(目的に向かって)自分が何を願ってるかって気づかないじゃないですか。だけど、その心が動いたときに“自分は本当にこれが好きなんだ、こうなってほしいと思ってたんだ”と思うんです。

今、コロナ禍でできないことが多くなっていますが、その目的ってね、うまくいってると気づきにくいんだけど、うまくいかないときに“こうだったらいいのにな”って、目的のことがわかるから、実は生きがいって、若くて元気で、生き生きしてるときって気づきにくいんだけど、(今回のコロナ禍で自由がきかないような)うまくいかないときに、ちょっと見えてくる。

私、もともとはベースが精神分析とかだったのですけど、(その中に)欲求圧力分析というのがあります。欲求というのは(普段)あんまり出てこないんだけれど、(心身に)圧力やストレスがかかったときに、自分が本当に欲しいこと、やりたいことが見えてくるという分析法です。わざと対象者の方にすごい暗い絵とかを見せて、「この絵では、何が起きてますか?」と(聞いて)、ストレス状態の中で、自分が何をしたいかを言ってもらうテストのようなものがあります。倫理的に触れない程度の絵ですが、ストレスな状況に置かれ追い込むというね。

コロナ禍でみなさん、やりたいことを我慢してる状況なんですが、でも、みんなが不幸かといったら、物理的に不幸という人は大変困った状況ではあるのだけど、心が満たされてないかというと、意外と家族の温かさに気がついたとかね。本当に大切なものが何かわかったって、おっしゃる方が多いんです。
だからどんな状況であっても幸福になることはできるし、生きがいを感じることができるということが、今の状況からも言えるのではないかと思っています。

川添 このコロナ禍が2年、3年と続いていますが、我慢が続いているとか、今まで当たり前にできたことができなくなっているという中で、この状況が解消されたら“こうしたい”“ああしたい”とか、“ぜひ、こうしよう”というのが、もしかしたら前向きな意識として、生きがいに繋がっていくのかなと、先生のお話を聞きながら感じました。

日下 本当にそうですね。おっしゃる通りだと思います。

川添 そうなんですね。これから先、コロナの時代が開けてということもありますし、歳を重ねていくにつれて生きがいをこれから見つけていきたいと(思っておられる)、この放送を聴いてくださっているリスナーのみなさんに、先生の臨床心理学の視点からヒントみたいなことをお聞きできればと思うのですが、いかがですか。

日下 今、言ってくださったように、自分が何したいかとかいうのが見えてくる、というのがありましたけれど、意識の持ち方なんですよね。特に30代、40代ぐらいのときって一生懸命だと思うんですよ。今、目の前のことをするのにね。お子さん育てたりとか、仕事したりとか一生懸命のときに、「何のためにやってるのかな」「どういうふうになりたいのかな」「このことを通して、私はどんな未来を描きたいのかな」って、ちょっと立ち止まって考えてみる。その“何のために”ということを少し意識してもらうと、いいのではないかと思います。
(先ほど、欲求圧力分析やコロナ禍の話で)ネガティブな状況だと、(自分のしたいことが)見えやすいと言いましたけど、ポジティブなときでも、例えばお子さんがしゃべったときに、「もっとこうなってほしい……それはなぜかな」と考えると、目的がちょっと見えてくると思うんですね。

川添 そうですね。

日下 目的を意識すると…そこ(目的)を見つけるのが生きがいなので、それはなかなか難しいんですけど、ちょっと言葉に出してみる。例えば、一生懸命やってる30代のときって、子どもさんがいて、仕事もしていて、手伝ってほしいなと思ったときに、(周囲の人に)「どうしてやってくれないのよ」という言い方をしちゃうと、なかなかみなさん、一緒にやってくれないんです。味方をつくるときに、「何のために、私はこういうふうにしたいと思っているの」って(言ってみる)。例えば、「仕事をすることが、周りの人を喜ばせているから」とか、「この地域のためにやろうと思って」とか、何のためにこれをしたいということを(周囲に)話すと、そこに共感してくれる人が必ず出てくるはずなんですね。自分が今やってるタスクというよりも、この目的や夢を語ると、そこに共感してくれる人がいて、その人が仲間になってくれる可能性があるんです。
味方をつくるのがうまくいかないときは、「あなたは、なぜしてくれないの」って、あなたが主語になっているんです。でも、自分の夢を語るとき、“何のために”を語るときは、主語は私でしゃべっているんです。「私はこういうふうにしたいと思う」「私はこうだったらいいのにと思っているから、こうしたいけれど、今ここで困ってるの」と言うと、全部私が主語なんです。そうすると周りが「こんな協力ができるよ」とか、「実は私も同じだから、一緒にやろうよ」となってくる。(言葉にすることで)自分がやりたいことが明確になるし、周りの人も助けてくれるという、いい関係ができていくと思うんですよね。

川添 なるほど。

日下 そういうことでなんとか30代を乗り越えて、次の40代に向かっていただく。50代、60代になっても、多分、このやり方って一生使えるんじゃないかと思ってます。

川添 本当ですね。忙しい毎日かもしれないですけど、その中でちょっと立ち止まって、心を落ち着けていく、何のためにということを少し考える意識を持つというだけでも、変わるのかなと思いますし、周りに自分からどんどん働きかけるというか、発信していかないといけないのかなと、お話を聴いて感じました。ありがとうございます。

日下 意外と“何のために”という会話は家族の中でもしていなくて、親子間でもそうなんですよ。(例えば)お父さんが一生懸命働いておられて、おうちにいる時間も短くて、頑張っていらっしゃる。そういうのを見て、子どもたちが“お父さんは、何でそんなに一生懸命働いていたのか”というのを、全然、話も聞けていなくて、亡くなる直前にそういう話を聞きました、という方もたくさんいらっしゃいます。でも、もっと早いときに(お父さんが一生懸命働く理由が)わかっていたら、「お父さん頑張って」とか「一緒にやろうよ」という話になっていたんじゃないかと思うんです。そういう会話を、今、家にいる時間が長いので、ご家族でされるといいかなと、思ったりしますね。

川添 ちょっと、私も心がけてみたいかなと思います。ありがとうございます。
本日は「ワンダフル・エイジング」をテーマに、「人生を豊かにする生きがいづくり」を日下先生にお伺いしました。次回は、「40代から始める素敵に歳をとる準備」にスポットを当てて、お話を伺っていきたいと思っております。本日は先生、どうもありがとうございました。

日下 どうもありがとうございました。