音楽療法士がおくる、自分を大切にするための処方箋

音楽療法士がおくる、自分を大切にするための処方箋

北脇 歩

学芸学部 音楽学科 准教授

#1 音楽療法士はなにをする人?【北脇 歩】

今回お話を伺う北脇先生は、大学で教鞭をとる一方で音楽療法士として医療機関などでも活動されています。では、「音楽療法士」は何をするのでしょう。その活動をお聞きし、“音楽体験が療法となること”について考えます。

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川添 今回は、学芸学部音楽学科准教授で音楽療法がご専門の北脇歩先生に、「音楽療法士がおくる、自分を大切にするための処方箋」をテーマにお話を伺います。全4回にわたって、ここ京都にあります同志社女子大学のキャンパス内からお送りしていきます。それでは先生、よろしくお願いいたします。

北脇先生は、音楽学科で音楽療法士として学生を指導されています。早速ですけれど、音楽療法士という職業のお話を、まずお伺いしたいと思います。どのようなお仕事なのでしょうか。

北脇 ありがとうございます。早速、質問返しになってしまうんですけれど、川添さんは音楽療法士とは、いったいどういう仕事だと思っていらっしゃいますか。

川添 私はですね、少し興味があった時期がありまして、音楽療法士という仕事に。本当にもう過去をさかのぼって何十年も前の話なんですけれども。どうして興味を持ったかというと、もともと音楽を小さいときからやっていて、その音楽を使って、療法なので、癒しというか、すごく明るいイメージのお仕事。なんていうんでしょうか、うーん……少し言い方が難しいですね。すごく楽しそうなお仕事にも感じていましたし。

北脇 そうですね。

川添 どういう場面で(音楽を)使うかというお話でいくと、そのとき知った知識では、ご高齢の方を対象にしたような(場所で)、みんなで音楽を楽しみながら、気持ちもちょっと前向きになる、明るくなるような、そういう役割が音楽療法士という仕事なのかなと思って、興味を持った時期がありました。

北脇 ありがとうございます。興味を持っていただき、うれしいですね。間違ってはないんです。それも広い音楽療法の枠組みの中の一つだと、考えていただいていいかなと思います。

川添 はい。

北脇 まず一番最初に考えなきゃいけないのは、われわれは、日頃から音楽を健康維持のために活用することって、多分、個々でやっていると思います。

川添 はい。

北脇 例えば気分転換のために音楽を聴くだとか、カラオケに行く方も多いじゃないですか。最近は(コロナも落ち着いて)また行き始めているのかなと思うんですけれど。コンサートにも行きますし、そこで一体感を得ているのが良かったり。自分でできることで、(音楽による)健康維持をされている方はおそらく多いんですけれど、音楽療法士はそれで補いきれないところをサポートします。

例えば、気分が落ち込んでいる方だと、友人に話を聞いてもらうとかで、落ち着く方もいらっしゃるかもしれません。でもそれが、抑うつ傾向になるとか、生活に支障が出てくるとなると、友だちでは難しくなっていきます。

川添 はい。

北脇 そのときは、カウンセラーに会う、カウンセリングを受ける。(われわれ音楽療法士の役割は)そういった関係性に近いかもしれないですね。ただ、今、カウンセラーと言いましたけれども、実はわれわれもカウンセリングの機能というのは使いますが、(音楽療法士は)カウンセラーではありません。これはまた、後で話をできたらいいかなと思うんですけれど、カウンセラーは言葉を使いますが、われわれは言葉以外にも音楽をコミュニケーションの一つとして使うところが、大きな違いかなと思っています。

川添 なるほど。だから音楽は一つの手段、方法という意味合いで使っていくということなんですね。

北脇 そうですね。

川添 (音楽療法を)使う場面であったり、活動の場所というのは、どういうところで実践をされるんですか。

北脇 それも先ほどおっしゃってくださった、高齢者施設などの場所という考え方もあるんですけれど、われわれは実はその逆を考えていて。

セラピーが必要な人がいれば、その人が(セラピーを)受け入れるのであれば、私たちはその人のために、セラピーを行う。それは病院に行くと自動的に、そういう人たちが多いかもしれない。

川添 なるほど。

北脇 でも、また違う角度で見ると、例えば街中で歩いているときにすれ違っている人たち(の中に)も、実は(セラピーを)必要な人がいっぱいいるかも知れない。

川添 ああ、そうですね。

北脇 ただ、私たちはそれを押し売るつもりはもちろんないですし、ただ、必要な方がいらっしゃれば、その人の前で、その人と一緒にセラピーを行っていく。ただ(訪問先が)高齢者施設であるとか、支援学校とか、医療現場だったりとかすると、そういう方が比較的多いのかなという印象です。

川添 なるほど。高齢者施設、それから支援学校ですか。あと、例えば病院とかもあるんですか。

北脇 そうですね。私自身は専門が医療現場であるとか、そういうところでの実践が主なので、基本は医療施設なんですけれども、高齢者施設でも、いろいろな症状の方がいらっしゃると思います。リハビリを受ける方や、そのタイミングであるとか。だいぶ終末期に近い方もいらっしゃいますので、場所とか年齢とかというよりも、「その人が何に困っているか」ということに対して、どういうアプローチで支援をするかいうことが判断できるかどうかというのは、多分われわれの専門性かなという話になりますね。

川添 なるほど。(セラピーを受ける)その人にお会いしてみないとわからない、ということですか。

北脇 まさにその通りなんです。私たちは(演奏)準備していったことを披露するわけではなく、いろいろなことができるように準備をするという感じです。

川添 そうなんですね。音楽療法士の方と、その目の前にいらっしゃる、必要とされてる方と、基本は1対1で(セラピーを)行うという考え方なんですか。

北脇 それもその方とか、その方々が何を求めてらっしゃるのか、何に困っているかによるんです。例えば1対1が、確かにいいんです、その人に合わせられるので。ただ、ある方は、もしくはその周辺の人たちは、すごく孤立している。例えば旦那さんを亡くした高齢の奥さまが、一人自宅に住んでいる。社会とのつながりがなくなってしまった方たちの場合、そういう方が一緒に集まって音楽を通してつながっていくことがニーズになっていくのであれば、集団でやるほうがいいですし。

川添 そうなんですか。

北脇 ただその人、個人でまず話をしたほうがいいのかもしれませんし、それは状況によるという感じですね。

川添 ああ、そうなんですか。

北脇 それもオーダーメイドというか。

川添 そうですか。さまざまなアプローチの仕方があるんでしょうけれど、例えば具体的に、私たちが聞いてイメージしやすい、(音楽療法で)「どのようなケアをする」「どんなケアをされているのか」というエピソードで、お聞きできることがあればお願いしてもいいですか。

北脇 そうですね、どうしても音楽療法って、音楽を聴いて(療法を)受けているというイメージがあると思うんですけれど、実はこれは本当に一部です。音楽をツールにするのですが、音楽を聴いてもらうこと以外にも、音楽に参加をすること。

川添 参加をする。

北脇 その参加の仕方も、演奏することだったり、歌うことかもしれませんし、ひょっとしたら一緒に音楽を作るかもしれないし、音楽を聴いて、それについて語るかもしれないじゃないですか。

川添 ああ、なるほど。

北脇 そうしたら、その音楽に合わせて動くかもしれないじゃないですか。リハビリの歩行訓練は、確かに動きに対して行います。先ほどの内面の部分だったりすると、カウンセリングとか心理療法的な考え方、アプローチが必要になってきますし、あと、社会面というのも考えたほうがいいというのが、先ほどの話ですし。

川添 はい。

北脇 なので、その人がどういう音楽を好きで、あと、どういうことをこの人はすると、その音楽がその人の何かを引き出せるのかという意味で、まずアセスメントをする感じです。

川添 ああ、そうなんですね。今、お伺いして「そうか、音楽について語るということも(音楽療法では)あるんだな」というのが、すごく目からウロコだったんですけれど。

北脇 そうですね。

川添 何となくですけれど、音楽を一緒にやるということが、大前提にあるのかなと、勝手な印象がありました。

北脇 それもあるんですよね。ただ、その音楽の中で何かが起こり始めたときに、それを言語化すると、さらにそのセラピーが進んでいくかもしれないじゃないですか。

川添 はい。

北脇 一例を言うと、例えば認知症の方。音楽を使うことによって、音楽で関わることによって、いろいろなことをもし思い出せたとしたら、その方は多分そこから語ることができると思うんです。なんなら、その横にいる人とそれがシェアできるかも知れない。

川添 ああ、そうですね。

北脇 そうすると、社会性が高まるとか。個人的な例で言うと、自分の息子さんの名前も忘れてしまった方がいたんですね。

川添 はい。

北脇 でも音楽を使って過去を思い出すことができると、息子さんの名前を思い出せたんです。

川添 へえー!

北脇 息子さんの名前を息子さんの前で呼べるって、すごく大事じゃないですか。本人もそうですし、息子さんが多分、本当にうれしかったと思うんですね。

川添 そうですね。

北脇 それも毎回繰り返していくと、意外と思い出してくれる率が高くなって。だから本人にとってもセラピーだし、息子さんにとってもセラピーになっていく。そういう例もあります。

川添 そうなんですか。いや、すごくびっくりしました。音楽療法士というお仕事、職業に関してのイメージというのが、音楽を実践する、実践してあげる人というイメージが強かったんですけれど、そうではなくて、音楽が一つのツールであって、どちらかというと、人と人との関わり方というところの中で、音楽をどう生かしていくかという、そのあたりがすごく大事なお仕事なんだということが、すごくよくわかりました。ありがとうございます。

北脇 ありがとうございます。

川添 次回からも引き続き先生にお話を伺っていくんですけれども、今度は音楽療法士というお仕事のお話とは別で、「心身に働く音楽の力」ということで、少しポイントを絞ってお話を伺っていきたいと思っております。引き続きよろしくお願いいたします。

北脇 よろしくお願いいたします。

川添 本日はありがとうございました。

北脇 ありがとうございました。